第3話 恋愛の経済学
7 恋愛の経済学
「ナンバー5、待っていたよ。」
生徒会室にあの阪神タイガース帽の太っちょ少年を迎えて、ナンバー1こと藤原京也くんは優雅な手振りで椅子を勧め、ついでに高級葉巻を差し出した。
「おおきにどうも。」葉巻に火を点け、大きく煙を吸い込み、それをゆっくりと吐き出しながらナンバー5こと御堂秀吉(みどう ひでよし)くんは言った。「やっぱ、東海道新幹線のぞみ号は速うおますな。昼過ぎに大阪を出て、もう着いてもうた。それに乗り心地もええ。特にグリーン車は最高や。」
「マニアだな。相変わらず鉄道を乗り歩いているのかい。」
「まあ、ボチボチだす。でも最近は、株やら債券やら外為やら忙しうて、もっぱらタクシーや。近鉄特急にもよう乗れまへん。」
「金儲けに大忙しか、実にいい傾向だね。」
「ありがとさん。で、聞いたんやけど。」ナンバー5は葉巻から口をはずし、細い目をいっそう細くした。「ナンバー2がやられたんやて。」
「それどころかナンバー3もやられてね。それで君に来てもらった。」
「まあ、あの二人はアホやさかい、やられたのはしゃあないわ。で、わいに出撃の順番が来たちゅうんやな。」
「そうだ、是非頼む。」
「そういうことなら、任しとき。」ナンバー5は、ウワッハッハと豪快に笑ってみせた。
「ところでナンバー4はどないしとる。」
「彼も相変わらずさ。よく働いてくれているよ。」
そこへちょうどナンバー4の加藤祐一郎くんが一杯の書類を抱えて入って来た。そして、ナンバー5の御堂くんを目にして、わずかに顔を歪めた。
「久しぶりやなあ、ナンバー4。相変わらずマメやな。」
「下手な関西弁はよせ。」4は書類を机の上に置き、ろくに5の顏を見ようともせずにそのままパソコンの電源を入れて、キイボードを叩き始めた。
「本当、相変わらずだなあ。」そう言いながら、5は阪神タイガースの帽子をぽいと投げ捨てた。「これで結構、関西弁をマスターしたつもりなのにな。」
「金儲けのために関西弁の習得にまで励むとは、君も4に劣らずマメじゃないか。」ナンバー1はニヤリと笑った。「それにタイガースのファンにもなって。」
「違うよ。野球になんて興味ない。俺が野球で興味あるのは、選手の年棒の数字くらいだ。だがまあ、関西の連中をうまく丸め込むには、関西弁と阪神タイガースは最低限の要件だからな。」
「その甲斐あって、天才少年相場師の噂は僕のところまで流れてきているよ。相当儲けたんだろう?」
「まあね、しかしその代償も大きかった。いろんな奴と会食の連続でね、この通り見る影もなく太ってしまったよ。まあ、大阪は食い倒れの地だからな。」5の御堂くんは自分のほっぺたの肉をつまんで見せた。
「ところでナンバー5、君はどうやってターゲットを攻略するつもりだい。」
「もちろん、経済力で、さ。」ナンバー5は阪神タイガースの帽子を被り直した。「なんというても、しょせん、人間はカネやさかいな。」
「金の力で人の心までは買えないよ。」4がパソコンの画面から目を離そうとせずに言った。
「相変わらず青臭いことを言いよる。もちろん、単純に札束で相手のほっぺた撫でるだけじゃダメや。カネには遣い方がある。買収には買収の仕方があるねん。」
「恋愛を買収することなど、できるものか!」4は鋭い目で睨みつけた。しかしこれにかえって刺激されて、5は一気にまくしたてた。
「アホが。おんどれに此の世界の真理を教えたるわ。ええか、よおく聞きなはれ。此の世で金を儲けようと思ったら、額に汗して真面目に働くのはダメや。真面目に働いたって、十金しか手に入らん。商売もダメや。右から左にモノを流して利ざやを取っても、せいぜい百金や。相場もアカン。勘働きを良くして相場を当てたって、せいぜいが千金、しかも一発勝負で後が続かへん。ええか、百万金億万金をいつまでも儲け続けようと思うたならな、買収するんや。役人やら政治家やら誰でもええ、権力を持つ奴に賄賂を渡して、利権を手に入れるんや!本当の金持ちは、愚かな連中が必死に働いて生み出した利益の上前をハネる権利を手に入れて、それで一生を豪勢に暮らしていくんや。利権はなんでもええ。石油だろうが、道路工事だろうが、販売の権利だろうが。とにかく権利という名前の公金吸い取りシステムを作り上げた人間の勝ちなんや。ええか、ワイはな、それに十二の歳で気が付いたんや。おんどれのような、十七にもなってまだ此の世の中のことを何も知らんガキとは違うんやで!」
「そうか、金儲けの真のコツは、買収かね。」ナンバー1は快活に笑った。
「そういうことや。ワテの相場の勝利かて、買収で内部情報を得るというのが種明かしの一つなんや。せやから、買収がツボなんや。でもな、ただ金を差し出しても、半分くらいの人間は警戒してよう受け取らん。だから、買収するには金をやるんやない。カネを貸すんや。借金させるんや。うまいこと言うて、だまくらかして、金を借りさせるんや。そうして、無駄遣いさせて、贅沢を覚えさせて、抜けられんようにするんや。」
