#18【スーパーロボット大戦】味方の命中率80%が外れるのに敵の20%が当たりまくる!こんなの絶対おかしいよ!【プロスペクト理論】

 この世に信用できないものが3つあります。

 1つは急に久々の連絡をしてきた高校時代の友達。

 1つは「大盛食べれそう」というときの自分の腹具合。


 そして最後が、スーパーロボット大戦の命中率です。

 私はやったことないのですが、ちょっと検索すると阿鼻叫喚の地獄絵図。もはやテンプレのネタと化しています。


 私になじみがあるのはむしろポケモンの命中率でしょうか。命中率70%ってさほど低くないのに外れまくりますよね。ていうか時々100%でも外れますよね。かげぶんしんとかされてないのに。


 不思議なのは、自分の攻撃が当たらないとか、相手の攻撃が当たるといった部分に注目が大きいのに、低い確率で自分の攻撃が当たったとか、高い確率の相手の攻撃が外れたという報告は滅多に見ないことです。同じ攻撃が当たったり外れたりする以上、客観的なインパクトは同じはずなのに、なぜ自分が損したことばかり言われるのでしょうか。


 あくまで、この命中率が全く正しいという仮定の上でですが、このような不可解な感想を抱いてしまう理由を、心理学で説明できるかもしれません。


 さて、では皆さん、いまこの文章を読んでいるブラウザの新しいタブを開き、「プロスペクト理論」と検索してみてください。そして画像を表示します。できました? ありがとうございます。お手数おかけします。カクヨムって挿絵入れられないので。


 きちんと検索ができていれば、昔懐かしい比例で使ったような二次元の方眼紙に、波打った曲線が描かれた図が出てくるはずです。これが今回説明する「プロスペクト理論」を端的に示しています。


 プロスペクト理論とは、ノーベル経済学賞を受賞したカーネマンとトゥベルスキーによって提唱された理論です。これを理解するために、ちょっと以下の質問を考えてみてください。


 2つの選択肢から1つ選んでください。

 選択肢A:無条件で1万円ゲット。

 選択肢B:コイントスで表が出れば2万円ゲットだが、裏が出れば0円。


 おそらく大半の人がAを選んだのではないでしょうか。ちょっと考えてみると、得られる金額の期待値は両方とも1万円で違いはありません。にもかかわらず、なぜ多くの人がAを選ぶのでしょうか。


 それを説明するのがプロスペクト理論です。

 先ほど検索した図を見てください。図の縦軸が心理的な満足感、横軸が客観的な利得です。線が上へ行けば行くほど満足が高く、右へ行くほうが客観的にプラスです。逆もまたしかり。


 さて、原点から曲線が伸びていますが、それは左右対称ではありませんね。右、つまり利益の側に比べ、左、つまり損失の側のほうが曲線の曲がり具合が大きく、ちょっとの損失でがっくり落ち込むことがわかります。一方、利得のほうは少しプラスされても線がなかなか上へ行きません。


 これは、人が損失により敏感に反応する「損失回避傾向」があることを意味しています。つまり、客観的な損得の絶対値としては同じでも、「得した!」という感情よりも「損した!」という感情のほうがより感じやすいということです。100円拾うよりも100円落とすほうが心理的な反応が大きくなりやすいというわけです。


 これをスパロボやポケモンに当てはめてみましょう。人は得よりも損に敏感です。それは「自分の攻撃が当たった」や「相手の攻撃が外れた」といった得したケースよりも、「自分の攻撃が外れた」や「相手の攻撃が当たった」といった損したケースのほうが感情を揺さぶられやすく、ゆえに記憶に残りやすいということです。


 こうして、命中確率は当てにならないという思いが作り上げられることになります。まぁ、あくまで確率が正しいという前提での話ですけど。


 ちなみに、このプロスペクト理論のもう1つの肝が「グラフが線型ではない」という点です。ほら、曲線の傾きは遠くへ行くにつれて緩やかになっていくでしょう。


 これは、例えば「100円損する」から「1000円損する」という変化のほうが、「100万円損する」から「110万円損する」といった変化よりも敏感に察知できることを意味しています。金額が大きすぎるとピンとこないんですよね。


 だから人は、車を買うとき使いそうにもないオプションに数万を払ったり、家を建てるときにあとで邪魔になる天窓に数万払ったりします。すでに百万単位でお金を使っているので、数万が気にならなくなっているのですね。


 逆に。消費税が数パーセント上がるのにはすごく敏感に反応します。キャッシュレスで5%還元という、いつもの買い物からすれば誤差のような金額に拘泥したりするのもこのためでしょう。


 還元っていっても、1000円買って50円ですからね?

 小学生のお小遣いかよ。


【要約】

 命中率が当てにならないのは、プロスペクト理論のなせる業かもしれない。裏ステータスがあるならしらん。


【元ネタ】

スーパーロボット大戦:ロボットがいっぱい出るゲームという認識。ガンダムと「エバ」ンゲリオンの区別も曖昧な筆者の手には余る。

ポケットモンスター:説明不要。フロンティアブレーン怖い。


【参考文献】

ダニエル・カーネマン (2011). ファスト&スロー 早川書房

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る