#6 【偏差値10の俺がい世界で知恵の勇者になれたワケ】い世界転生!偏差値10ってどれくらい馬鹿なの?【知能検査】
田中龍一、じゃなくて田中りゅう一はい世界に転生した勇者である。今日日異世界転生ものなんて掃いて捨てるほどありますが、しかし『偏差値10の俺がい世界で知恵の勇者になれたワケ』が特殊なのは登場人物が軒並みバカばかりであるという点でしょう。
なにせ主人公からしてセンター試験模試で偏差値10をたたき出し、自分の名前の龍を書けないレベル。その世界の住民もひらがなとカタカナを覚えるのが精いっぱいで漢字を一切書けないという有様。ただし、異世界なのに言語体系が日本語そのものである点には突っ込んではいけません。「異」が書けないのに「偏差値」は書けるのかとも言ってはいけない。
ところで、偏差値10というのはあり得るのでしょうか。そしてもし偏差値10という状態があるとすれば、それはどのような知能なのでしょう。
まずは偏差値とは何かということをはっきりさせておく必要があります。偏差値というのは「平均50、標準偏差10になるように得点を標準化した数値」のことです。
これを読んでいる偏差値10の人のために詳しく説明しましょう。当然のことですが、普通試験の点数は平均点も標準偏差(得点の散らばり具合)もてんでばらばらです。だから数学の試験の50点と国語の試験の50点をそのまま比較することはできません。ぱっと見同じような点数ですが、数学の平均点が80点で国語の平均が20点なら印象はガラッと変わりますよね? これでは複数の教科から受験科目を選ぶような試験の対策に極めて不便。そこで平均と標準偏差が一緒になるようにちちんぷいぷいと操作をすることで偏差値を算出し、異なる教科間の点数のシンプルな比較を可能にするのです。
偏差値50が平均値であることは誰でも知っているでしょう。そこから偏差値10は40しか違わない。なんだそんなに違わなさそうじゃんと言いたくなりますが、しかし当然そうはならないのです。東大に合格するために必要な偏差値が75~80であることからも察せられるように、偏差値は平均から離れれば離れるほど割合が極端に少なくなります。理論上、偏差値10以下の人間は受験者のわずか0.003%程度しかいません。センター試験の受験者は60万人前後と聞きますから、人数にしておおよそ18人。少ない! おそらく、正答数は1桁でしょう。偶然よりも明らかに低い正答率であり、答えをわかっていてわざと間違えたとしか思えないレベルです。
さて、このような状態の田中龍一君の頭の中はどのような状態になっているのでしょうか。カクヨムで第1話冒頭の彼の行動を見た時点では、
・異常なまでの読み書きのできなさ
・蝶々への偏った執着心
・低い扉の上部へ頭をぶつける
といった特徴があり、自閉症(偏ったこだわり)や学習障害(知的障害はないが読み書きなどに特定な困難がある)、運動障害(頭を必ずぶつけるほどどんくさい)などを併発した発達障害なのではないかと疑いました。しかし他者との交流は問題なく(と言っていいかは悩むところですが)行えており、読み書きも全くできないわけではないという状態なので判断に悩むところです。棒と箱で吊るされた聖剣を落とす程度のレベルとはいえ、論理的な思考もできていますし。僕が担任教師なら素人判断は保留にしてとりあえず専門家の助言を仰ぐところです。
まぁ、こういうのは本人が困っていないなら無理に直そうとする必要はありませんから、別にいいじゃんと言われればそれまでなんですが。
もっとも彼の行動に見られた最後の特徴「低い扉の上部へ頭をぶつける」はそう楽観視もできません。これは知能というよりは体性感覚の問題でしょうか。平衡感覚とか、運動機能を損なっている可能性があり、単純に事故の危険が高まるので原因をはっきりさせておくに越したことはないと思います。本人が気楽でも頭をぶつけてお陀仏ではお話になりません。
ちなみに、頭の良さのお話ついでに知能指数についても説明しておきましょう。知能指数、IQはざっくり「知能検査で測定された能力」という人を馬鹿にしたような定義があります。知能指数を測るための検査で測定された数値が知能指数という循環論法なのですが、ここではそういった込み入った話はさておきましょう。
知能検査にもいくつかタイプがありますが、多くは記憶力や言語能力、空間認識能力といった多岐にわたる脳の機能を測定できるように開発されています。そして偏差値同様に得点は平均100標準偏差15(検査によって違うかもしれないけど)に標準化されています。ということはもちろん、平均からあまり大きく逸脱する数字は出にくいということであり、この分布だと70から130の間に95%の人が収まるようです。『仮面ライダー』の本郷猛の知能指数は600だそうですが、実在する知能検査の難易度を考えると200以上を測定することは困難でしょう。300以上はまず無理です。
知能検査の構成からもわかるように、一口に知能といっても色々あります。代表的な知能検査であるウェクスラー式では知能は動作性IQ(パズルを組み立てたりするのに使う)と言語性IQ(言葉の意味を説明したりするのに使う)に分かれ、筆者の観測範囲ではたいてい一方が平均よりちょっと高くもう一方がちょっと低い、差し引きすると平均くらいという場合が多いです。得手不得手があるということですね。なので田中龍一も知能検査を受けたら彼の脳内がある程度わかるかもしれません。
なお知能に関して、サボテンのIQが2だという俗説を聞いたことがあるのですが、サボテンは知能検査を受けられないので少なくともIQは算出できません。また仮に受けられたとしても(サボテンダーか)、2ではどのみち検出できないでしょう。
ちなみに、男が射精した瞬間のIQも2だという俗説もあるようですが、もうお分かりのように射精した瞬間のIQを測定する方法なんて存在しないのでこれもでたらめに過ぎません。
もしかするとずっと射精させ続ければ可能かもしれませんが、なんだそのエロ同人みたいな展開は。知能検査をすべて終えるのに最低でも1時間ほどかかるのが通例ですから、出来たとしても終わるまでにテクノブレイクして死ぬのがオチでしょう。誰か退魔忍連れてきて。
【要約】
偏差値10は想像を絶する頭の悪さだが、その原因はいまひとつわからない。IQ600は検査の限界を考えると測定することは不可能で、サボテンの知能も測ることはできない。
【元ネタ】
偏差値10の俺がい世界で知恵の勇者になれたワケ:カクヨムで連載され書籍化された作品。異世界もの=超長期連載と思っていたけど、本編は5万字くらいで終わっている。
【参考文献】
森 敏昭・吉田寿夫 (編) (1990). 心理学のためのデータ解析テクニカルブック 北大路書房
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