4はじっと5の顏を真正面から見つめ、そして吐き捨てるように言った。
「下衆だ。」
「なんやて。」5の表情が瞬間凶暴さをさらけ出した。だがすぐに人の良さそうな笑い顏に戻った。しかし加藤くんはそんな芝居には騙されずに決然と言い放った。
「御堂、君が鬼首久美くんに何か悪事をするつもりなら、この僕が全力で阻止してやる!」
この迫力に押されて、ナンバー5の御堂くんは思わずナンバー1に救いを求める視線を送った。そこでナンバー1は苦笑しながら、二人の中に割って入った。
「まあまあ、喧嘩はよせよ。それにね、ナンバー4にはやってもらわなくてはならないことがある。ほら、例のボランティア関係でね、○○国の貧乏人どもが額に汗して作った製品を輸入して日本で売る話、あれの手続きとか交渉とか、ナンバー4以外にできる人はいないんだ。」
「しかし・・・」4の顏に焦りの色が浮んだ。
「ほらほら、せっかく貧しい親達が子供達を食べさせるために苦労して作り上げた製品なんだよ。僕の父が買ってやらないと、彼らの努力は全て無駄になるんだよ。全ては君の肩に掛かっているんだ。君がやるしかないだろう。それに、ナンバー5にはそれが一段落するまでは手を出させないから。これでいいだろう?」
「本当だろうな。」4は苦しげに言った。
「もちろんだ。さあ、早く行きたまえ。僕の家の執事のセバスチャンが待っている。彼は君のことをたいそうお気に入りだよ。」
ナンバー1はそう言って、まだ思いを残している4を無理やり追い出した。4を見送ってから、5が憮然として言った。
「4に邪魔させる気イか。」
「バカな。ナンバー4に言ったのは嘘だよ。」ナンバー1は平然と言ってのけた。「もちろん、君にはやってもらうさ。」
「そうか。しかし、4はアホやない。きっとナンバー1の言うことを信じないで、警戒しよるで。でもワテ、正直言うて腕っぷしではとても4には敵わん。困ったことや。」
「そう思ってね、実はナンバー6を呼んである。ナンバー4にはナンバー6をぶつければいい。」ナンバー1はふうっと煙をナンバー5の顏に吹き掛けた。
「そうか。しかし・・・」煙を払おうともせずに、5はぶつぶつと口の中でこね回した。
「なにか?」
「いや、ナンバー6は確かに腕っぷしでは右に出る者はおらへん。なにせ十七歳にして外国の総合格闘技大会で優勝してるくらいやからな。けど、アイツはカネに汚いねん。いくらナンバー1の命令かて、タダではよう動かんやろ。」
「大きく金を儲けようという男が、ケチなことを言うもんじゃない。カネは遣い所が肝心だよ。」
ナンバー1はぽんと小切手帳を机の上に放り出した。
「金は僕が出そう。この小切手帳に、今度の仕事の報酬としてナンバー6が受け取るに相応しい金額を書いてくれ給え。」
ナンバー5はしばらく考えて、100,000円、すなわち十万円と記した。ナンバー1はそれを見ると笑いを大きくし、黙って十万の前に1をもう一本入れて、百十万円にしてしまった。
「こういうことだ。安心してやり給え。」
ナンバー5は眼を剥いてナンバー1を見つめてしまった。そこには、ナンバー5の驚きの表情を見るのが嬉しくてたまらない藤原京也くんがいた。
久美ちゃんは学校を休んで丸二日、部屋に籠り切りでいた。もう気が動転して、何が何だか分からなくなっていた。大好きな藤原くんのことを親友二人に思い切り悪口を言われた。そしてあの訳の分からない罠にも、なぜか藤原くんの声が使われていた。今でも耳に残っている。
(藤原だ。鬼首さん、助けて・・・)
あれは確かに藤原京也くんの声だった。久美ちゃんはあの告白以外には直接話したことはほとんどなかったけれど、生徒会長の演説で声を何度も聞いたことがある。聞き間違えることはない。
(でもどうして藤原くんの声があんな罠に使われていたんだろう。)
ここまで来て、思考が止まる。この二日間はこの堂々巡りだった。そこから一歩先、すなわち藤原くんが草薙の罠に協力していた、という結論にはどうしても足を踏み入れたくなかった。しかし他にいい理由が思い浮かばず、久美ちゃんは煩悶していたのだ。
久美ちゃんは寝返りを打った。と、そこへノックの音がして、二番目の兄さんが入ってきた。そうして、おかゆと一緒に手紙を持ってきた。兄さんは、おまえの友達も心配してるんだから、失恋くらいでいつまでもウジウジするな、と暢気な説教を残して出て行った。
久美ちゃんは手紙を見た。それは速達で、親友の幸美さんからだった。久美ちゃんは封を切った。切って、心臓が止まるかと思った。「藤原京也より」という文字が目に飛び込んできたからだ。久美ちゃんはベッドから起き出して、机に向かった。そうして二三度深呼吸してから、ヨシと軽く気合を入れて読み始めた。
