#14 【アサシンクリード】いや、気づけよ【注意】
『アサシンクリード』シリーズは様々な時代で暗殺者となり、悪人へこっそり後ろから近付いてぶっすり刺して殺すゲーム。広大な敵のアジトをどう攻略するか、気づかれないように近づいて暗殺する緊張感と快感が人気のゲームです。
しかし1つ気になることが。それは敵がアサシンの襲来に全然気づかない! ということです。
なにせ彼ら、屋根で思いっきり足音がしても気づかない。5mそばで仲間が次々に殺されても気づかない。なんなら爆弾が爆ぜたり、ちょっと離れた建物の裏で死闘を繰り広げても全然気づかない。ちょっと遠いけど、ここだと視線に入るかな……という状況ならまず気づかない。主人公が熟練の暗殺者であることを差し引いてもあまりにも警備がザルすぎます。そりゃ皆殺しにもされようというもの。
しかしこの、不自然極まりないほどの間抜けさを笑ってばかりもいられません。もし同じ状況に立たされれば、私たちも彼らと同じように暗殺者の接近に気づかぬまま間抜けな死にざまを迎える公算が高いからです。
これは、人間の注意の特徴に原因があります。
まず、人間は変化の乏しいものをじっと見続けるという作業が苦手で、長時間集中して監視することができません。
第二次世界大戦中、潜水艦などでは敵の接近をレーダーなどで監視していましたが、あまりにも見落としが多いので研究の対象になりました。そこで心理学者の出番。彼らはレーダーを監視するのと似たような状況を設定して、実験参加者に監視をしてもらいました(このような作業をヴィジランスといいます)。
すると、敵の接近に気づくという作業の成績は、監視が30分を超えると急激に落ち込むことが分かりました。つまり単調な監視作業は、30分持てばいいほうで、それ以降は侵入者をあっさり見落とす可能性があるということです。
『アサシンクリード』シリーズが舞台とする古代から中世にかけては、兵士の福利厚生なんてほとんど考えられていなかったでしょうし、見回りも30分そこらで交代するとは思えません。のどかな田舎の風景をぼうっと見るだけの作業を何時間もしていたら、暗殺者に気づかなくても無理はないかも。
もう1つ、人が暗殺者の接近を見落とす理由があります。それは「選択的注意」です。
例えば、昨今よく歩きスマホはだめだという話を聞くと思います。歩きスマホをしていて、人や電柱の接近に気づかなかった人も少なくないでしょう。
人の注意は、全ての方向に一様に向けることができるわけではありません。道を歩いていても、スマホのように1つの物事に集中すると周りが見えなくなります。このように、雑多な刺激からあるものを選んで注意を向けるような働きを「選択的注意」といいます。
この働きで最も有名なのが「カクテルパーティー効果」でしょうか。雑踏の中でも自分の名前を呼ばれるとわかるというあれです。
この注意の選択を説明するときには、よくスポットライトの例えを使います。ライトが照らしているところが注意を向けているところで、暗いのは注意が向いていないところです。スポットライトは照らす範囲を広げれば、当然広い範囲を明るくすることができますが、明るさは落ちます。一方、狭い範囲に絞ればその部分はとても明るく照らせますが、暗い面積も増えます。特定のものに注意を向けている状態は、まさにスポットライトの明かりを絞っているのと同じことです。注意を向けているものはよく見えるけど、それ以外のものが全く見えていません。
この選択の力は本当に凄まじいものがあります。筆者は道路を横断するとき、右からくる車に意識を向けすぎて左からの車に引かれそうになったことがありますが、それはもう見事に突然車が出てきたように見えたので驚きました。なんであれに気づかなかったんだろう? という経験は皆さんにも多かれ少なかれあるでしょう。
基地を警備する兵士というのはたいていの場合退屈で、「雲が変なかたちしてるな」とか考えています。このとき、注意は雲へ向いているので、よそで音が鳴ろうが人が死のうがなかなか気づかない、ということになるのです。
最後に、理由を追加するなら「正常性バイアス」も関わってくるでしょう。これは何か異常な事態が起こっていても、「いや大丈夫だろう」と考えてしまうバイアスのことです。普通であれば、本当にやばいことというのは滅多に起こらないので、このバイアスは適応的に働くのですが、ごくまれにある本当にやばいときに発動すると逃げ遅れたりして死にます。
基地を警備する兵士であれば、仮に変な物音に気付いたとしても、「いや、気のせいだろう」と正常性バイアスを発揮して気づかないふりをするということが起こりえます。
しかしまぁ、本当にやばい状況は刻一刻と進行中なのが現実なので、遅かれ早かれざっくり殺されることになるのですが。
【要約】
兵士たちが暗殺者になかなか気づかないのは、長時間の見回りで集中力が無くなっているからと、選択的注意の働きで耳にすべき物音に注意が向いていないからだろう。あと正常性バイアスの働きも影響していそう。
【元ネタ】
アサシンクリード:ユービーアイソフトによるテレビゲーム。アブスターゴ社の作ったアニムスという機械で過去のアサシンたちとシンクロし、真実を探るゲーム。ただでさえ壮大なのに『オリジンズ』からオープンワールドになったせいで壮大さに手が付けられなくなった。広い。
【参考文献】
箱田裕司・都築誉史・川畑秀明・萩原滋 (2010). 認知心理学 有斐閣
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