第1話





 誰にでも、秘密はある。



「何このドラマ、くっだらない」

 背中合わせに座っていたユキが、突然呟いた。付けっ放しのテレビから聞こえてきた「誰にでも、秘密はある」というドラマのキャッチコビーに対して、なにやら不満があるらしかった。

「どうせ秘密ったって、浮気とか、不倫でしょ。何を偉そうに一般化してるのよ」

「人殺しのお前が言えたことじゃないだろ」

 俺が煙草に火をつけながらぼやくと、続けて後ろから、ばり、と音がした。ユキがせんべいをかじる音だった。ぼり、ぼり、と噛み砕く音が続く。

「だーってさ。気持ちいいんだもん、人殺し」

 ユキはいじけるように言うと、俺の手を握って、指を絡めてきた。

「コウと一緒にいるのも好きよ。落ち着く」

「は? ふざけんな。抱くぞ」

 そう言うと、指に鋭い痛みが走った。

「いっ……!」

 。ユキお手製の、手袋の仕込み針だ。

「次言ったら、次はこれで金玉刺してやるから」

「す、すいません」

 落とさないように死守した煙草を吸いながら、ぼうっとテレビを眺めていた。刺された手はきつく握られ、離してもらえそうもない。ぽたぽた、と血痕が床に落ちる。


 約束の時間まで、この部屋で暇を潰せ。


 そう言われ、相方のユキとこうして時間を潰して1時間。

 モデルルームのような小綺麗な1LDKに、申し訳程度に置かれた液晶テレビとテーブル、二脚の椅子。テーブルの上には、最寄りのコンビニで買ってきたのだろうと思われる菓子類が、かなり雑に積まれていた。

 芸能人の楽屋じゃあるまいに。

 火をつけた煙草を吸い終わる頃、玄関の扉が開く音がした。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る