「鬼首久美さんへ。
ごめんなさい。最初に僕は君に謝らなくてはならない。この前君は僕のことを好きだって言ってくれた。とても嬉しかった。本当は君とお付き合いをしたかった。でも僕は興味ない、と言ってしまった。それで君を随分と傷付けてしまったと、僕と君の共通の友人である真田幸美くんから聞きました。でも分かって欲しい。あの時はああ言わざるをえなかった。たとえ僕が君と付き合いたいと思っていたとしても・・・
はっきり言いましょう。僕は今、とても危険な連中に狙われているのです。それで君と僕が付き合うようになれば、君にまで迷惑が掛かるかもしれない。そう思って、心を鬼にしてお断りしたのです。そうです、僕は一人で戦うつもりだった。君を巻き込むことをせずに・・・
しかし敵は強大でした。残念ながら、到底僕一人の手に負える相手ではなかった。僕の父も祖父も彼らの魔手によって事実上その自由を奪われています。そして遂に僕にも・・・どのようにして僕が彼らに屈してしまったか、それは僕の名誉のために聞かないで下さい。ただ言えることは、彼らは僕の家族が邪魔なのです。僕の祖父は政治家として警察関係の充実に長年尽力してきており、それが彼ら犯罪組織にとっては許しがたいものになってきたのです。
とにかく時間がありません。情けないことは自分でも分かっています。また、ひどく傷付けてしまった君に頼める筋合いのものではないことも、重々承知の上です。だから、この手紙も、友人である真田くんの名前を借りて送るのです。僕の名前では君は開封さえしてくれないかもしれないから。
それでもお願いです。僕と僕の家族を助けて下さい。もう君に頼る以外の道がないのです。僕の友人の御堂くんという人に会って、僕が危険な状態にあると伝えて下さい。彼は警察との連絡係で、彼にそう言ってもらえさえすれば、警察がしかるべく動いて僕たち家族を助けてくれる手筈になっています。
重ねてお願いします。御堂くんの電話番号は○○○―○○○―○○○○です。是非、すぐ連絡して下さい。お願いします。
藤原京也より 」
久美ちゃんはスマホに飛びついた。そして震える手つきで、手紙にある番号を押した。一回呼び出し音が鳴っただけで、すぐに相手は電話に出た。久美ちゃんはすぐさま藤原くんが危ないと言った。だが、相手はダメや!と厳しい声で言い返してきた。
「電話じゃあかん。長く話すと感づかれて盗聴されてまう。今から学校の屋上で。」
それだけ素早く言うと、相手は名乗ることもなく切ってしまった。久美ちゃんは迷わず外着に着替えて、行ってきますも言わずに家を飛び出した。
テニス部の活動を終えてから、少し残っていた生徒会の仕事を片付けようと真田幸美さんが生徒会室に向かっていた時だった。廊下を曲がったところで生徒会委員の一年生の女子にばったりでくわした。一年生の女子は、ああ先輩よかった、と言って幸美さんに抱きついてきた。
「どうしたの?」幸美さんは落ち着かせるようにゆっくりと問うた。
「あの、また変な人が校内に入り込んでいるんです。さっき昇降口のところで見掛けて。でも、職員室に行っても先生達は今日は研修でほとんどいなくて。生徒会長の藤原先輩は例によっていないし、加藤先輩も見当たらなくて・・・」女生徒は唇を青くして、ぶるぶる震え始めていた。「またこの前のように刃物なんかを振り回される騒ぎになったらどうしようかって・・・」
「今どこにいるの?」
「小金井くんが見張っていて、でも危ないから、先輩、どうしましょう?」
「落ち着いて。いざとなれば警察を呼べばいいわ。とにかく生徒会室に行きましょう。」
そう言って後輩を促して歩き出そうとした時、幸美さんの視界を巨大な影が横切っていった。それは身長が1メートル90センチはあろうかという大男で、明らかにこの学校の生徒ではない。背もデカいが、体も凄い。丸太のような腕とビヤ樽のような胴回り、五分刈りの頭に付いている目は、やけにギラギラしている。男は幸美さん達から三十メートルほど先の階段を、上に昇っていった。男が上の階に去ってからすぐに、その後をつけていた一年生の小金井くんが視野に入ってきた。彼は、生徒会副会長の真田幸美さんの頼れる姿を見るや否や、尾行の任務を放り出して走り寄ってきた。そうして、きわめて情けない顏で、どうしましょうとつぶやいた。幸美さんは小金井くんに女生徒を生徒会室に連れて行くように指示して、自分が怪しい男の後をつける役を引き継いで、慎重に階段を昇っていった。
屋上に着いた久美ちゃんは、すぐに一人の少年がフェンスに寄り掛かっているのを発見した。小走りに近寄ってみると、それは肥えた少年で、少年も久美ちゃんの方にゆっくりと近付いてきた。
