第十七話 『王』


「ーーで?聞きたい事とは何や?」




 車椅子の男ーーマドカが言った。




「......まずは、あなた達が何者なのか知りたい。ーー何を目的として行動しているのか。俺を連れてきた理由も、しっかり説明してほしい」




「それは言うたやろう。君を助けるためやと」




「違う、そうじゃない。そんなはずはない」




「?」




「俺を助けた理由が知りたい。リスクを嫌っているあなたが、何の見返りも求めずに人助けをするとは思えない」




「それはそれは、随分とひどいこと言うねえ......君」




 男は笑った。




「でも、その通りや。ーー君を助けたのには確かに理由がある」




 それは確信だった。


 この男にもし何らかの目的があったとして、何の理由もなく見ず知らずの人物を仲間に入れるだろうか。


 ましてや、この俺だ。


 特に何の取り柄もない。ミカのように強い訳でもないし、ヘンドリックのように度胸もない。


 そんなことは、彼にも分かるだろう。


 今日のように誰かに襲われて、もし脅されたりでもしたら、恐らくこの者らの情報など簡単に話してしまうに違いない。


 明らかに足手まといである。


 それなのに、彼は俺を救った。自分の仲間にするために。




 ならば、彼には俺を仲間に入れる何らかのメリットがあるということだ。


 そのような不利益を補って余りあるメリットが......






「けど、その質問はノーコメントや」




「......」




「まだ仲間じゃない君に言えることやない」




「......そうか」




 分かってはいたが、少し残念ではあった。


 俺を連れてきた理由は、彼の目的に直結することなのだろう。




 それは「あの男」も同じだった。


 何も知らない俺を無理矢理この世界へ連れてきて、仲間になれと言ってきた。


 していることは、この男と何も変わらない。ーーでも




(あいつは不利益になるような事も......全部、話してくれたよな......)




 記憶を無くして、ずっと一人で、自分だってほとんど知らないというのに、協力すると言う前に俺に分からない事を教えてくれた。


 不利益になることかもしれないのに、自身の目的や〈アルカナ〉である事も含め、その〈能力〉ーーつまりは手の内まで。俺が他の〈アルカナ〉と手を組めば、彼は危険になるかもしれないというのに、教えてくれた。そして、辛い思いまでして、過去の悲しい話まで......






「じゃあ、あと二つ。ーーあなたは......あなた達は〈アルカナ〉なのか?」




「......それはもう君も薄々気付いてると思うし、答えてもええか」




 男は言った。




「そうや。ーーぼくとミカ、ヘンドリックも......全員〈アルカナ〉と呼ばれる存在。特殊な〈能力〉を持っとる。勿論、それ以上は言われへんけどな」




 やはりそうか。


 この事は、ある程度見当がついていた。


 俺を仲間に誘い、〈アルカナ〉の事を知っていたという点。


 そして何より、今朝の戦い。ミカの動きは普通ではなかった。常人の動けるスピードではなかった。


 あれを〈アルカナ〉の〈能力〉でないと思う者はいないだろう。




(しかし凄かったなぁ......喧嘩が滅茶苦茶強くなる能力とかかぁ?ーーどうせなら俺もそんな〈能力〉がいいなぁ)






「最後に一つ。最も気になる事だ。ーー俺が襲われた理由を教えて欲しい。あなたは俺が〈アルカナ〉だからと言った。であれば、それは何故なんだ?.......俺はそんな事、本当は知らないで生きていたかったが、それは無理だと言う事が分かった。だから教えて欲しい。何故俺は襲われたんだ?」




 これは最重要の問題。


 俺は今まさに生命の危機に瀕している。


 刃物を持った男に攻撃される。ーーこれは只事ではない。


 そして、聖堂でのあの男にも。


 これらの事件には何か理由があるに違いない。


 その理由が分かれば、その問題を解決出来れば、穏やかな日常が返ってくるのではないかと俺は思った。




「君が襲われた理由の一つとしてはさっきも言うたように、君が〈アルカナ〉やというのが深く関係しとる」




「?」




「ーーというのも、まず〈アルカナ〉の説明をした方がええやろう。ぼくも鬼やない。それぐらいは教えたる」




 男は振り返って、窓の外を見た。




「君も〈アルカナ〉という存在が特別やというのは分かるねぇ?」




「ああ」




「そして、その存在がこの世に二十二人しかおらんという事も、ゼロから聞いてるやろう?」




「そうだ。ーーでも、待ってくれ。それはゼロが見つけた事だ。あなたもゼロから聞いたのか?」




「......それはなぁ、ーー今話してる事と関係ないで、ノゾミ君」




 男は少し怒ったような口調になった。




「ぼくが言うてるんは、〈アルカナ〉がどういう存在かという事や。ぼくとアイツの関係なんて今は話してへん」




「あ、ああ......そうだな。悪かった」




 男は話を続けた。






「ーー君は、もし自分が〈王〉になれたとしたら、なるか?」




「〈王〉?どういう事だ?」




「もし、〈王〉になる方法が一つだけあるとして、その方法が『人を殺す』ことやったとしたら、君はどうする?」




「......何?それはどういう......意味が分からねえ」




 〈王〉......この国の王ということだろうか。


 例えが現実離れしすぎていて、俺は少し返答に困った。




「ーーぼくは......殺すで。それで〈王〉になれるなら」




「!?」




(こいつ......正気か!?何を言っているんだ......?)




 自分は人を殺す事ができる人間だ、と彼は言った。


 どこかそのような雰囲気は感じていたが、やはりこの男......危険だ。






「......それとこれと、一体何の関係があるって言うんだ?」




 男は空を指差して言った。






「ーー〈アルカナ〉は、人を殺す事で〈王〉になれるんや」

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