空想心理学読本

#7 【おさかな天国】おさかな天国はたぶん、世界一安全な国である【犯罪とDHA】

　皆さんは水と安全はタダという言葉を聞いたことはありますか？　たぶん無い人はいないでしょう。日本の水資源の豊かさ、そして安全性の高さを誇る言葉であり、同時にその価値に無頓着な日本人を皮肉る言葉でもあります。

　水はさておくとしても日本社会の安全性、とりわけ犯罪率の低さは世界でも有数です。一時は安全神話の崩壊も叫ばれましたが、この話をすると筆者は専門ゆえ長くなるのでおいておきます。

　さて、皆さんは日本が世界で一番安全な国だと思いますか？　実はもっと安全な国があるかもしれないと言ったらどうでしょう。日本が安全とは言っても日々のニュースを凶悪犯罪が騒がす昨今、もっと安全な国があるなら移住したいと思う人もいるでしょう。

　そんな人のために、日本よりも安全な国をここで紹介しましょう。

　それは『おさかな天国』です。

　あ、待ってください。ブラウザバックしないでください。筆者はまだ正気です。

　『おさかな天国』はご周知のとおり、2002年に発売されたやけに耳に残る曲です。歌詞はJASRACが怖いので引用しませんが、サカナサカナサカナと三つ並べればあの独特のリズムを刻んでしまう人も多いはず。

　『おさかな天国』を一つの国家とみなす無謀を承知で言えば、この国こそ日本よりも犯罪の少ない安全な国であると筆者は自信をもって主張します。

　その理由は、魚と犯罪にある極めて重要な関係です。

　『おさかな天国』がそう歌い上げるように、魚を食べると頭が良くなります。その理由は魚に含まれるDHA。DHAは脳の情報伝達を担う神経細胞に作用することで情報伝達の速度を上げ、それが頭の良さにつながるという理屈です。

　『Fate/Grand Order』にもサーヴァントとして登場するケルト神話の英雄フィン・マックールは知恵の鮭の脂が跳ねた親指を舐めることで様々な難問に立ち向かう知恵を得たと伝えられていますが、その伝説にはこういう背景もあるのかもしれません。

　実はこのDHA、正確にはDHAを含むオメガ3脂肪酸は頭の良さだけではなくその人の犯罪傾向に影響するという研究結果があります。

　エイドリアン・レインという犯罪学者が著書で紹介しているノルウェーの研究では、子供を実験群と統制群に分けてドリンクを半年間飲ませました。実験群の子供が飲んだのはオメガ3の入っているドリンク、統制群の子供が飲んだのが入っていないドリンクでした。ドリンクを飲んでいる半年間は、プラシーボ効果もあって両群の子供の問題行動が低下していきました。

　本番はここから。研究者たちはドリンクを飲まなくなってからさらに半年間問題行動の追跡を続けました。その結果、実験群ではドリンクを飲んだ半年で見られた問題行動の減少がそのまま維持され、統制群では元に戻っていったのです。

　オメガ3脂肪酸には、シナプスの機能や樹状突起の分岐を促進するなどして、脳機能と構造を強化する機能があります。近年の研究では脳機能の不全による自制心や計画性の欠如が犯罪に繋がる可能性が示唆されており、オメガ3脂肪酸による脳機能の向上はこれを回避する効果があると考えられています。

　日本人の魚介類の摂取量は減少しつつあるとはいえ世界有数ですので、犯罪率の低さも魚介を食べる量、ひいてはオメガ3脂肪酸の摂取量が大きく寄与しているかもしれません。

　翻って『おさかな天国』は、住民がDHAの塊そのものです。ちまちました経口摂取では追いつかないような効果が発揮され、犯罪率はがくりと大幅な減少をみているに違いありません。『おさかな天国』、なんと安全な国なのでしょうか。

　ここまで書いて気付いたのですが、住民食べられる側じゃないか。

【要約】

　犯罪にはオメガ3脂肪酸が関係している。オメガ3脂肪酸は脳機能を促進し、犯罪に繋がる可能性のある自制心や計画性の欠如を改善するかもしれない。ただおさかな天国が安全かどうかは知らん。

【元ネタ】

　おさかな天国： JF全漁連中央シーフードセンターのキャンペーンソング。

　Fate/Grand Order：スマートフォン向けゲームアプリ。フィンはストーリー第5章に登場。筆者のカルデアにはまだいない。

【参考文献】

エイドリアン・レイン (2015). 暴力の解剖学　神経犯罪学への招待　紀伊國屋書店