愛の伝道師うみ ~必殺バイブレーションフィンガーでワルい女どもにラブ&ピースを教えるぜ!~

結城藍人

第1話 俺の名はうみ、ラブ無き地上をさすらう愛の伝道師さ!

 時は未来! 所は地球!!


 進歩した科学は人類に夢と希望だけでなく、時として罪と堕落も与えた。


 サイバネティクスとバイオテクノロジーの進歩は、体に障害を持つ人々にも強健な手足や視力、聴力を与えることに成功した。だが、それは人の超人願望をも満たしてしまう堕落の果実でもあった。


 健全な体を持ちながら体を機械化したり、遺伝子改造することによって強健な身体を得たサイボーグによる犯罪が発生したとき、それまでの警察は無力だった。


 倫理規定に縛られた警察がサイボーグ警官を投入できずに手をこまねいているうちにサイボーグ犯罪は激増。悪化した治安に手を打つべく倫理規定が改定されたときには既に遅く、サイボーグマフィアは強大な力を得てしまっていた。


 かくして西暦209X年、世界は金持ちが住まう一部の強固に守られた聖域サンクチュアリを除いて愛無き無法の荒野と化した。


 だが、そんな無法の世紀末に決然と起ち上がり、愛を伝道する男がいた!


「ひいいっ、助けて……」


「おだまりなさい! 貴女あなたはねえ、このアタシの目にとまるという栄誉を得たのよ。素敵なレディに育て上げてあげるんだから感謝なさい。そのかわり、アタシの素敵なお店で、男どもに奉仕するお仕事でたんまりと稼いでもらうけど」


 おびえる十二~三歳くらいの少女に、豪華なドレスをまとった美女が言い放つ。薄汚いボロボロの服を着て、顔も手足も汚れ放題な少女だったが、よく見ると顔立ちは整っていた。


 それに対して立つ美女は、ドレスだけでなく縦ロールにした金髪に飾ったティアラも、しなやかな腕を彩る黄金の腕輪も、まるで西瓜ウォーターメロンのように巨大な胸の谷間を強調するように光を反射するネックレスも、真珠や宝石をふんだんに使った豪華なものばかり身に付けていた。だが、その豪華なドレスや宝飾品に着られることなく着こなすだけの美貌も身に備えていた。


 彼女こそ、通称「ミス・ウォーターメロン」! 歓楽街で有名な「享楽都市」ネオヨシワラシティでも一番の風俗店の凄腕経営者である!!


 このネオヨシワラシティで彼女に逆らえる者はいない。それは単に彼女が持つ財力が飛び抜けているからというだけではないのだ。


「ねえ、お嬢ちゃん、アタシのお店に来たら、コレは貴女のものよ」


 そう言いながら、大きなダイヤモンドがはまったプラチナの指輪を見せる美女。その指輪を右手の親指と人差し指で挟んで見せながら、こう続ける。


「でもねぇ、アタシに逆らったらどうなるか、わ・か・る?」


 そう言いながら指に力を加えると、何と強固極まりないはずのプラチナの指輪はくしゃりと潰れる。それどころか、モース硬度十、この世で最も硬いはずのダイヤモンドすら、その指の間で粉々に砕けてしまったのだ!


 そう、彼女は遺伝子改造とナノマシン技術によって肉体を超強化改造されたスーパーバイオサイボーグなのだ!!


 財力と暴力によってネオヨシワラシティの夜の街を、その漆黒の闇を支配する女、それが「恐怖女帝」ミス・ウォーターメロンなのである!!


 このネオヨシワラシティで、彼女に逆らえる者はいない。嗚呼ああ、恐怖女帝に見込まれた少女に救いの手をさしのべる者はいないのか? この世に神は無いのか!?


 いや、ここに決然と彼女に異を唱えるひとりのおとこがいた!!


「おっと、そこまでだ! 美人のお姉さん、嫌がる女の子を無理矢理に勧誘するのは感心できないな。あんたにはラブ&ピースが足りないぜ」


 そう言い放ったのは、歳の頃は三十くらいの男だった。中肉中背の体にぴったりと張り付く薄手のジャンプスーツを全身にまとい、肩にはラフにコートを羽織っている。しかし、その下に隠された肉体が筋肉の塊であろうことは、ぴっちりとした服を通して見て取ることができる。


「何だい、アンタは?」


 不審そうに尋ねるミス・ウォーターメロンに男はニヤリと笑って答えた。


「俺の名は二階堂うみ。ラブ無き地上をさすらう愛の伝道師さ!」

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