#10 【ne0;lation】コラム:「未成年だから大した罪にならない」は本当か【少年法】

 週刊少年ジャンプ。それは週刊連載を持てるハイレベルな漫画家たちが血を血で洗う煉獄である。特に昨今は新連載を連続で登場させることが多くなり競争は激化の一途。「気に入った新連載が短命で死ぬ」呪いを受けている筆者にとっても辛いことこの上なく……。『Ultra Battle Satellite』は犠牲になったのだ……。

 逆に、筆者が「まあいいや」と思って読まなかったのが『火ノ丸相撲』『ワールドトリガー』なので徹底しているといえましょうか、この呪い。


 そんなジャンプに、この原稿を書いている2018年12月に登場した新連載の1つが『ne0;lation』。天才ハッカーものですが、主人公の性悪すぎる言動とハッキング描写の雑さで読者たちのヘイトを一身に集め話題となりました。これが公開されることにはどうなっていることか。


 私が本作で気になったのは、しかし、ハッキングとかではない、もっと言えば話の本筋とも全然関係のない部分です。

 主人公がIQ190を自称している部分? 確かにそこも気になります。#6を見直していただければわかるように、IQ190って測定できるか微妙なところですから。検査によっては理論上算出不可能な数字です。


 しかしそこではなくて、私が気になったのは主人公の「僕は未成年だから大した罪にならないよ」の一言。これは主人公が闇金の取り立て屋をハッキングで盗聴し、彼らの犯罪の証拠を録音したことを「お前も捕まる」と言われたときの反論でした。

 本作に限らず、「未成年は捕まっても大した罪にならない」という主張は通俗的によく見られます。しかしこの認識は、いくつかの理由で間違っています。


 まず第1に、犯罪の程度によっては未成年でも成人と同じように刑事裁判で裁かれる場合があるという理由です。

 犯罪者は成人未成年問わず、逮捕されると警察から検察へ送られます。ニュースでよく聞く「書類送検」の「送検」はこれを意味しています。その後、不起訴とならなければ裁判所に送られますが、未成年は通常、刑事裁判所ではなく家庭裁判所へ送られることになります。ここが処遇の大きな分かれ道というわけですね。


 しかし家庭裁判所が、この犯罪は程度が著しいと判断すればその少年は再び検察へ送られ、そこから今度は刑事裁判へ送られることになります。一度裁判所へ送られた少年を検察へ戻すので、これを「逆送」といいます。

 そして、厳罰化の波によって2001年以降、少年が故意に人を殺めた事例では原則的に逆送することが定められています。つまり殺人レベルの重罪になると少年だからという温情はあまり期待できなくなるということですね。もちろん、刑事裁判が加害者の年齢を考慮してくれる希望はありますけど。


 第2に、本作の主人公のように、ハッキングや盗聴といった比較的軽微な犯罪だったとしても、未成年だといろいろと面倒なことになります。

 仮に盗聴で捕まったとしましょう。成人であれば、これは各自治体の迷惑防止条例、あるいは盗聴器を仕掛ける過程で私有地に立ち入っていれば住居侵入罪ということになります。住居侵入の法定刑は3年以下の懲役または10万円以下の罰金で、迷惑防止条例は自治体によりけりですが罰金が住居侵入より高額かなという程度。

 そして、裁判所で行われる裁判の実に8割が罰金刑で確定しています。懲役がつくのはたった7%ほどで、しかもその半数以上は執行猶予がつきます。常習でなければ十中八九実刑を免れると考えていいでしょう。ここでは検討していませんが、そもそも起訴されないという場合も少なくありません。


 一方、これが少年だと話が変わってきます。

 少年犯罪であれば、罰金刑ということはまずなく、不処分でなければ保護観察or少年院送致ということになります。不処分(不起訴)の割合は成人と少年で大差ありませんから、同程度の犯罪であれば、成人であれば罰金刑で済むところ、少年では最低でも保護観察になると考えればわかりやすいでしょう。

 保護観察では、基本的に1年の間、定期的に保護司と呼ばれる指導者と面会して指導を受けることを求められます。この間、長期間の旅行に出る際には保護司の許可がいるといった制約が課されます。


 保護観察中の生活が良好であれば、決められた期間よりも早く保護観察が解除される可能性がありますが、一方で、犯罪に関係するものとの付き合いがあるといった態度が見られると少年院送致といったさらに厳しい処分が科されることにもなります。こう考えると、執行猶予にも似た印象です。


 刑事裁判レベルになれば成人と同じように裁かれる可能性があるけど、少年だから裁判官の温情をもらえるかもしれない。一方、成人なら罰金で済むような軽微な犯罪だと、少年なら保護観察になってしまう。こう考えると少年に対する罰は成人と比べてなかなかにいびつな形になってしまっているようにも思えます。


 このように細々と厳しく面倒な制度は、少年は未熟であり社会が守らなければいけないという思想を背景としています。成人はもう自立したいい大人なので、国があれこれ口を出すと人権侵害ということにもなり、最低限必要な罰を科すことしかできません。一方少年であれば、彼らを保護し教育するという大義名分のもと、大人相手では認められない制約を課すことが正当化されることもあるのです。

 表面上刑罰が軽く見えることと、ともすればパターナリスティックで人権侵害的ともとれる厳しい更生制度があることは表裏一体なのです。


 凶悪な少年犯罪が報じられ、厳罰化が叫ばれる中で、少年法の適用年齢引き下げ、場合によっては廃止してしまえという主張すら見られる昨今です。

 しかし、仮に少年法がなくなれば、少年法を廃止したい人たちの思惑とは裏腹に、非行少年たちは自身の行動の責任と向き合うことなく、単に金を払って済ませるということが頻繁に起こることになるでしょう。


【要約】

 少年なら軽い罰で済むというのは大間違い。刑事裁判を受けなければいけない場合もあるし、成人なら罰金で済むところを保護観察になることだってある。

 少年法は成人に対する罰に比べたら、むしろ厳罰ですらある。


【元ネタ】

ne0;lation:原作:平尾友秀、漫画:依田瑞稀による。「理系の不良」と「体育会系の不良」コンビが活躍する。週刊少年ジャンプで連載中。「文系の不良」の登場が待たれる。


【参考文献】

細江達郎 (2012). 知っておきたい最新犯罪心理学 ナツメ社

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