幸せなまち。

@hellowor_

みんなの幸せ

幸せなまち。

誰もが夢見て、叶えれないこと。

けどここは本当にあるの。


誰も絶望を知らない幸せなまち。


華夏はいちごの甘い果汁を口の中に広げる。

鼻をくすぐって、頬を撫でて、私たちを包んでくれる甘い甘い香りは、このまち全体も包んでいる。

幸せなまち、そう呼ばれているこのまちは皆、笑っている。だって幸せだもの。

勿論、私も笑っている。


ここは幸せを望んだものがこれるまち。

過去に辛いことがあったり、単に望んだだけだったり。幸せを望む形は人それぞれ。

私が何故幸せを望んだか、そんなものは忘れた。

だって幸せに必要がないもの。

「ミルクティーをくださいな」

店員さんは頭をさげ、店内に戻る。

海から少し歩いて左に曲がって、また少し歩くと左手にある小さな喫茶店。

私の特等席はテラスのはしっこ。

ここは、優しく照らしてくれるお日さまや、幸せそうな顔をする人がよく見える。

「ミルクティーです」

コトッと音をたてカップが置かれる。

私の大好きなうさぎが描かれたカップに、甘くてとても美味しいミルクティー。幸せと言わずなんて言うの。

一口。

「やぁ」

白い服をまとった彼の胸元には、とてもこのまちには似つかわしくないものがあった。

真っ赤な何か。

「服、汚れてますよ」

「いいんだ、幸せの証ですよ」

「ここは幸せなまち、似つかわしくない」

鉄のような臭いが甘い香りを消していく。

「幸せ、って人によっては異なるって思わない?」

何が言いたいのだ。幸せは幸せ。それ以上があるというの?

「僕の幸せは、人を××すこと。一緒?」

そんなわけない。何を言うのだ。

××すことが幸せだなんて。

ここは幸せなまち。嘘つきや幸せを望まないものは決して入れない。

特等席から道路を見る。幸せそうに笑う人はどこ?私の幸せはどこ?

「あぁ、××したよ。問題ある?僕は幸せになりたい。矛盾、してないよね」

あぁ、神様。幸せなまちは完璧じゃないのですね。

苦しみ、絶望、悲しみ。これらを味わったとき、どうすればいいのでしょう。

「僕に幸あれ」

パーンッ

音のした彼の方を見る。彼が持つ黒光りするあれは……。

「ああぁぁっぁぁぁぁぁあああぁぁっぁぁぁぁぁあ!!!!!!」

激痛が思考を停止させる。

私の中の幸せが逃げ出すように、ドクドクと赤いものが溢れだす。彼の服と同じように、いやそれよりも広く服を真っ赤に染める。

幸せを望んではいけないのか。幸せで溢れれば全てが上手くいくのではないのか。何故、何故……何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。

「悲痛の顔してるね。僕はこんなにも幸せなのに」

互いに幸せを望んだ結果。

幸せの押し付け合い。

奴の幸せと私の幸せがシーソーのように、釣り合うことがない。


空気を吸い込むことが苦痛になる。吐き出せば赤いものが溢れる。

「幸せだけが世界を救う。そんな馬鹿げた世界を僕が救った」

違う、と否定をするため口を開く。

出るのは言葉じゃなく、赤いもの。

やがて前も見えなくなり、音も聞こくなる。


幸せなまちは壊れてしまった。

誰かが不幸を望んだ訳じゃない。

誰もが幸せを望んだ。

ただ、それだけのことだったのだ。

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