「藤原くんが危ないの!」久美ちゃんは叫んだ。だが少年は険しい顔で久実ちゃんに、あっちへと鋭く言うと、さっさと屋上の隅にある空調機械の後ろに隠れてしまった。久美ちゃんは慌ててその後を追って、藤原くんが危ないの藤原くんが危ないの、とうわ言のように繰り返した。
「僕達も危ない。」久美ちゃんが追いついたところで、少年は押し殺した声で言った。
「え、どういうこと・・・」
「しイッ、静かに!」少年は言うや首をすくめ、小さく指差した。久美ちゃんは反射的にその方向を見た。
大きな男が、屋上の入り口に立っていた。大男はゆっくりと屋上を見回して、久実ちゃん達が隠れている空調機械の方に視線を合わせてきた。久美ちゃんは隠れている鉄管の間から男の顔を見た。その顔には、見覚えがあった。いや、会ったことのある顔ではない。テレビと雑誌で見たことのある顔だ。
(そうだ、あれは確か○○格闘技大会に若干十七歳で優勝した天才格闘家の大久保家康(おおくぼ いえやす)だ。)
古武道をやっているくらいだから、久美ちゃんは格闘技にも造詣が深い。話題の格闘家やプロレスラーはおおむねチェック済みだ。だから大久保家康のこともよく知っている。知ってはいるが、好きではなかった。なにしろ、行いがよろしくない。この前の大会では、観客に野次られたことに怒って素人の客に殴りかかってしまい、出場停止処分を食らっているのだ。
(なんであんな奴がウチの学校にいるの・・・)
大久保家康はしばらく屋上で辺りを眺めていたが、幸いなことに空調機械の側まで来ることはなく、そのまま階段を降りて消えていった。
安堵のため息をついた久美ちゃんに、一緒に隠れていた少年が突如言った。
「アイツは藤原らを狙っている奴らの一味だ。危なかった。見つかったら、タダじゃすまないところだった。」
「あの大久保家康が敵なの?」
「あんな奴は、ただの手先の一人に過ぎない。もっと恐ろしい奴が敵なんだ。」
「ねえ、藤原くんから手紙が来たの。危ないって。それで君に会って危ないって伝えれば、助かるって・・・」久美ちゃんは必死で訴えた。しかし少年は首を振った。
「そやかて、今のわてにはどうにもならん。なんせ金が要る話なんやが、わてには持ち合わせが今は全くない有り様や。逃げ回るのに必死やったから。」いつの間にか関西弁になって少年は言った。
「お金?」
「そうや。詳しい理由を話している暇はあらんのやけど、とにかくまとまった金がいるねん。藤原を助けてくれる人間を雇う金や。」
「いくら要るんですか?」
「まあ、おおむね百万やな。」
「・・・百万?」久美ちゃんは息を呑んだ。両親とも小学校教師のつつましい家庭で育った彼女は、自慢じゃないがこの前洗濯機を買う時に拝んだ十万円よりも多い万札の束は見たことがない。百万円など雲の上の話に思える。父や母に相談できる金額でもない。
「そんなお金、とてもないよ・・・」久美ちゃんは消え入るようにつぶやいた。
「そやけど百万用意できないとどうしようもないわ。正直に言います。その百万円で、あの大久保家康を買収するねん。アイツは金に汚いさかい、金でこちらに寝返らせて、藤原を救出させるのや。アイツなら、疑われることなく藤原が監禁されているところへ忍び込むことができる。もうこれしか方法はないんや。」
「そんなこと言われても・・・」久美ちゃんの頭は昏倒寸前になった。金が要る、でも金なんてない、どうしたらいいのかも分からない。
「ええい、これも正直に言うわ。藤原から口止めされていたんやけどな。実はな、藤原の親父さんの会社、もう破産状態なんや。それでマフィアみたいな悪い連中から金を借りてしもうて、それを返せなくなって、藤原は人質にとられてんねん。とにかくすぐに助け出して、警察に保護してもらうんや。藤原の爺さんは国会議員で警察にも顔が効くさかい、警察に守ってもらえれば一安心なんや。」
「でも、どうしたら・・・」
「こうしたらどうやろ。あんさんの名前でお金を借りるんや。なに、形だけの話や。本当はわての名で借りられたらえんやけど、藤原を助けようとしている人間だと知られているさかい、マフィアから金融業者にわてには金を貸すなというお触れが出てしまっているんや。」
「お金を借りるって、そんな簡単に・・・」
「大丈夫や。ここに申し込み用紙がある。ここにサインすればええ。簡単や。さあ、サインを。」そう言ってナンバー5はペンを久美ちゃんに突きつけた。
久美ちゃんは一瞬躊躇した。しかし「藤原の命が危ないんやで。」というトドメのひと言に押されて、混乱のうちにペンを手に取ってサインしてしまった。
ナンバー5の御堂秀吉くんは、それを見て一瞬ニヤリとした。だがすぐに必死の表情の演技に戻って、電話を掛け、二言三言久美ちゃんに聞こえないように話すと、電話を切ってしばらく黙り込んだ。返事がない。それで、あの、と久美ちゃんが話し掛けたところで、ナンバー5のスマホが鳴った。電話に出て、すぐにアア良かったと大袈裟にナンバー5は叫んだ。
