第8話
先輩と知り合いになった春が終わって、季節は夏――。
学生達の服装は全員が夏服へと変わり、あと数日もすれば夏休みが始まろうとしていた。
隕石の落ちた街として定着したオレ達の街では一年と少し前が特別だっただけで、ただの街に戻っていた。一時期は隕石を名物にしたものを作ったりもしていたが、隕石はその日限りで消えてしまい、名物として残る物がない。だから、訪れる観光客の足も直ぐに途絶えた。
そもそも隕石の落下する映像を見るだけなら、何もこの街に来る必要はない。動画サイトで何度でも見ることが出来るのだ。
「今日は、キャプテン翼とスラムダンクについて語ろうと思う」
そして、季節が変わろうと、先輩は常時平常運転である。帰宅路では相も変わらずに漫画の話である。
最近、思うのだが、同姓同士ではないオレ達を周りの人間は、どう見るのだろうか?
幼馴染とか、恋人とかだろうか?
まあ、どうでもいい。知ってる人間は漫画の話しかしていないと思わないだろう。なんせ、先輩は常時平常運転だから……。
「夏は、やはりスポーツ漫画を語りたくなるものだ。これを語り終わったら、スポーツの種類に絞って語り合おうと思う。バスケならスラムダンクと黒子のバスケ、サッカーならキャプテン翼とホイッスル!とイレブンみたいな感じで」
ポケットに片手を突っ込みながら、オレは相槌を打つ。
「ネタって尽きないもんですね。二ヶ月で格闘漫画を語り切ったと思ったのに」
「秋と冬にはギャグ漫画を語ろうと思う。元々ジャンプはギャグ漫画メインの雑誌だったから、最初から語り出すとなかなか終わらない。ギャグ漫画から格闘漫画にシフトしていった作品も多いので、そちらの話もキッチリとしよう」
「そのシフトするのは語りませんでしたか? 格闘漫画の時に」
「あくまで格闘漫画をメインで語らせて貰ったからな。私も本気ではない」
あれが本気じゃない? 随分と語ってましたよ……先輩は。
「しかし、ギャグ漫画だけで、そんなに語り尽くせるかは、私も疑問だ」
オレは秋のうちに先輩が全て語り尽くしてしまい、無限ループするのではないかと思っています。
「やはり、秋なのだから少しエッチな話にしておくか? 電影少女とか、いちご100%とか、To LOVEるとか? 君も話し易いだろう」
「何で、秋がエッチな話の季節か分かりません。そして、エッチな話は女子とは語り難くて仕方ないです」
「女子同士でも語り難いな。その点、男子同士というのは羨ましい限りだ」
先輩は、そっち方面も語りたいのか。だが、その話だけはしたくない。オレの性癖を暴露するみたいで嫌だ。
「――ん?」
突然、先輩が足を止めて振り返った。
オレも釣られるように振り返る。
「知り合いですか?」
そこには不思議な少女が立っていた。背丈からオレたちよりも年下だろうと判断は出来るが、ダラリと垂れ下がる長い前髪から顔は見えず、夏だというのに赤いトレンチコートを身に纏っていた。そして、その少女を不思議たらしめるのが、少女の緑色の髪だ。
「私の知り合いで、季節に合わない服を着込むような者は居ない。友人も君ぐらいしか居ないしな」
「…………」
それはもの凄く寂しい告白だった。そして、何故、それをこのタイミングでカミングアウトするのか。
「本当に友達は居ないんですか?」
「強敵と書いて友と呼ぶように、私の話について来られる者だけを私は友と呼びたい」
オイ、みんな。ここに勝手にみんなの行為を切り捨ててる恩知らずが居るぞ。
そんなオレの声を無視して、先輩は緑髪の少女を指差す。
「あれは君の知り合いではないのか?」
「いいえ、違いますけど」
緑髪の少女は明らかにオレ達を見ていた。オレ達を認識し、オレ達だから目を向けている。そう語っているように微動だにしなかった。
「このまま無視して後ろを向けるのも怖いですね。見えないところで、ブスリと刺されそうな気がします」
「あんな子供が、そんなことはしないだろう」
先輩は一歩前に出て、腕を組んだ。
「私達に用があるのか? それとも、ただの私の勘違いだろうか? 後者の方だったら、全面的に謝罪しよう」
先輩の言葉を聞くと、緑髪の少女はギリリと歯を噛み合わせ、両拳を強く握って肩を震わせた。
「……ざけるな!」
「ん?」
「お前らが謝罪するのは、そっちのことじゃない!」
“お前ら”……緑髪の少女はオレと先輩を含めて、そう言った。オレも先輩も知らない少女が、何故、オレ達に謝罪を求めるのか?
