#24【鬼滅の刃】「俺は長男だから我慢できた」は本当?【出生順と性格】

 もはや社会現象とまでなった『鬼滅の刃』。その主人公である竈門炭治郎は「長男」であるということが度々ネタにされています。


 そんな彼の発言の中で最も長男らしかったのがこれ。元十二鬼月だという実力者響凱との戦闘中、前回の任務の負傷の痛みに襲われた彼が心の中で語った言葉です。


「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」

 ちょっと待てぇと言いたくなる次男の筆者です。私の経験則では長男のほうが情けないような云々。


 それはさておき、兄弟姉妹の順番と性格に関連があるのでは? という疑問は通俗的によくあるようです。アマゾンッ! で検索すると日本に血液型性格診断ブームをもたらした悪名高き『自分の説明書』シリーズの兄弟順版――によく似た全く違う筆者の本が出てきます。陸で二匹目のどじょうを探すかのような所業……。


 実際のところどうなんでしょうか? 長男の性格、次男の性格、あるいは末っ子の性格なんてものがあるのでしょうか?


 実は日本でこのことを研究した人がいます。依田明という心理学者は子供を最初に生まれた長子、最後に生まれた末子、上と下に子供のいる中間子に分け、それぞれの性格を分析しています。


 それによると、長子は「何かする時に、人の迷惑になるかどうかをよく考える」とか「欲しいものでも、遠慮してしまう」といった性格があるようです。まさに炭治郎的性格といっていいでしょう。もっとも、「自分の用事を平気で人に押しつけたり、頼んだりする」といったジャイアン的性格もあるようです。


 末子(あるいは一人っ子)は「お母さん/お父さんに甘ったれている」や「無理にでも自分を通そうとする」と、これまたそれっぽい性格が書かれています。一方、中間子はあまり熱心に記述されていないうえ、「気に入らないと、すぐに黙り込む」「よく考えないうちに仕事をはじめて、失敗することが多い」などとほぼ悪口です。中間子ワイ大激怒。


 とはいえ、こんな研究は気にする必要ありませんよ中間子の皆さん! 筆者の観測範囲では近年、出生順と性格の関連についての研究は低調な印象がありますが、それにはちゃんと訳があります。要するに、いろいろ批判の多い研究なんですねこれ。

 批判の中身を簡単に言うと「人はいつから長子であり、いつから中間子なのか」という点が曖昧であるということです。


 これだと漠然としていてわかりにくいので、竈門一家で例えてみましょう。

 竈門家の長子である炭治郎は作中で15歳です(鬼殺隊入隊時)。一方、二番目に生まれた禰豆子は1歳差の14歳です。禰豆子以下の4名の年齢は明らかではありません。


 これはつまり、長男である炭治郎は禰豆子が生まれるまでの1年間、心理学的には長子ではなく一人っ子(末子)だったということです。禰豆子の方も、下に弟が生まれるまでは中間子ではなく末子であったということになります。


 長子というのは、下に弟や妹がいて初めて長子として扱われます。裏を返せば、弟や妹が生まれるまではいつまでも一人っ子です。

 炭治郎は1歳で妹が生まれましたから、人生の大半を長男として過ごしています。このような場合、彼の性格はほとんど長子としてものであろうと言って過言ではありません。


 では、『To Loveる』シリーズの結城リトのように妹との年齢差が4歳である場合、あるいはもっと極端に10歳以上年齢が離れていた場合はどうでしょう。曲がりなりにも一人っ子として成長した後で兄や姉になる場合、その人の性格はどの程度長子で、どの程度一人っ子なのでしょうか。


 同じ問題は中間子にも起こります。『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズのキョンは中間子だそうですが、妹との年齢差はリトと同じ4歳です。『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』のイリアスフィールのように11年末っ子として生きてきたのにいきなり妹が沸いて出たため中間子になったようなパターンもあります。里子とか連れ子といった可能性を考えればありえないことではないでしょう。


 とまぁ、このように、人は末子を除けば「後から長子や中間子になる」ものであり、そうなった時点が1歳なのか10歳なのかというのが性格に多大な影響を及ぼすであろうことは言うまでもありません。そういうわけで、出生順と性格の関連は単純に語ることができず、研究としてもなかなか発展しないのかもしれません。


 長男だからって我慢できるとは限らないし、次男以下でも我慢できる人は大勢いるということですね。性格ってたいていこんなもんです。


【要約】

 心理学研究でも長子は遠慮がちで気を遣う性格だといわれるが、批判も多い。いつから長子になったのかが性格に与える影響は大きく、それを抜きに語るのは無理だろう。


【元ネタ】

鬼滅の刃:吾峠呼世晴による漫画作品。週刊少年ジャンプで連載していた。社会現象に筆者もあやかろうという腹である。

To Loveる:漫画を矢吹健太朗、脚本を長谷見沙貴が担当する漫画作品。こちらも週刊少年ジャンプの漫画。「兄弟姉妹で年齢差の大きい作品」でパッと思い浮かんだのがこれだったのだ。

涼宮ハルヒの憂鬱:谷川流による小説作品。ちなみに筆者が初めて読んだ「ラノベ」がこれだった思い出。主人公に妹がいたことは不意に思い出した。

Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ:『Fate/stay night』を原作とするひろやまひろしによる漫画作品。ここまで3作とも見事に「高校1年か2年の兄と小学校高学年の妹」という組み合わせである。書きやすいのだろうか。


【参考文献】

依田明 (1989). 性格心理学新講座2 性格形成 金子書房

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