第7話



 昔の話は、誰にもしたことがない。

 けれど語らないからといって、過去がなかったことになるわけでもない。


「……」


 エントランスのパネルに、メールに載っていたパスワードを入力すると、難なく自動ドアが開いた。一人で中に入り、エレベーターまで行って【上】ボタンを押す。

 いいんだ、と俺は思う。

 こんな話を聞いて喜ぶ奴なんて、いないんだから。


 大昔のことだ。


 俺が殺し屋になった理由は、あまりにも単純。人を殺すのが楽しくてたまらない。それだけ。

 だって俺は——


「っ、」


 エレベーターの到着音に、少し驚いた。慣れない回想なんてしたせいか。地に足をつけていることが、殺し屋にとっては必須中の必須条件なのに。

 ユキが妙な気まぐれを起こすせいで、俺もしまったのかもしれない。


『俺、ちゃんと人間だよね、先生』

『ああ、お前は人間だよ』


 開いたエレベーターのドアの向こうで、鏡の中の亡霊が微笑んだ。



『お前は、俺の大切な一人息子だ』



「うるせえよ」

 思わずナイフを投げていた。

 鏡が砕け散り、破片がパラパラと虚しく落ちる。

 

 

 

 

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