「去年の六月十四日を覚えているか!」
「「六月十四日?」」
はて、何があっただろうか? 日にちを指定されても、オレには分からなかった。
先輩の方に視線を向けるが、先輩も分からないようで首を振る。
「流石の私も、その日がジャンプの発売日だったかどうかを記憶していない」
「絶対、そんなことを聞いていないと思います……」
緑髪の少女は顔を下に向け、さっき以上に両肩を震わせていた。
「ふざけるな! 隕石が堕ちた日のことだ!」
「「隕石?」」
ああ、そういえば、そんな頃だった気がする。先輩の言う通り、一年も経てば正確な情報など分からない。
「だけど、それが何なのかな? オレも先輩も、その日に何かをした記憶がないんだけど?」
幼げな緑髪の少女に話し掛けたあと、先輩も同意するように頷いて続く。
「その通りだ。私達は変わらない日々を送っていた。漫画以外の要素が加わったのは、隕石が落ちてからだ」
そう。その日を堺に夢を見るようになっただけで、オレ達が何かをしたことはない。オレと先輩は出会ってもいない。
「そうだ……。お前達は――お前達だけが何もしなかった」
緑髪の少女は低い声で続ける。
「お前達だけが、あの日、隕石を見ていなかった」
オレは先輩に目を向けると、先輩もオレを見ていた。
「先輩、隕石見てなかったんですか?」
「そういう、君もか?」
オレは頷く。
「特に興味がなくて」
「私は漫画以外に興味がなくてな」
「それがおかしいんだ!」
緑髪の少女は叫んだ。
「あの日、この街の誰もが夜空を見上げていた! 自分の考えを形成できていない赤ん坊も! 普段は早く寝てしまう老人も! 起き上がるのが困難な病人もだ! あの日、この街で隕石を見なかったのは、お前達だけだ!」
緑髪の少女の迫力に気押され、オレと先輩は状態を少し後ろに反らしていた。だが、直に無理な言い掛かりであることにオレは気付く。
「あの~……随分とおかしなことを言ってない? 隕石を見ていなかったのが、オレと先輩だけって有り得ないと思うんだけど。その時間に仕事をしていた人も居たはずだし、車を運転していた人も居たはずだ。当然、全員が全員、夜空を見上げるなんてないはずだよね。テレビの視聴率が100%にならないように」
緑髪の少女はかぶりを振り、右手を払う。
「あの日は空を見上げるようになっていた! 隕石のことが頭の片隅に引っ掛かるようになっていたのだ!」
緑髪の少女の言っていることが、更に分からないものへと変わり、オレは眉間に皺を寄せていた。
業を煮やしたように、先輩が緑髪の少女に言い放つ。
「まるで、貴様がそうなるように仕組んだような物言いだな。重要な説明が抜けているのでないか? 隕石が落ちるというのは宇宙を漂っている石が、偶然、地球の引力に引かれて落ちる程度のことぐらいしか想像できない。それを見なかったからと言って、何故、そんなに敵視されなければならないのだ?」
先輩の質問を聞いて、緑髪の少女はようやく冷静になった。額に手を置いて、頭を振る。
「フフ……。お前達を見て、感情的になってしまった。――そうだな。説明をしなければ、無知なお前達には分からないことだった」
先輩の影響のせいか、緑髪の少女の言い回しにオレは嫌な予感がしていた。“無知なお前達”……この一言は漫画では決定的に敵と味方を分ける一言であり、これから主人公サイドを酷い目に合わす前の合言葉の一つみたいなものだ。
オレは自然と右手を上げていた。
「説明しなくていいんで、ここでオレ達は会わなかったことに出来ないかな?」
「…………」
緑髪の少女は固まり、隣の先輩も座った目をオレに向けていた。
「ここは話をぶった切っていい場面ではないだろう。何も分からなくなってしまうではないか」
「でも、説明を聞くと、それを理由に襲ってくるパターンじゃないですか?」
「ん? 確かに、そうだな」
先輩は顎に右手を添え、暫し考えると緑髪の少女に話し掛ける。
「私も、そこの彼と同じ考えだ。特にこれからの展開を望まないので、立ち去ってくれるとありがたい」
再び緑髪の少女が震え出していた。
「下等生物が……! このわたしを無視した挙げ句に侮辱するか……!」
髪を振り乱し、両拳を握って緑髪の少女は叫ぶ。
「ふざけるな! 理由を話せというから話してやろうと思えば、それを拒否するだとっ!? 何を考えているんだっ!?」
「何と言われても……」
