第8話
「どうもー。お届けものでーす」
インターホンを押し、適当な文句を言った。連絡の行き違いなどで部屋違いなこともありえなくはなかったが、もうなんだかどうでもよくて、俺は酔っ払ったバカみたいに要らないセリフを付け足した。
「ねえ、てかいるんでしょ、同業さん。とっととここ、開けてよ。あんたも退屈してんだろ? 遊ぼうよ」
しばらく、静寂が続いた。
やがて、チェーンをつけたままのドアが少しだけ開き、写真で見た通りの白人の男の顔が半分のぞいた。サラサラの金髪なのも合間って、まるでケージから覗くモルモットのような風情だった。
「えっと、どなたです?」
「殺し屋。あんたと同じ」
「そうですか、その、えーっと……一応聞いておきたいんだけど。誰を殺しに来たのかな?」
ニコッ、と愛想笑いをする男に向かって、俺も笑いを返した。
口元だけで。
「全部」
ガチャンッ!
ナイフを取り出して構え、男の顔面に投げるその一瞬前に、チェーンが外れる。
内側から押し破るように開けられたドアに思い切りぶつかり、よろめいた。
「うわっ、」
ファイルで見た二人が、部屋の中から出てくる。俺を突き飛ばして足早に非常階段の方へと逃げていく。男の方は黒いコート、女の方は制服姿。
「クソッ」
慌てて体勢を直し、追いかける。
階段の方へ行くと、奴らは上へ逃げるところだった。
「逃げられると思ってんのかこの野郎!」
追って階段を駆け上る。
黒コートの男が制服女を横抱きして走っていたが、奴はそんなことを微塵も感じさせないスピードで駆け上っていく。後ろからナイフを投げることも考えたが、ここで下手に凶器を減らすのは得策ではない。ポケットの中の銃にも思いが至ったが、『もしもの時のため』というユキの言葉を思い出し、慌ててポケットから手を出した。
これ使ったら、さすがに負けだろ。
そう自分に言い聞かせ、足に力を込める。
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