#25 【鬼滅の刃】簪コレクターの沼鬼、実は犯罪心理学的に正しかった?【スーベニア】

 行方不明になったという少女を探す炭治郎。彼の前に現れた鬼は着物をはだけてこういうのだった。


「この蒐集品の中にその娘のかんざしがあれば喰ってるよ」

 ご存じ、『鬼滅の刃』前半の印象的な場面の1つです。16歳の少女を執拗に狙う偏執的な性格、喰った相手の簪や髪飾りをわざわざ取っておくといった奇行が鬼という残忍な存在をよく表している名場面といえましょう。


 ところで、「○○より我々人間のほうが恐ろしい」という結論は怪物の登場する作品でのお約束です。『鬼滅の刃』に登場する鬼たちも元は人間であり、鬼としての残忍な性格の片鱗が人間時代に見えていた者も多数存在します。この通称沼鬼の行動も、あながち「鬼だから」こうなったというだけではないのかもしれません。


 犯罪心理学においてもっとも有名な「鬼狩り」もといプロファイラーはやはり、元FBI捜査官のロバート・レスラーでしょう。彼は著書の中で、快楽を目的とした連続殺人犯の行動の特徴を整理し、様々に分析を試みています。


 彼によれば、沼鬼のように殺害した相手の所有物を現場から拝借する殺人犯は相当数(彼の分析した事例では3割ほど)いるようです。中には体の一部を切り取って持ち帰るものもいて、このような行為はお土産を意味する「スーベニア」という言葉で表現されています。


 スーベニアの代表例はアメリカの殺人鬼エド・ゲインでしょうか。彼は彼は殺害した被害者の皮膚などを利用し、入れ物やランプシェードといったものを作成していたことが知られています。


 より典型的な例を挙げるならば、被害者の身に着けていた衣類や宝石類を保管していた事例、または被害者の足を切り取って保管していた事例などがあります。


 保管されたスーベニアはそのまま物的証拠となり、殺人鬼にとって致命的な失態になる可能性もあります。彼らがそのような危険を冒してまで記念品を持ち帰るのは、記念品が彼らの実行した殺人を思い起こさせ、殺人による性的興奮を再度味わうことができるためであると言われています。


 フィクションにもこのような行為をする殺人鬼がまま登場しますが、やはり代表例は『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する吉良吉影でしょう。彼は殺害した女性の手を切り取って持ち運び、デートまがいの行動にいそしんでいます。これは完全に性的欲求からくる行動であり、極端に戯画されているとはいえ犯罪心理学的には割と妥当な描写であるといえるのかもしれません。万が一のときにはキラークイーンで証拠隠滅を図れるという事情が彼の大胆な行動に影響している可能性も高そうです。


 手フェチの吉良吉影が被害者の手を保存していたように、スーベニアとなるアイテムはそれぞれの殺人鬼の性的欲求によって固有の特徴を持ちます。先ほど足を保存した犯人の例を挙げましたが、彼はハイヒールを履いた脚に興奮を覚えていたようです。


 そういう事情がありますから、アメリカなど殺人の多い国では、複数の事件を犯人ごとに区別し、どの事件が同一人物の手によるものなのかを判断する際にこのスーベニアが有効活用される場合もあります。被害者から指輪が盗まれた事件とそうでない事件は別の加害者によるものだろうと区別できる、みたいなことですね。


 日本は区別しなければいけないほど殺人事件が多くないのでありがたいことです。


 ともあれ、鬼によって50年代のアメリカ並みに人が死にまくっていた大正日本でのスーベニアは墓穴を掘る行為。見事に犯人だと同定され炭治郎の怒りを買って殺される羽目になりました。簪なんて捨てておけばよかったのに……そうは言えないのが彼らの厄介な性なんでしょうね。


 あれだけ人を殺しておいて静かに暮らしたい、は問屋が卸さない話です。


【要約】

 連続殺人鬼は自らの欲求のため、犯行現場からいろいろなものを持ち去る。だが、それが墓穴になってしまうこともよくある。静かに暮らしたいなら人は殺さないに限る。


【元ネタ】

鬼滅の刃:吾峠呼世晴による漫画作品。殺人「鬼」というくらいだし、明らかにカルトの教祖っぽい鬼もいるし、作者が著名な犯罪者をリサーチしている可能性も……?

ジョジョの奇妙な冒険:荒木飛呂彦による漫画作品。そういえばこっちにも吸血鬼が出てくる。


【参考文献】

ロバート・K・レスラー他 (1995). 快楽殺人の心理 FBI心理分析官のノートより 講談社

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