「藤原が無事に救出されて警察に保護されたそうや。これでもう一安心やな。」
「ほんと!」久美ちゃんは思わず立ち上がった。「よかった!」
「マア、そうやな。全てあんさんのおかげや。」
「それで、どこの警察?」
「へ?」
「警察に行って、藤原くんに会ってくる。どこの警察署?」
「まあまあ待ちいな。あのな、実はこの学校の近所には、マフィアの手先がまだおるねん。そいつらを警察が追い払ったことを確認してからでないと動かれへん。もうちいと、ここで我慢して待っといておくんなはれ。」
「え、そう・・・」久実ちゃんはまた座り込んだ。
その様子をじっと観察していたナンバー5は、おもむろに大きなカバンからむちゃくちゃ高価そうなネックレスとハンドバックを取り出した。そうして久美ちゃんの前に差し出した。
「藤原救出の功労者にお礼の印や。もらっといてんか。藤原から頼まれてんねん。僕を救ってくれた鬼首さんに渡してくれって。」
ナンバー5の頭は計算通りに順調に進む事態に満足し始めていた。
(一度借金したら、それでクセになる。更に高級なブランド物を一度手にすれば、その贅沢にはまって抜けられなくなる。そうなれば、どうしても金が必要になって、金を与えてくれる男から抜けられなくなる。しょせん、女など金でどうにでもなるのさ。)
うぷぷ、と思わず5は声を漏らした。が、その垂れかかった目に、ずいとネックレスとバックが押し入ってきた。
「こんなもの受け取れません。」
「え。」ナンバー5は絶句した。このネックレスとバックは本場おフランスはおパリでもなかなか手に入らないとブランド通の姉ちゃん達の間でも評判の品なのだ。言わば、ナンバー5が自信を持って送り出した逸品なのだ。
「あのさ、これはOLや女子大生の憧れの品なんだぜ。受け取っておいて、損はないよ。」焦ったナンバー5は共通語に戻ってしまっていた。
「それなら、なおさらです。藤原くんはこれからお金に困るんでしょう?こんなものでも、質屋さんとかに持っていけば、いくらかの足しにはなるでしょう?」
「質屋って・・・そんな、気にしなくてもいいよ。ホラ、せっかくだからもらっておきなよ。そうだ、いっそのことクレジットで買わないか?このバックに似合う靴とか上着とかもあるんだぜ。」
「何を言っているんですか!」突然、久美ちゃんの怒りが炸裂した。その余りの勢いに押されて、ナンバー5は思わず尻餅をついてしまった。
「そんな贅沢、できるわけないでしょう。これからコツコツ働いて、借金を返さなくてはならないし。私、貯金を全部はたいて、後はアルバイトしてなんとしても返します!」
「いや、そんな真面目に考えなくても・・・ホラ、金が返せなくなったら、他の業者から借りればいいし。借り換えってヤツさ。なんなら競馬で返すとか。いい予想屋を知っているんだ。株で儲けるっていう手もある。その元手を新たに借りて、なあに、ほんの少しの元手でいいんだから・・・」
必死にしゃべりながら、計画が狂い始めてきていることに、ナンバー5は動揺していた。贅沢な物に釣られない女がいるなど、彼の思考の範囲を超えているのだった。
「と、とにかく、借金したからには・・・ねえ、後ナンボ借り増しても同じでしょ・・・」
「お金を借りたからには、返します!」
「そんな必要はないわ、久美ちゃん。」
突然、澄んだ声が上から降ってきた。ナンバー5は驚いて振り返ったが、その時にはもう右腕を掴まれて、ねじ上げられていた。彼はようよう首を捻って、自分を捕らえた相手を見た。それは決然として立つ幸美さんだった。
「話は全部聞いていました。さあ、借金の証文を渡しなさい!」
ナンバー5は誰が渡すか、と吐き捨てようとした。が、その途端に腕を激しくねじ上げられて、ふええんという情けない悲鳴を上げた。
(いかん。もし腕を折られたら、キイボードが叩けなくなって、ネットで株取引するのにも不都合だ。骨折から復活するのに2ヶ月として、その間に損する金額は○○○万円だ。○○○万円のためなら、ここは女に屈しても、マアいいかア・・・)
激痛に負けた自分への言い訳をとっさにこね上げて、ナンバー5はあっさりと降参した。真田幸美さんは取り上げた証文に、ナンバー5が持っていた18金製のライターで火を点けて燃やしてしまった。
「脅迫して借金の証文を燃やすなんてズルイぞ。脅しによる契約は日本の法律では無効なんだぞ!」ようやく腕を解放されたナンバー5の御堂くんは半ば涙目になって負け惜しみをぶつけた。
「それを言うなら、騙して結んだ契約も同じことでしょう。」
幸美さんは厳しい瞳でへたりこんでいる御堂くんを見下ろした。
