第2話 サンタさんの おくりもの ~ぐるぐるの森のクリスマス~


 ソリを引いたトナカイが、夜空をすべっていきました。

 しゃんしゃん、かろやかに鈴を鳴らして。

 

 だって、今日はクリスマス。

 まっ白なおひげのサンタさんの、年に一度のはれ舞台。


 

 トナカイのソリに積んでいる、ぱんぱんにふくれた袋から、

 ぽーん、とひとつ、プレゼントが飛びだしました。


 それは、ひゅううん! と地上めがけて落ちていきます。


 空をかける鈴のは、どんどん遠くなっていきます。

 ぽつん、とひとつ、飛び出したプレゼントを置き去りにして。


 だあれもいない、ぐるぐるの森の草みちに、

 赤いリボンの箱がひとつ。


 スズメが気づいて、ちゅんちゅん空からまいおりました。

 空の高みで手をふっているのは、

 ごま粒みたいに小さくなった、赤いコートサンタさん。

「みんなで、なかよくするんだよ」


 スズメはすっかりうれしくなって、リボンをくちばしで引っぱりました。

 クリスマス・プレゼント、もらっちゃった!


 するり、とリボンがほどけます。


 あれ? とスズメは気がついて、自分の両手をおろおろ見ました。

 この翼の両手では、包み紙を開けられません。

 さあて、こまった。どうしましょう。



「ねえねえ、スズメさん。どうしたの?」

 長いしっぽをくるりとあげて、ちょろり、とリスがやってきました。


 スズメは、こまって言いました。

「サンタさんのプレゼント、箱のリボンはとれたんだけど」

 くちばしでツンツンつついても、きれいな紙ははがれません。


 自慢のしっぽをふりふりし、リスは胸をたたきました。

「だったら、わたしにまかせておいて。そういうのは得意なの」


 リスは、自慢の鋭い爪で、バリバリ包み紙を引っかきます。


 スズメとリスは、あれ? と気づいて、うろうろ箱を見あげました。

 ふたが、しまっているのです。

 箱のふたは頭の上で、どちらも手が届きません。 

 さあて、こまった。どうしましょう。



「やあやあ、なにをしてるんだい?」

 あたりをきょろきょろ見まわしながら、キツネがそろそろ、やってきました。


 リスは、こまって言いました。

「サンタさんのプレゼント、リボンと紙はとれたんだけど」

 今、リスがしたように、バリバリ爪で引っかけば、

 箱の中のプレゼントまで、ボロボロになるかもしれません。


 なあんだ、とキツネは、自分の鼻をこすりました。

「それなら、ぼくにまかせてよ。ぼくなら、こんなの、ちょちょいのちょいさ」


 キツネは、とがった口をさしこんで、ぐいぐい、ふたを押しのけます。


 ぱこん、とふたがあきました。


 三つの頭を寄せ合って、

 スズメとリスと、そしてキツネは、ほくほく箱をのぞきます。

「なんだろうね」

 サンタさんからのおくりもの、何が入っているのでしょう。


「うわあ! おいしそう!」


 まん丸の、おいしそうなケーキです。

 白いクリームがどっさりかかり、赤いイチゴがのっています。


 だけど、


「……うーん。だけど、一こだけかー」


 まあるいケーキの大きさは、リスの「しっぽ」くらいです。

 なのに、ここにはスズメとリスと、それにキツネがいるのです。

 さあて、こまった。どうしましょう。


 

 スズメがため息でリスを見ました。


「これ、リスちゃんがおあがりよ、だって、ぼくは、リボンをとっただけだから」


 リスはぶんぶん、首を横にふりました。

 ひょい、とおとなりの顔をみます。

「それだったら、キツネ君よ。だって、わたしは、紙をやぶいただけだもの」


 キツネはぶんぶん、首を横にふりました。

 ひょい、とおとなりの顔をみます。

「いやいや、だったら、スズメ君でしょ。だって、リボンがかかっていたら、この箱あけられなかったし」


 ぴゅうぅっ! 

 

 へんてこな音が、どこかでしました。


 聞こえてくるのは箱の中?


 ぷぅーっ、と中身がふくれてきました。


 みんながびっくりしている間に、

 箱の中でふくれる中身は、紙のかべを押したおしていきます。


 それは、大きなケーキでした。

 どれくらい大きいかというと、

 キツネが三匹、横にならんだくらい大きいです。


「なにごとだい?」

 へんてこな音を聞きつけて、

 ぐるぐる森の住人が、わいわいがやがや、やってきました。


 サル、とり、タヌキ、ウサギにオオカミ、

 それに、冬眠中だったクマまでいます。

 寝ぼけまなこをこすりこすり、穴の中から、はいでてきます。


「わああ、大きなケーキだね」


 どーん、と道からはみだした、ほっかほかのケーキを見て、

 みんなは目を丸くしています。


 黒い毛皮の大きなクマが、ぶっとい指をもじもじくわえて、

 不安そうにききました。

「あのさ。ぼくも食べていいかな」


 箱を見つけたスズメとリスと、そしてキツネの三匹は、

 こまった顔で腕ぐみしました。


 ケーキは大きくなったけど、

 あんなに大きなあの口で、ぱっくり食べてしまったら、

 たちまち、なくなってしまうでしょう。

 そうしたら、みんなが食べられる分は きっと、ほんのちょっぴりに……。


 けれど、食いしん坊のクマさんは、

 大きな木を切りだして、川に橋をかけてくれました。

 悪い猟師がやってきた時にも、うんと恐いお顔を作って、

 森から追いはらってくれました。

 そりゃあ、時にはハチミツをなめて、ハチにおこられたりもしますけど。


 三匹は笑って、ふりむきました。

「もちろん、いいよ。みんなで食べよう」


 

 ぴゅうぅっ! ぽぽぽぽんっ! 

 

 大きな音が、どこかでしました。

 みんなのまん中のケーキです。


 ぷぅぅーっ、とそれは四方にふくれて、

 どんどん道からあふれていきます。


「わ! あぶない! みんな逃げろ!」


 みんながあわてて逃げる内にも、それはむくむく大きくなって、


 ぼん! ぼん! ぼよよ~ん! 


 と、ぐんぐん辺りをおおっていきます。そうして、とうとう

 

 どどーん! 

 

 ほかほか湯気がたっている、巨大なケーキに変身しました。

 どれくらい大きいかというと、

 ぐるぐるの森のまん中にある「まんまる池」くらいの大きさです。


 わっと、みんな笑顔になって、

 さっそくケーキにとびつきました。

 

 あっちでガツガツ、こっちでむしゃむしゃ。

 こんなに大きなケーキですもの、みんなで食べても、へっちゃらです。


 みんなの笑い声をききつけて、

 地下のおうちでぬくぬくしていた、アリさん一家もやってきました。

 きちんと一列に隊列をくんで、ケーキのかけらをはこびます。


 大きなケーキはどうしたわけか、食べても食べてもなくなりません。

 あーん、と大きく口をあけ、ぱっくり、かじりとったそのそばから、

 むくむく、もりあがってくるのです。

 

 ケーキにつどった森の仲間は、やがて、おなかがいっぱいになっても、

 わいわいがやがやケーキをかこんで、夜まで楽しくすごしました。


 それは、サンタさんからの、おくりもの。

 今夜はハッピー・クリスマス。





 おしまい。




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【ぐるぐるの森 クリスマス館】 カリン @karin

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