#11 【美味しんぼ】「このあらいを作ったのは誰だあっ!!」……高齢者はなぜキレる?【高齢者犯罪】
「このあらいを作ったのは誰だあっ!!」でお馴染み……ではないですが、『美味しんぼ』に登場する主人公山岡士郎の父であり最大のライバル海原雄山は、漫画作品に登場する「キレる高齢者」の典型例かもしれません。
彼のブチギレエピソードで最も有名なのが、前述のあらいの話。まぁ実際にはネタになっているページばかりが有名でどんな話なのか判然としないのですが……。ほかにも、実の息子を野良犬だの豚だのと読んだり、フランス料理店にわさび醤油を持ち込むという傍若無人ぶりを発揮したり、病床の妻に無理やり家事をさせるDV夫がごとき振る舞いをしたりとやりたい放題です。そりゃ士郎も家出しますわ。
しかし超高齢化社会の日本にあって、キレる高齢者は社会問題と化していると言ってもいいかもしれません。漫画アニメ界を見渡しても『ONE PIECE』の赤犬しかり、『カイジ』シリーズの帝愛会長兵藤和尊しかり、そんな会長に虐げられている利根川幸雄だってキレては理不尽なことばかりしています。放っておいたらいずれ我々も避難した船を砲撃で木端微塵にされたり、焼き土下座を強要されたりするかもしれません。コワイ!
そんな未来を防ぐためにも、高齢者がなぜキレるのかを考える必要があるでしょう。
高齢者がキレる原因はいくつか考えられます。その中でもよく引き合いに出されるのが加齢による脳機能の低下です。
鶴見中尉の話で引き合いに出したように、人間の脳のうち前頭前野は計画性や衝動性といった機能を司っていますが、ほかにも実行機能という様々な課題をこなすための能力の中枢でもあります。高齢者はこの実行機能が、若い人に比べて低下しているという知見があります。
また意思決定にかかわる能力も加齢に伴って変化がみられるようです。とりわけ実行機能の低下と組み合わさり、新規の状況においてリスキーな判断を下しがちになるという研究もあります。
キレるという現象と関係の深そうな概念に衝動性があり、高齢者とこの衝動性との関係を調べた研究もあります。そもそも衝動性には、単純な作業に対して素早く決断を下すことで高いパフォーマンスを発揮することのできる機能的衝動性と、本来時間をかけて考えられるべき場面や物事でそうすることができないという非機能的衝動性に分かれるという考え方があり、高齢者と若者を比べた場合、機能的衝動性には差がないものの、非機能的衝動性は高齢者のほうが高いという知見が得られています。
こう見ると高齢者は脳機能が衰え、衝動性が高くなってと年を重ねると碌なことがないように見えますが、しかしそれはいささか早計というものです。パーソナリティ研究においては高齢者のほうが協調性が高いという研究があり、また先述の意思決定でも新奇な場面でなければ高齢者のほうが長期的な利益を追求する傾向があることも分かっています。
つまり高齢者になることとキレやすいかどうかには、単に加齢による変化以外にも要因があるということです。一口に老人といっても短気になる人ばかりではありません。『HUNTER×HUNTER』のネテロ会長も基本優しいおじいちゃんですからね。「貧者の薔薇」を使うようなとき以外は。
では何が高齢者をキレる老人か否かに分けているのでしょうか。
考えられる要因の1つは「孤独感」です。高齢者は離職や家族との離別など様々な要因で人とのかかわりあいが希薄になっていきます。つまり関係する人が限られるわけで、その限られた人に強く衝動性が向くと、キレるという結果に繋がりやすくなるのです。
思えば、海原雄山も孤独な人です。妻に先立たれ、息子とは対立し……しかし息子が結婚し孫に恵まれ、最終的に息子と和解する過程で態度が徐々に軟化していったのも事実。これは彼の孤独感が解消されていったためにキレることが少なくなったと解釈できるかもしれません。
キレる高齢者対策のポイントは孤独感の解消です。犯罪学に有名な社会的絆理論に基づけば、人は家族や友人など社会との繋がりが大きいほうが犯罪に走りにくくなるわけですから、これは単に高齢者だけの問題ではないのでしょうけど。
【要約】
加齢に伴う脳機能の変化や衝動性の増加がキレやすさの一因になる。ただ孤独でなければその悪影響を減じることができるだろう。海原雄山の変節はその好例になるかもしれない。
【元ネタ】
美味しんぼ:雁屋哲原作、花咲アキラ作画のグルメ漫画。個人的にはタイ米のエピソードが妙に記憶に残っている。あと士郎が奥さんの朝食に逐一ケチをつけるくそ野郎回。血は争えなかったか……。
ONEPEACE:尾田栄一郎の漫画。海軍大将の赤犬はまさしくキレる老人だが、オハラ編でもあんな感じだったし彼は若いときからああなのかもしれない。
賭博黙示録カイジ:福本伸行の漫画。鉄骨を渡ったり耳をかけてギャンブルしたり、まっとうに働いて借金を返そうという冷静な奴は誰一人いない。
【参考文献】
越智啓太 (編) (2018). 高齢者の犯罪心理学 誠信書房
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