「騙して・・・?」久美ちゃんは幸美さんを見上げた。
「そうよ。これがその証拠。」幸美さんは素早く電話を掛けて、すぐに久美ちゃんに差し出した。久美ちゃんはごくんと息を一つ呑み込んで、スマホを耳に当てた。
「・・・もしもし、鬼首さん?僕は藤原京也です。その男の言うことは真っ赤な嘘です。そいつは僕の中学の同級生で、僕に嫉妬して、あなたに悪さを仕掛けたのです。僕には何の関係もないことなんだ。だから、僕のことは心配しなくていいです。すみませんでした。僕のせいで君に迷惑を掛けてしまって・・・」
「いいえ・・・」あくまで穏やかで優しい藤原くんの声に、久美ちゃんは息が詰まった。
「本当に、君には迷惑を掛けてすみませんでした。それで悪いけれど、そこにいる男と話したいのでこの電話を渡してもらえませんか。僕からよく言い聞かせます。もう悪事が露見した今となっては悪あがきしないようにと。」
久美ちゃんは、はいと言って催眠術に掛かったように素直にスマホをナンバー5に渡した。
「どないなってるんや・・・」
そう言い掛けたナンバー5を、冷徹で恐ろしい、地の底から響いてくるようなナンバー1の声が遮った。
「黙り給え。いいか、ここからは何もしゃべるな。ナンバー6が教えてくれたんだがね、君は仕掛けのためとはいえ、事もあろうに、僕の家が破産したなどという嘘をついたそうじゃないか。そんなふうに僕の名誉を汚しておいて、無事でいられると思ったのか?」
「あわわ・・・す、すんまへん、つい出来心で・・・」
「まあ、その詮議はまた後だ。今はとにかくその場をうまく脱出するんだ。ナンバー4が感づいてそっちに向かっている。君では彼の相手にならない。ナンバー6を送るから、彼に助けてもらえ。そのまま校舎を出て校庭に向かえ。ナンバー6はそこで待ち伏せしている。」
「ああ、おおきに・・・」
「いいか、僕のことは絶対に口にするな。もしひと言でもしゃべったら・・・分かっているね。」
「ハ、ハイ・・・」
「よし、電話を真田幸美くんに渡せ。」
「へい・・・」
ナンバー5は震える手つきでスマホを真田幸美さんに渡した。
「もしもし、藤原です。僕の家で契約している警備員を校庭に待たせてあります。そこで警備員にそいつの身柄を引き取らせますので、すみませんが、校庭まで連れてきてもらえませんか。教頭先生が、学校で契約していない警備員は校舎には入れられないって頑固に言い張っているものですから・・・」
「いいわ。この人一人くらいなら大丈夫だから。」幸美さんは電話を切って、御堂くんに立ちなさいと言った。そして逃げないように再び右腕をねじ上げて、久美ちゃんと一緒に校庭に向かった。
校庭に出て、真田幸美さんはぐるっと辺りを見回した。しかし藤原くんが言っていた警備員さんの姿はどこにも見当たらなかった。まだ来ていないのかしらと不安に駆られたかけたその時に、オーイという聞き慣れた声がした。振り向くと、加藤くんが昇降口から駆け出してくるところだった。思わず幸美さんはほっとして、ナンバー5を掴んでいる腕の力を緩めてしまった。
「危ない!」久美ちゃんが叫んで幸美さんに飛び掛かった。幸美さんの体は抱きついた久実ちゃんと一緒に芝生の上に倒れこんだ。そのすぐ上を、太い足の蹴りが白い軌跡を残してかすめていった。
「早く、逃げて!」久美ちゃんは幸美さんの手を取って立たせた。だがいち早くその行く手にあの大男、大久保家康が立ちはだかっていた。
大久保は既に上半身が裸であった。そうして上腕の筋肉を誇示し、大胸筋をぴくつかせながら、こう言ってのけた。
「ぶざまだな、ナンバー5。いいか、教えてやろう。女の愛を手に入れるには、力が必要なんだ。しょせん、女は強い男に惚れるものなのだ!」
久美ちゃんは幸美さんを背後にかばって構えようとした。だが幸美さんも前に出ようとして、二人並んでいる格好になってしまった。
「行け、ナンバー6、この女どもをやっちまえ!」ナンバー5は叫んだ。だがナンバー6はいきなり5の襟首を掴むと、その鳩尾に一発パンチをかました。ナンバー5は白目を剥いて、転がり悶絶した。
「おまえが俺に命令できる立場か、このクソデブが!」
そしてクルリと向きを変えて、ようやくこの場に辿り着いた加藤くんに向かって叫んだ。
「俺の相手はおまえだ。女どもが見ている前でギタギタにしてやる。そうして俺の強さを知った女どもは、俺に惚れることになるのだ!」
「どうしようもない単純バカめ!」
加藤くんは叫び返して、じりじりと距離を縮めた。
「言ったな、生きてこの学校から出られると思うなよ!」
久美ちゃんはドキドキに狂いそうだった。なにしろ相手はプロの格闘技大会に優勝した大久保家康だ。並の男子高校生など三十秒以内に殺されてしまうのは目に見えている。
(素手同士で一対一じゃ、勝ち目ないよ。何か武器、武器になるものは?)