こっちは不良に絡まれて意味の分からない因縁をつけられているのと変わらないし……。強いて違いを上げるなら、不良か幼女かの違いぐらいとしか言えない。
「お前達は、おかしいと思わなかったのか! 隕石だぞ! 隕石が何処に落ちるか、事前に分かっていたのだぞ!」
先輩がオレの方に顔を向ける。
「レーダーかなんかに引っ掛かるのではないのか?」
「一般的に小さい隕石は引っ掛からないらしいですよ。随分前にどっかの国に落ちた隕石は、突然堕ちてきて大きな事故になったって言ってましたから」
「そうなのか」
「ええ。だから、今回みたいに燃え尽きると分かっている隕石が捕捉されるのは、珍しいケースなんじゃないですかね?」
「そういうことか」
緑髪の少女は指を差す。
「そいつの言う通りだ! 本来なら分からないものが分かっていたのだ! テレビのニュースでもやっていただろう!」
先輩は極めて平然に答える。
「ニュースの類は見ないのでな。私の家ではケーブルテレビで、アニメしか映らん」
「どんな家庭環境なんだっ!?」
それはオレも実に気になるところだ。ダイの大冒険を読みに行った時、先輩の家の人と会っていないから、どんな両親か分からなかった。
「そこの女は、本当に興味がなかったのか!?」
先輩が頷くと、緑髪の少女はオレを睨んだ。
「お前は、どうなんだ! 少しでも興味があれば、空を見上げていたはずだ!」
一年前の隕石が落ちた日か……。オレは、その日に何を考えていただろうか?
「う~ん……」
脳みそをフル回転させて思い出そうとしてみたものの、一向にあの日に何をしようとしていたのかが思い出せない。次の日から変な夢を見ているのは覚えているのだが……。
「隕石を見てないのは覚えてんだけど、その理由というのが思い出せない……んだよなぁ」
「……何?」
緑髪の少女が目をしぱたかせているのを見ながら、オレは頭に手を当てる。
「多分なんだけど、数日前に隕石落下のニュースを見てて、その時までは覚えてたと思うんだ。だから――」
「だから?」
「――その数日の間に忘れちゃっただけ……なのかと」
「わ、忘れた……だと?」
緑髪の少女は項垂れ、暫くすると声を漏らした。
「はは……。一人はまるっきり興味がなく、一人は忘れていた……と」
「先輩ほどではないにしろ、オレも忘れるぐらいにしか興味がなくて、君の言っている少しでも興味があれば……の外の人間だったんじゃないかな?」
緑髪の少女はフラリと脱力して空を見上げ、がっくりと首を落とした後でオレ達を睨みつける。
「無知なんてものじゃない……。コイツらは馬鹿だ……」
他人がどう思おうと勝手だが、この緑髪の少女も大丈夫なのか? 隕石の落下を見なかっただけで、何をそんなに真剣になってるんだろうか?
「そっちの質問に答えたのだ。今度は、こっちの質問に答えて欲しい」
右手を腰に当て、先輩が緑髪の少女に話し掛けていた。
「隕石の落下が事前に分かっていたのがおかしいというのは分かった。しかし、おかしいのは、それを見ていないのが、私たち二人だと分かっていることもだ」
そういえば……。それが引っ掛かっていたから、因縁をつけられたと思ったんだ。
「簡単だ。わたし達は、お前達を太古の昔から観察していたからだ」
「観察?」
「わたし達とは違う生命がどのような進化と進歩を遂げるかを観察していたのだ。中には捕獲などという強硬手段を取って、しばしば原住民に目撃されている者も居る」
「…………」
え~と……。思いっきり頭の中で、ある可能性が浮かび上がっているんだけど……。
「貴様、宇宙人か」
オレの頭に浮かび上がった可能性を先輩は堂々と口にしていた。
「そうだ。お前達よりも遥かに進んだ科学力を持ち、優れた知識を持っている」
「その宇宙人が、隕石を見なかっただけで、何故、私達に突っ掛かるのだ? あれを見ないと、何か拙いことでもあるのか?」
「問題はある。宇宙人は宇宙人でも、わたしは芸術家だからだ」
「芸術家?」
「そう、一瞬を描く芸術家だ。夜空をキャンバスに隕石で人々を魅了するのだ」
オレは緑髪の少女に指を向ける。
「じゃあ、あの隕石が地球に落ちたのは――」
「偶然ではない。そういう風に仕向けたのだ」
緑髪の少女は両手を開きながら歩き出す。
「この星で芸術に評価が下されるように、我々宇宙人の中にも芸術を評価するシステムがある。その一貫として、審査を公平にするために何も知らない原住民を使って芸術点を評価するという規則が設けられている」
