第2話 お前さんに本当のラブってものを教えてやるぜ!!

「二階堂うみ? 聞いたことが……あるねぇ」


 一瞬不審そうになったミス・ウォーターメロンだったが、すぐに思い当たることがあったようで、うみを見る目つきが険しくなる。


「左手に超振動バイブレーション発生装置システムを持つ男、うみ! あちこちのサイボーグマフィアや犯罪同業者組合ギルドを潰して回っているって話じゃないの」


「ほぉ、俺も有名になったモンだ」


 飄々ひょうひょうと答えるうみに、険しい顔をしたミス・ウォーターメロンが忌々しげに言う。


「アタシの店を潰しに来たのかい? そう簡単にできるとは思わない事だね!」


「いやぁ、俺は別にお前さんの店を潰そうとは思っちゃいないぜ。俺はただ、お前さんにラブってものを教えてやりたいだけさ」


 うみの返答を聞いたミス・ウォーターメロンは鼻で笑う。


「はン、きれい事は言わないで欲しいね。このネオヨシワラシティには愛なんてものは無いのさ。有るのは男の獣欲と、それを食い物にして生きるしかすべが無い女だけさ」


「知っているさ、ミス・ウォーターメロン。お前さん自身もまた、この街の底辺から泥水をすすりながら体ひとつで今の地位まで上り詰めてきた女だってことはな」


「だったら……」


「だからこそだ、ミス・ウォーターメロン! そんなお前さんに本当のラブってものを教えてやるぜ!! この『バイブレーションフィンガー』で昇天させてな」


 何か反論しようとしたミス・ウォーターメロンを遮って、左手の人差し指を突き出すうみ。


 それを見たミス・ウォーターメロンは今度は大声で笑って答えた。


「アハハハハハハ、笑わせてくれるじゃないか! このアタシは男を気持ちよくさせたことはあっても、男に気持ちよくさせてもらった事なんて一度も無いんだよ!! できるものならやってごらんなさいな。でも……」


 そう言いながら、右腕を前に突きだして半身になり、中腰に構えるミス・ウォーターメロン。その姿には一分の隙も無く、この歓楽都市の闇を暴力でも乗り切ってきた風格を感じさせるものだった。


「その前にアンタの命を頂くけどね!」


 ドレスの横に大きくスリットが入った長い裾を跳ね上げ、惜しげも無く美脚を披露するミス・ウォーターメロン。だが、その高く掲げられた足が披露するのは男たちを魅了するフレンチ・カンカンの踊りダンスではなく死のリズム! 超強化された脚が疾風の速さでうみの頭を狙う!!


 だが、その脚がうみの頭をとらえることは無かった。わずかに首をかしげて必殺の蹴りをかわしたうみは、肩に羽織っていたコートを脱ぎ捨てると、立てた左手の人差し指を神速の速さでミス・ウォーターメロンに突き出す!


「ラーブラブラブラブラブラブっ!!」


「クッ、これは!?」


 とっさに飛び退すさったミス・ウォーターメロンだったが、すぐに自分の体には特に異変が無いことを悟り、形の良い口の端をつり上げる。


「何だい、ご自慢のバイブレーションフィンガーとやらには何の効果も無いじゃないか」


 そうあざけるミス・ウォーターメロンに、うみは左手の人差し指を振りながら答える。


「安心しろ、峰打ちだ。お前さんはもう、げている」


「何だって!?」


 そう言った瞬間、ミス・ウォーターメロンの豪勢なドレスがビリビリと破け、細かい布片と化して風に舞い散っていく。


「これぞ秘技『脱衣神拳』! このバイブレーションフィンガーの超振動によって、お前さんの服の分子構造を破壊したのさ」


「服が破けてるじゃないか、どこが峰打ちだい!?」


 まだ下着こそ残っているものの、思わず胸や股のあたりを手で隠しながら叫ぶミス・ウォーターメロンに、うみは涼しい顔で言い放つ。


「下着を残しているからR15! これぞ脱衣神拳の神髄!! これでもう、お前さんは俺の奥義おうぎからはのがれられない」

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