必死に探す目が、或る物を捉えた。ライン引き。校庭に石灰のラインを引くための道具だ。そしてテニスのネット。
「ゆきりん!」久美ちゃんは幸美さんに目で素早く合図して、ライン引きに手を掛けた。そして両手に一杯の石灰を掴み取ると、力の限り叫んだ。
「おおくぼくーん!」
突如湧き起こった黄色い声援に、大久保家康はファンにアピールするクセが出てつい反応してしまった。そのにやけかけた目に、石灰の爆弾が炸裂した。誰の声援かしらと目を凝らしていたので、余計にマトモに目に入ってしまったのだ。
ナンバー6は目を押さえてうめいた。そこへ久美ちゃんと幸美さんがテニスのネットをせええので掛けてきた。
「投げ付けろ!」
加藤くんが叫びながら、野球の硬球をびゅんびゅん投げてくる。いかに鋼鉄の体でも、百何十キロの速球を次々と当てられてはたまらない。その上騒ぎに気付いて駆けつけた陸上部員達が幸美さんに痴漢だと教えられて、棒高跳びのバーを長槍のように構えて引っ叩き出した。
「グワオー!」人間離れした叫びを上げて、ナンバー6はいきなりネットを引きちぎって立ち上がった、そして見えない目をこすりながら、むちゃくちゃに拳を振り回した。
「危ない!」幸美さんの悲鳴が響き渡った。だが、それとほぼ同時に加藤くんが後ろから組み付いた。そして組み付くや否や、後ろに反り投げた。それはまさしくプロレス最大の必殺技、バックドロップそのものだった。総合格闘技と立ち技系格闘技には天才的に秀でていたが、強いがゆえに受けに回ることがほとんどなかったナンバー6は受身の能力が決定的に欠けていた。あまりにも綺麗に決まり過ぎた加藤くんのバックドロップで後頭部と脊髄を地面に叩き付けられて、大ダメージを負った。
久美ちゃんはこの瞬間を見逃さなかった。持ち前の俊敏さで小猿のように側の桜の木によじ登ると、高い木の枝から、地面に横たわってうめいているナンバー6目掛けて舞い降りた。これぞキラー・コワルスキーの大ファンだった爺ちゃんから伝授された彼女のここ一番の必殺技、フライング・ニードロップなのだ!