歩く向きを変え、緑髪の少女は説明を続ける。
「今回、評価の審査をするのに選ばれたのが、この星だ。隕石による一瞬の光で表現する私の芸術を原住民に見せ、人々が如何に感動したかを確認する。多くの宇宙人と同じように、この星の人間も脳内に快楽物質を出すので、それらをモニターすることで私の審査をするのだ」
そこで緑髪の少女は足を止めた。
「評価の平均点は文句の付けようもないものだった。歴史に残る評価が下されたと言っていい。しかし、同時に私の芸術に最低点を下す馬鹿者が居た」
オレと先輩は視線を合わせ、緑髪の少女が言いたいことが分かった。そもそも、その二人は、採点はおろか審査すらしていないことになる。……寝ていたのだから。
「そうだ! お前達が、私の芸術に泥を塗ったのだ!」
緑髪の少女に気圧され、一歩分、オレと先輩は後ろに後退した。
「こんなふざけたことがあるかっ! この街に居るものは全員暗示に掛かって空を見上げていたはずなのにっ! その暗示を打ち破るほどに興味を示さないというのは、どういう神経をしているんだっ!?」
正直、自称宇宙人のこの緑髪の少女が可哀そうになってきた。
オレはチラリと先輩に目を向ける。
「よりにもよって、先輩の居るこの街を審査の対象に選んでしまうとは……」
「どういう意味だ?」
先輩が不機嫌顔でオレに聞き返した。
「だって、先輩の頭の中身は漫画で侵されているじゃないですか。多分、大分類が少年誌で、中分類が漫画のジャンル、小分類でその他諸々と言ったところでしょう?」
「……うぐ」
言い当てられて、先輩は口を噤んだ。
「行動理念も行動理由も、全部漫画に直結しているんですよ。その割合の大半がジャンプで、他はジャンプ作品で補えない時の代替品みたいなもんなんです。だから、隕石を見ても何も感じることがない」
「そ、そんなことはないぞ!」
声を大にして否定した先輩に、オレと緑髪の少女の視線が移る。
「い、今ならメテオストライクという読みきりが、ちゃんと頭に浮かんでいる」
「…………」
緑髪の少女が目を見開いた。
「やっぱり切り離されてないじゃないかっ! 隣りの奴の言った通りじゃないかっ!」
「うっ……!」
先輩はたじろいだ。
「そ、そんなことを言うが、彼だって例の隕石を見なかったではないか!」
先輩の指摘に、緑髪の少女の目がオレに移る。
「そういえば……。コイツは至って普通そうなのに、何で暗示に掛からなかったんだ?」
先輩は腕を組んで、肩眉を歪める。
「私の方が、まだ理由がつく。私の場合は、必要な情報を完全にシャットアウトしていたのだからな。しかし、彼に関しては、どうだ? 彼自身の記憶の中にも、数日前までは隕石に関する記憶が残っていたはずだ。なのに、どうして暗示が効いていないのだ?」
何だろう? 先輩と自称宇宙人の緑髪の少女が親しげに話してる。
「今まで、こういったケースは確認されていない。この女が馬鹿だから隕石を見なかったのは間違いないのだが……」
「オイ、随分と失礼なことを言っているぞ」
オレの前で妙なコントが展開されている。
「暗示が掛かる十分な情報量が、そこの男の頭にあったのは間違いない。なんせ、我々の暗示は言葉を話せない赤ん坊にまで効くのだからな。それよりも多い情報を持っていたコイツを操るなど容易いはずだ」
緑髪の少女は腕を組んで、熟考し始めた。
「何かあるはずだ。暗示を受け付けない決定的な何かが」
緑髪の少女と同じような視線を向けて、先輩もオレを見出した。
「君のことは、日々話している私が一番理解している。一言で言えば、君はいい奴だ。私のジャンプ談義に一日で呆れることなく、一ヶ月以上も付き合えるタフな精神力を持っている」
「先輩との会話は拷問か何かなんですか? 一日で呆れられるなんて」
「まあ、容姿も関係あると思うのだが、この姿で『熱くジャンプについて語るな』と男女問わずに注意をされている。だから、君と出会うまでは会話を自重していたぐらいだ」
そのまま自重してれば良かったのに。というか、この人、そういう前科があったのか。
「タフな精神力?」
緑髪の少女の聞き返しに、先輩が顔を向ける。
「そうだ、タフな精神力だ」
「それをタフと言うのだろうか?」
緑髪の少女がオレに視線を向ける。
「少なからず、お前もその女が変なのは分かっているんだよな?」
