第五話 『アルカナ』


 ーー俺は、未だにこれが「夢」なのではないかと心のどこかで思っていた。






「......つまり何が言いたいんだ?」




「おめぇさんはよぉ、なんつーか理解力がねえよなぁ」




「お前の言い回しが難しいんだよ!もうちょっと分かりやすく説明してくれよなぁ。俺国語のテストとかによくある『この時の主人公の気持ちを述べよ。』とかいう問題、すげえ苦手なんだよぉ。具体的に話してくれねえかなぁ」




「あー、面倒くせえ。ーーつまり、この世に『有り得ない』ことなんてねえって言ってんだ。『神』がいる世界では、何もかもが『有り得る』」




「いやぁ、なんとなく言ってる意味は分かるけどよぉ。それは、この世界に至っての話だろぉ?俺がいた世界では〈魔法〉とかなかったんだ。まだ全然分かんねえことだらけだ」




「だったら今夜である程度その『クエスチョンマーク』を減らすよう努めな」






 俺は何から聞いて良いのか分からなかったが、とりあえずこの世界のことを聞いた。




「まず、この世界は一体何なんだ?」




 男はしばらく考えて、頷いた。




「この世界は〈ヘッズ〉。そして、おめぇさんが元いた世界を〈テイルズ〉と俺たちは勝手にそう呼んでる」




「俺たち?」




「ああ......さっきのハジメとか、ペイジだ」




「あいつらは俺が元いた世界を知ってるのか?」




「そりゃそうだ。ハジメもお前と同じく、俺に連れて来られたんだからな」




「なにぃ!?ホントかよ?」




「なんで俺がそんな嘘つくんだよ」




「そ、そうだな......ハジメは?ってことは、ペイジは違うのか?」




「ああ、あいつは恐らくこの世界に元からいる存在だ。本人がそう言ってる。ここで生まれて、家族も先祖からこの世界にいる。〈テイルズ〉のことは俺が説明した。ーーそもそも、お前は元いた世界であんな羽の生えたやつ見たことあんのかよぉ?」




「そ、それもそうだな」




 そこで、俺は一つ疑問を抱いた。




「お前は......お前はどっちなんだ?」




「俺は......」




 男は少しうつ向き、こう言った。




「分からねえ」




「分からない?」




「記憶がねえんだ。俺は気づいたらこの世界にいた。でも、どうやらこの世界に家族もいないようだった。何より、俺を知ってる人に一人も出会ったことがねえ。もしかしたら〈テイルズ〉から来たのかもな」




「?」




 俺は、一つの矛盾に気づく。




「それはおかしいぜ。俺やハジメはお前がこっちに連れて来たんだろ?お前以外にも、そんなことできる奴がいるのか?」




「いや、その可能性は低いだろう」




「なんでそんなことが言えるんだよ」




 男は自分の左手を見て、こう言った。




「これは俺の〈能力〉なんだよ」




「は?」






 男は顔を上げ、話し始めた。




「この世界には〈魔法〉が存在する。この世界にいるものは〈魔法〉を使うことができるんだ。ただし、それは全員じゃない......限られた人が使える才能だ。その限られた人ってのが、体内に〈魔力〉を持つ人......〈魔法使い〉と言う。ーー〈魔力〉には個人差があって、例えば俺の場合はかなり少ない。一日に一回使える程度だ......今日やったみてえにな」




「それはなんとなく見てて分かったよ。ペイジが『風』とか『水』とか言ってたな」




「ああ、〈魔法〉にはそんな感じで、『属性』が存在する。『風』『火』『水』『地』の『四大元素』と呼ばれるものだ。俺はそのうちの『風』を操れる。これらは基本、〈魔法使い〉一人に一つ当てはまる」




「基本?」




「例外もいるってことだ......ハジメみてえにな」




「ハジメは『風』とあと何が操れるんだ?」




「......全部だ」




「え?」




「あいつは『四大元素』全てを操ることができる。それも完璧にな」




「す、すげえ。めちゃくちゃ便利じゃん」




「俺も最初は驚いたぜぇ。『属性』を二つ持つ奴なら知ってたが、四つ全てなんて......度肝を抜かれたな」




「......ハジメはその〈魔法〉をどのくらい使えるんだ?」




「さあな。まだあいつの本気を見たことはねえが、少なくとも軽く俺の百倍くらいは使えるだろう」




「百倍!?」




「全ての〈魔法〉を完璧に使いこなせる上に、〈魔力〉はずば抜けて多い。ムカつくがぁ、〈魔法〉においてあいつの右に出るものはいないだろう」




「そりゃあかっこいいぜ。ペイジの態度が違うのも納得だぁ......」




「そんな話はどうでもいいんだよッ!!」




 顔を近づけて怒鳴った。




 咳払いをすると、冷静さを取り戻し話を続けた。




「そんでだ......この世界には〈魔法〉とは別にもう一つ〈能力〉というものがある。ーーこれは、勿論、学習能力とか運動能力みてえに、普通の人が持ってる能力のことを言ってるんじゃねえ。言わば、それらを超えた『超能力』だ」




「『超能力』......」




「〈魔法〉とは違って、この〈能力〉を使えるのはほんのわずかだ。その数は、俺の推測だと......二十二人だ。この世界で、二十二人しか〈能力〉は使えない」




「二十二人?なんでそんな正確に分かるんだ?」






 男はバッグから何かを取り出した。




「ん?なんだそれ?トランプ?」




「うーん、惜しいな......これは『タロット』だ」




「『タロット』?あの占いとかに使うやつか?」




「ああ、少しは知ってるようだな」




 男はケースからカードを取り出した。




「『タロット』は、十枚の数札を四つのスートに分けた四十枚のカードと、十六枚の『コートカード』からなっている『小アルカナ』、寓意画が描かれた二十二枚の『大アルカナ』、計七十八枚のカードを組み合わせて、遊戯や占いに使う道具だ」




「へえ」




「まあ細かいことはどうでもいい......重要なのは、この中の『大アルカナ』と呼ばれるカードだ」




 男は、二十二枚のカードを並べる。




「『大アルカナ』は零から二十一までの番号が割り振られていて、これらにはそれぞれ意味がある。ーー例えば、一番の『魔術師』のカードには、『出会い』や『変化』、『好奇心』などの意味があり、『無限の可能性』を表している」




「なるほど......でも、それと今の話になんの関係があるんだ?」




「察しが悪ぃなぁ。おめぇさんはよぉ。ーーこれらのカードは二十二枚あるんだぜ?」




「!」




「俺は、この世界で〈能力〉を持つ者が、この『大アルカナ』の意味に類似した特徴を持っていることに気づいたんだ。そいつらの持つ『能力』も『大アルカナ』の意味に準ずる事も発見したーーあの時出会った少女はとんでもない『力』を持っていたし、いつしかの大男は『悪魔』的な魅力を持っていた......」




 その言葉の最後は独り言のようにもごもご話していたので、俺は聞き返した。




「ん?なんだって?」




「あぁ、いや、何でも無い。今はそんな事どうでもいいか......」




 しかし、またあの時のように誤魔化された。


 この男は思った事をつい声に出してしまうのだろうか。


 時々呟く小言が気になって仕方がない。




「それで、その二十二人の『大アルカナ』?か何か知らねえけど、そいつらが......そんな〈能力〉が、存在するっていうのは確信しているんだな?」




「確信?いいや、確認までしている」




「?」




「これまで俺は、そういった〈能力〉を持つ者を何人か見てきた。ーーそして、実際この俺が、その選ばれた者の一人らしい」




 男は、『大アルカナ』の中から一枚のカードを抜き取った。


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