舞い降りた凶器の膝は、モロにテンプルに命中した。そしてナンバー6は、きゅうというきわめて情けない声を上げて見事にノックアウトされてしまった。
みんなでナンバー5と6を縛り上げた時に、ようやく警備員さん達が駆けつけてきた。そうしてこんな凄い奴を取り押さえるなんてたいしたものだと何度も感心しながら二人を連れていった。
その様を見送りながら、幸美さんは久美ちゃんに大丈夫、と声を掛けた。
「うん、全然大丈夫。」久美ちゃんは輝く笑顔で答えた。
「本当にありがとう。おかげで助かったよ。それよりもゆきりんこそ、大丈夫?」
「私も大丈夫。久美ちゃんの道場で古武術を習っていて役に立ったわ。」
「そうかー、本当によかったなー!」
「本当、無事でよかったわ。」
「それもあるけど、一番嬉しいのは、やっぱり藤原くんが悪事に関係していなかったことなの!」
「え?」虚を突かれて幸美さんは言葉に詰まった。
「だってさ、電話で指示してくれてさ。私達を罠から救ってくれたんだもん!やっぱり彼はいい人なんだ!私と藤原くんに嫉妬した悪い奴らが、勝手に私達の恋路を邪魔していただけなんだ!」
そう天に向かって叫ぶと、久美ちゃんはまだお付き合いするという返事をもらっていないのに、「私達の恋路」なんて言っちゃったと照れまくった。
久美ちゃんの幸せそうな様子を見て、幸美さんは藤原くんへの疑いが晴れたわけではないとは言い出せなくなった。そうして、ひたすらに喜んでいる彼女の姿に、胸に熱いものがこみ上げてきた。
(そうだ。加藤くんにもお礼を言わなきゃ。)
真田幸美さんは加藤くんの姿を求めた。だが既に彼はこの場を立ち去っていたのか、その姿はどこにも見当たらなかった。
「君とは話し合う必要があると思ってね、ナンバー4。」
葉巻をくゆらす藤原京也くんはゆっくりと、静かに言った。だがナンバー4の怒りは止まらなかった。
「僕を騙しておいて、なんだ!ぼくのいない間は御堂を押さえておくと約束したくせに!」
「嘘も方便だよ。ああでも言わないと、君は納得しないだろう?」ナンバー1は平然と言ってのけた。
「もう君達とは・・・」
「一緒にやっていけないと言うのかい?それでいいのか、ナンバー4。」
「どういうことだ。」
「まあ落ち着いて考えてみたまえ。確かに君をたばかったのは悪かったよ。しかしね、あの時の君は自分を見失っていた。冷静に話しても分かってもらえなかっただろう。だから、ああせざるをえなかったのさ。」
「僕が自分を見失っている?」
「そうだろう?君が本当に目指すべき道は何だ?それは此の世界の真実を知る、たとえそれがどんなに苦い真実であっても、だろう?そして真実を知って此の世をなんとかしたい。君は僕と出会った頃にそう言っていた。僕はそんな君に心を動かされたから、こうして仲間になったんだ。そして鬼首さんの愛を打ち砕くのは、此の世界の真実を知るためなんだ。それによって、此の世界の根底に潜み我々を躍らしている源である愛を討つ。そうじゃないのか?確かに鬼首さんには気の毒だ。だが、彼女の愛はとびきり強い。正直言って、僕もこれほどとは思わなかった。ということはそれだけ、愛を暴き倒すためには最適の目標ということだ。そうだな、こう考えるといい。鬼首さんと戦っているんじゃなくて、彼女に憑りついている愛を倒すんだ。これは鬼首さんを愛から解放してやる戦いなのだよ。」
「何をバカな・・・」
「まあまあ、ナンバー4、加藤祐一郎くんよ。」ナンバー1は4の肩に手を回し、唇をその頬に近づけた。
「君は、僕のただ一人の親友だ。その君に嫌われてしまったら、僕はもうどうしようもない。なあ、頼むから機嫌を直してくれ。」
ナンバー4は黙って1の腕を振りほどいた。そして一枚の紙を差し出した。
「敗因分析かい。ありがとう。まだ僕との約束を忘れていないんだね。」
「僕自身のためでもある。」
「ありがとう。そうだ、もうじき生徒会選挙だ。もちろん僕も連覇を狙って出馬するけれど、ねえ、ナンバー4、君今度は副会長に立候補してくれないか。ナンバー2も3もどうやらこのまま転校することになるらしいし。」
「考えておくよ。」
「そうか。頼りにしているよ。」
ナンバー4はわずかに頷いて生徒会室から出て行った。ナンバー1は紅茶のカップを手にすると、敗因分析のレポートを読み始めた。
(敗因分析)
今回の敗因について、多くを語る必要はない。人の気持ちを単純な暴力や金の力で簡単に操作することなどできないということは、人類の長い歴史の中で既に立証されてきたことだからだ。
より本質的に言えば、『自分』は己れを押し通すのみである。そのために、今の『自分』のやり方を押し通すことができると考えてしまいがちになる。しかし実際には此の世界には多くの『自分』がおり、それらがそれぞれ相手構わず勝手に流れているのである。そのため、すぐに『自分』は他者と接触し、それが衝突となる。その衝突に勝てればいいが、いつか必ず敗れることになり、今の『自分』はその行き場を失ってしまうことになる。つまり、『自分』のやり方が通用しない事態が生じることになる。この道理を知らなかったナンバー5と6は、余りにも自分達のことを単純化し過ぎたものと言える。
「相変わらず、手厳しいなあ。」ナンバー1は言いながらも笑みが零れてたまらなかった。と、そこへスマホが鳴った。ナンバー1が出ると、彼の家の最古参の執事であるセバスチャン熊本さんからで、客人が待っているとの知らせだった。
「外国からのお客様でございます。客間にお通してありますが、学校の方にご案内致しますか、それとも若様が御屋敷にお戻りになられますか?」
「ああ、学校の方によこしてくれ。今日はまだ帰らない。車で校門の所まで送って差し上げてくれ。」
そう言って電話を切ったナンバー1の目が、生徒会室の入口に立っている青いブレザー姿の少年を捉えた。
「よく来てくれた。ナンバー9、ナンバー7ももうじきここに来るよ。」
そう言ってナンバー1は冷たい笑顔のナンバー9と固い握手を交わしたのだった。
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