「少ない以上に分かってると思うよ」
「では、何故、その女から離れない?」
「は?」
「その女の話では容姿のギャップと話の内容のせいで、その女から離れていった者も多いはずだ」
「そうなるのかな?」
「つまり、その変な女と行動を共にするというのは、相当な事件のはずだ」
「酷い言い草ですね」
「もっと言ってやれ」
緑髪の少女は頭をガシガシと掻く。
「そこら辺に回答があるような気がする。タフではなく、もっと別な表現に言い換えるとするなら……この男を表わす明確なものが見えてくる気がするのだが」
緑髪の少女はブツブツと呟き、ふと顔を上げる。
「……待てよ。最初に話をおかしくしたのは、イカれ女の方ではなかったはずだ」
オレは先輩を見る。
「呼び方が、どんどん変わりますね?」
「イカれ女などと呼ばれるのは初めてだ」
緑髪の少女が顎の下に右手を持っていく。
「そうだ……。おかしいのはイカれ女よりも、男の方だ」
先輩がオレを見る。
「どうやら、格付けが決まったようだな。この場で一番おかしいのは、君だ」
先輩はフフンと鼻を鳴らし、口元は弓を引いている。
「何で、オレが先輩よりも変人になるんだ?」
「お前は対応力があり過ぎるんだ」
「対応力?」
緑髪の少女に向かって、オレは首を傾げる。
「いや、対応力というよりは見切りの早さだ」
自分のことを分析されるというのは気分がいいものではない。しかも、オレが分析されているのは、オレのおかしいところという訳の分からないものだ。
緑髪の少女が続ける。
「まず、わたしとの会話を振り返ると、お前は会話をいきなりぶった切ろうとした。理由は、今後の展開の面倒臭さを見越してだ」
「…………」
確かにそういうことはしたけど、それは君にも問題があると思う。
「そして、数々の友人がイカれ女に付いて行けずに去って行く中、お前だけはどういうわけか、イカれ女との関係を続けている」
「慣れれば、先輩との会話は興味深いものなんだよ」
「違うな。お前は、そこで見切ったのだ」
「……は? 一体、何を?」
「この女には何を言ってもダメだから、この女に合わそうとだ」
オレは額を押さえた。
「オレは、どれだけ外道なんだ? 今、こうして先輩と居るのが仕方なくじゃないか」
「違うのか?」
「…………」
宇宙人っていうのは、とことんなまでに失礼な奴しか居ないのか? 確かに、何度か諦めるようなこともあったが、決定的に関係を切るようなことにはなってない。
「そんな訳ないだろう。オレは嫌なら嫌と言うよ。言っとくけど、先輩は別に考えがズレてるわけでもないし、当然、イカれてもいない」
先輩は真っ直ぐにオレを見ていた。
「自分に正直で、我が侭なだけですよね?」
先輩のグーが、オレに炸裂した。
「全然っ! フォローになってないわ! あの宇宙人の言うように、おかしいのではないか!?」
オレは殴られた頭を擦る。
「もう、いい加減にやめにしませんか? こんなの答えが出ませんよ」
「む?」
オレは右手の掌を返す。
「街ぐるみで洗脳されてたなんて、そっちの方が眉唾でしょう? 大体、あの子が宇宙人とかって名乗ってる方が、どう考えても頭がおかしいじゃないですか?」
「確かに」
「ここは普通に無視して、追ってくるようなら最寄りの交番に逃げ込むのが正しい選択ですよ」
「それもそうか」
オレと先輩は緑髪の少女に向き直り、片手を上げる。
「「じゃあ、そういうことで」」
緑髪の少女は即座に切り返し、怒鳴り声を上げていた。
「それで納得するかっ! 今、実証されただろう! その男が、また見切っただろう!」
「どっちかというと、見限ったんだけどね」
「ふざけるなよ! お前達!」
オレは溜息を吐く。
「分かりました。一言、謝ればいいんだよね?」
「そうだ! 心から悪いと思って謝罪をしろ! そうすれば、お前達に起きていることを今直ぐに止めてやる!」
「…………」
オレと先輩は顔を見合す。
「何か起きてますっけ?」
「いや、私の方は至って何も。健康面も特には……」
二人して首を傾げて緑髪の少女を見ると、緑髪の少女は指を差して言い放つ。
「同じ夢を見続けているはずだ!」
その言葉で、ようやくオレは目の前の緑髪の少女が宇宙人であると信じることになった。
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