第三話 『炎』
俺は、呆然としていた。呆然と立ち尽くしていた。だだっ広い花畑のど真ん中で。
「......もう......戻れない?」
「ああ、そうだ。こちらの都合で悪いんだが......」
男が次の言葉を言おうとした時だった。
「ドォーーーン!!」という爆音が聞こえ、大きな地響きが起こった。
「なんだ!?」
「分からない!でも、街の方から聞こえたわ!アタシ見に行ってくる!」
そう言うと、ペイジは物凄いスピードで「アレイスト」の方へ向かった。
「なんだよ......!?なんだ今の爆発のような音!」
(......街から聞こえたって、今のかなり大きかったぞ)
「おい!ハジメ!お前は村の皆に......ってあれ?ーーいねえ......あいつこんな時にどこ行きやがった!」
ハジメは忽然と姿を消していた。
(もう村に行ったのか?)
「まあいい!おめぇさん!毎回急で悪いが、ちょっと俺について来い!」
男はそう言うと、全速力で走り出した。
俺は仕方なく男を追った。
(ああ!......どうなってんだぁ!ちくしょう!)
男が走って行った方向は、先ほどいた花畑から街に向かって右側にある「森」だった。
「おい!どこ行くんだよぉ!?」
「どこって、決まってんだろう?街だよ。アレイストだ。こっちが一番近い」
「はあ!?走って!?しかもなんで俺が!?俺は行っても別になんもできねえぞ!」
「いいから、黙って付いてこいって」
男はそう言うと、一目散に森の方へ走って行った。
(はぁあ?訳分かんねえ)
「はぁ......はぁ......おい待てって!もう走れねえぇぇ!」
「何だって!?まだ五分も走ってねえぜ!?普段どんだけ怠けてんだよ」
「おめぇが速えんだよ!こんなスピードで走ってたらもたねえ!」
「喋ってたら余計に体力使うぞぉ。大丈夫だ。走るのは馬車のあるところまでだ。もう少し!」
「まじかよぉ......」
(こいつ見かけによらず凄え足速え......)
そうして、しばらく走っているとーー
前に見えたのは「崖」だった。
しかし、男はそれを無視して走って行った。
「おい!......はぁ......前っ......見えてんのか!?......はぁ......はぁ」
「ちょっとこっち来い」
男はそう言うと、俺を片手で担ぎ上げた。
「うわぁああッッ!!何すんだよ!?」
「行くぞ!準備はいいか?」
そう言い終わる前に男は飛んでいた。
「ウワアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!」
それは、彼が「馬鹿」であるということに改めて気づかされた瞬間であった。地表まで二百メートルはあろう崖を、この男は飛び降りたのだ。
(ーー死ぬ)
そう思った次の瞬間、突風が吹き、俺たちはそこにあった木に叩きつけられた。
「うわぁっ!!」
「ゔゔぅ!!」
意識が飛びそうになる程の衝撃。
「痛ぇ......」
「......っつっ......大丈夫かぁ?」
「......大丈夫じゃねえ!ふざけんなぁ!俺たち今死ぬところだったぜ!」
「アッハハァ、いやぁ、それは大丈夫だ。ーー今風吹いただろ?あれ俺がやったんだ」
「なにぃ?あれが?」
男は自慢げにこう言った。
「ああ、俺はさっきのペイジみてえに空は飛べねえが、少し風を操ることができるんだ」
(何?今の操ってたの?俺もお前も完璧に叩きつけられていたんだが......)
「それより早く行くぞ」
男は少しも休憩せずに走り出した。
それから少し走ると「馬車」が見えた。
(これかぁ。馬車っていうのは......大丈夫かぁ?こんなので)
そこには、老人の馬車引きがいた。馬車引き馬も恐らく老馬と呼べるほどで、とても速く走れるようには見えなかったが、男は老人に躊躇なく駆け寄った。
「おっちゃん!これ乗せてってくれよ!」
「あぁ、またお前さんか。悪いがタダでは乗せんぞ」
「そこを頼むよぉ!今緊急事態なんだ」
「......街に向かっとるのか?」
「ああ、おっちゃんなんか知ってるか?」
「いや、分からん。まあ......とりあえず乗れ」
老人は、俺たちを馬車に乗せると、驚くほど流暢に馬を走らせた。それはまるで、自動車のように安定した乗り心地で、スピードに至っても申し分なく出ていた。
(なんだこの爺さん......)
すると男はヒソヒソ声で言った。
「びっくりしてんだろぉ?おめぇさん」
「あ、ああ」
「この人、見かけはただのしみったれたクソジジイだが、昔は騎士だったんだぜぇ?」
「騎士?」
「おうよ。王国のなぁ、それもトップクラスだ。馬の扱いでこのジジイの右に出るもんはいねえ」
「へぇ......」
「聞こえとるぞぉ。今度クソジジイと言ったら降ろす」
「アッハハァ、おっちゃん地獄耳だねえ。」
それから少し運転が荒くなった。
(余計な事言うなよ......)
「着いたぞ」
エリファス王国の中心地「アレイスト」ーー国民は、百万人ほどで、そのおよそ六割がこの街に住んでいるという。ここは城郭都市になっており、街の周りには「要塞」と呼ぶに相応しい城壁が悠然と建ち並んでいた。そして、街の中心には、映画などでしか見た事のないような大きな城が堂々とたたずんでいた。
「でっけえ......」
「ああ、さぞご立派な様子でぇ......ムカつくぜぇ。ーーん?なんだあれ」
よく見ると、街から煙が出ているのが見えた。
「火事だ!恐らくさっきの爆発によるものだろう......急ぐぞ!」
「え、あ、ああ!」
今日は一体何度走らされるのかと心の片隅に思いながら、息も絶え絶え走っていると、ようやく街が見えた。
「異世界」の街はどのような風なのだろうと思いを馳せていた。しかしーー
ーー街に入り、俺が初めに目にしたものは、辺り一面の「炎」だった。
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