第四話 『早すぎる一日』


 辺り一面が炎に包まれており、街の人々が消火活動をしていた。桶で水をかける者、手から水や風を出す者が大勢いた。




(さっきあいつがしてたようなもんか。ーーホントに異世界に来たんだな......俺)




 するとそこに、先に着いていたペイジが駆け寄ってきた。




「ねえ!ハジメは?」




「それがどっか行っちまったんだよ」




「うそぉ!?......こんな時にぃ......」




「なあ、こりゃ一体どうなってんだ?」




「どうやら火薬庫が爆発したらしいの。アタシも今手伝ってたんだけど、この規模だと全然人手が足りないわ!あんたも手伝って!一棟でもいいから、あんたの風で吹き飛ばしてよ!」




「あぁ......そりゃすまんが、さっき来る途中使っちゃったんだよぉ......」




「はあ?もう!あんったホント使えないわねえ」




 彼女は、ため息をつくと、いきなりこちらへ振り向いた。




「そうだ!あなた何かできない!?」




「え......俺?いやぁ......多分お力にはなれないかと......」




「そう......」




 彼女は再びため息をつく。




「それより王国軍は何してるんだ?軍なら〈魔法〉が使えるやつなんてたくさんいるだろう」




「それが来ないのよ。何人か知らせには行ったんだけど帰って来ないの」




「なるほど......」




 男は少し頷くと走り出した。


 どうやら、その「軍」のいる方へ行くみたいだ。




「おいっ!ちょっと!」




 俺は特に何もできそうになかったので、男に付いて行った。








 今日三度目の全力疾走で城門まで辿り着くと、そこには何人かの人が騒いでいた。




「どうしたぁ?お前ら。何してんだよぉ」




「あぁ?......なんか知らねえけど、応答がねえんだよ。ーーおおーい!今緊急事態なんだぁ!開けてくれぇ!」




 ーーすると、門が開き、中から王国軍の者であろう男が出てきた。




「あっ!やっと出てきた!てめぇ、よくもシカトしやがったなあ!?......そんなことより、今【ウェスト区】の方で火事が起きてるんだ!何人も死んでる!早く〈魔法〉を使えるやつを連れてこっちへ来てくれ!」




 軍の男は一考し、しばらくして話し始めた。




「......申し訳ないがそれは自分たちでなんとかしてくれ。【ウェスト区】の方にも〈魔法〉を使える者はいるだろう」




「はあ!?なぜだ!あそこにいる奴らは〈魔法〉を使えると言っても少しだけ!あれじゃあ人の手でやるのとさほど変わらねえ!」




「そうだそうだ!何より、優秀な〈魔法使い〉は全部てめえらが盗ってったんだろうが!!」




「......頼むよぉ、もうかなり焼けてる!今でも何人死んだか分からねえ!」




 街の人々が次々と喋り出すと、軍の男は声を荒げて怒鳴った。




「黙れェ!!」




 人々が静かになると、続けて大声で話し出した。




「先日伝えたように、明日からは隣国との戦争を控えている!今、兵士の〈魔力〉を消耗させる訳にはいかない!」




「少しだけだ!お願いだ!あんたらの力があれば今すぐにでも治められる!」




「あの程度の火災ならあと二、三時間ほどで大体は消火されるだろう。もう一度だけ言う......街の者でなんとかしろ」




 軍の男はそう言うと、門を閉めた。




(それはあまりにも酷だ。二、三時間だと?その間にどれだけ人が死ぬと思ってるんだ)




 すると、男は言った。




「覚えておけよ。これがこの国のやり方だ」




「ーーえ?」










 【ウェスト区】に戻ると、やはり火事はまだ治まっていなかった。




「どうだった?」




「......それがーー」






 男がペイジに説明しようとしたその時、突風が吹いた。その風は、先ほど男が使った「風」の〈魔法〉の何倍にも激しい突風だった。




「うわぁっ!なんだぁ!?」




 突風と共に一人の人影が現れ、辺り一帯の炎が一瞬にして消えていく。




「ハジメェ!」




 そこにはハジメがいた。




「ちょっと!ハジメェ!どこ行ってたの?」




(......嘘だろ。このハジメとかいうやつ......何者だ?あれだけの炎を一瞬で消しやがった......)




「遅くなってすまない。少し急用があった......それより何だったんだ?これは」




「火薬庫でトラブルがあったんだとよ」




「......そうか」




「なんだか知らないけど、やめて欲しいわよねえ。なんで、こんな街のど真ん中に火薬庫があるのかしら?」






 少し落ち着くと、自然とため息が出た。




「ふぅ......」




「グフッ!何が、『ふぅ......』だよぉ?おめぇさん何もしてねえじゃん」




「あぁ?こちとらまだ何が起こってるかさっぱりなんだよ!」




「おい、お前はあとでそいつにちゃんと説明しとけ。ーーペイジは村に戻って、この事を伝えてこい」




「はーい!」




 ペイジは元気よく返事をすると村の方へ戻って行った。




(彼女、明らかに態度が違うな......)




「おい!お前さっき説明はいらねえとか言ってたじゃんかよぉ。言ってることが違うぜ」




「細かいことはと言ったんだ。まさかお前が何も話してないとは思わんだろう」




「元はと言えばお前がよぉ!?」




 男がそう言うと、ハジメはまたしても風と共に消えた。




(!?......どうなってんだぁ?)




「あの野郎......」








 気づくと、空はすでに朱色に染まっていた。




「いやぁ、それにしても今日は疲れたなあ。さぁーて、帰るか。おめぇさん」




「帰るってどこに?」




「そりゃ帰るっつったら一つしかねえ」




「?」




「お家だよぉ〜、僕ちんのお・う・ち。付いてきな、しばらく泊めてやるよぉ」








 ーーそれは「家」と言うより、「廃墟」という方が相応しかった。


 壁は石でできており、屋根や床はなく、「家具」と呼べるものも一つとしてなかった。




(もはや壁しかねえ......)




「どうだ?開放的で良い家だろう?」




「......開放的っつーか、なんつーか......これ......野宿と変わんなくね?」




「なんだとぉ?雨風凌げるだけで十分だろ!」




「雨は凌げねえよ......」






 家(?)に入ると男は、その辺に落ちている木の枝を手に取り、地面に線を引き始めた。




「ピーーー、ピーーーっとな。このぐらいかな。うん」




「何してんだよ」




「はい、ここまでがお前の部屋だ」




「冗談だろオイ」




 俺の部屋はこの家(仮)の広さの十分の一ほどだった。




「おいおいおい!狭すぎんだろ!どう考えてもぉ!」




「文句言うなよぉ。仕方なく泊めてやってんだぜぇ?」




(お前が勝手に連れて来たんだろうが......)




「ーーあのぅ、もう十センチ広げてもらえません?これじゃあ一畳もない」




「ぜえったい!ダメ!こっから出たら死刑!」




(俺部屋から出れねえのかよ)






 男は荷物を置くと、バッグから大きな布を取り出し、そこに広げた。




「なんだよこれ」




「もう大体分かんだろぉ?おめぇさんのお布団だ。今から晩飯作るからそこで待ってな」




「あ、ああ......」




 俺は部屋より大きい布団を渡され、仕方なくそこに座った。






「ところで......もう聞いて良いんだよな?」




 男はスープを作りながら静かに言った。






「......ああ」




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