第15話 スターマイン
「お待たせ」
遥とプリクラを撮って、少しすると、買い物を終えた朱里と大祐がやって来た。
「お、プリクラ撮ったの?いいじゃん。恋人っぽくて」
「恋人っぽいじゃなくて、恋人だし!」
「ええ・・・。だからまだそう言うのじゃ・・・」
「まあまあ。それはおいといて!そろそろ時間ないし、花火のとこまで行こ」
じゃれる俺達を朱里が仕切る。
「もうこんな時間なのか」
携帯の時間を見て驚く。
「そうよ。あたし屋台とか出店回ったりもしたいんだから!急ぎましょ!」
そう言って先頭を歩く朱里に、俺達はついていく。
花火は俺と遥の家の近くの河原で行うようで、そこは既に屋台等で賑わっていた。
「へぇ~こんな小さい花火大会でもそれなりに賑わってるんだな。お祭りじゃん」
現地に着くと大祐はうれしそうにはしゃぐ。
「お、祐介!金魚すくいあるぞ!やろうぜ!」
「ええ、俺下手糞だし・・・」
「いいじゃん。俺もやるの初めてだし」
「しょうがねえな・・・」
「ゆーちゃんがんばって!ゆーちゃん!私綿飴食べたい!」
「お前も何色々言ってるんだ」
遥も相当テンションがあがっているらしい。
「あんた達子供ね~。ほら綿飴はあたしが買ってあげるから。こっち来なさい」
「えー私ゆーちゃんの綿飴がいいのにー」
「俺が作るわけじゃないぞ」
「おい!早くしろよ祐介」
俺は聖徳太子じゃないぞ。
金魚すくいをやると、案の定俺は三匹目くらいで網が破れてしまった。
「ほら、兄ちゃん。捕まえた分」
出店のおじさんがそう言って俺に金魚を二匹入れた袋を渡してくれた。
「じゃあ俺の番な」
そう言うと大祐は袖をまくって網と器を構えた。
「おいおい、もう勘弁してくれよ」
数分後、出店のおじさんが参ったとばかりに声を上げる。大祐は網を一度も破る事なく、ひたすら金魚をすくい上げ続けていた。
「これ、全部持って帰る?」
おじさんが恐る恐る聞く。
「いや全部いらない。育てるの面倒だし」
「そうかい!すごいね兄ちゃん!」
おじさんは心底ほっとしたような顔をしてそう言った。
「やっぱお前はすげえな」
「逆にどうやったら破れるのか知りたい」
「うるせぇ」
「ねえゆーちゃん!綿飴だよ!」
朱里と綿飴を買ってきた遥がうれしそうに綿飴を両手にはしゃいでいる。
「はい。これゆーちゃんの分」
そう言って片方を俺に渡してくれた。
「え、俺の分は?」
「ちゃんと買ったわよ」
そう言って朱里は持っていた一つの綿飴を大祐に渡す。
「あれ、お前は食べないの?」
「そんなのただの砂糖の塊じゃない」
「かわいくないなお前は。遥を見習えよ」
「じゃあ遥と付き合ったらいいじゃない。まだフリーよ」
「うん。無理」
遥はきっぱりと断った。
「残念。ふられた」
「馬鹿ね」
そう言って朱里と大祐は笑う。
そうこうしているうちに、もうすぐ花火が始まるというアナウンスがかかる。
「やば。もう始まるじゃない。場所とか取ってないしどうしよ」
焦る朱里。
「そんなのその辺に座って見ればいいだろ」
そう言って大祐は河原のへりに座る。
「ここでいいじゃん」
「えー。花火遠い」
「多少近くても大して変わんないって。ほら文句言わずに座れよ」
そう言うと大祐は朱里の手をつかんで座らせる。うるさかった朱里が静かに大祐の横にそっと座る。
「なんだかんだでラブラブだよね。この二人」
遥が綿飴をなめながら俺の耳元で言う。
「そうだな」
俺もこの光景を見ていると、なんだかうれしくなってうなずく。
その瞬間、ドン!と言う音と共に花火があがる。
俺と遥もあわてて大祐達の後ろに座って花火を見る。
「ねえすごいよ!ゆーちゃん!花火だよ!」
遥は花火を初めて見たかのようにはしゃぐ。
「初めて見るわけじゃあるまいし・・・」
「ゆーちゃんの隣で見るのは初めて!」
アナウンスがスポンサーの名前を読み上げて、花火が次々とあがっていく。
「そうだよな」
大祐が思い出したようにしゃべりだす。
「花火っていいよな。やっぱ。花火自体もいいけど、こうやってこの四人で見ているのがいいんだろうな」
「そうね」
朱里も素直にうなずく。
「俺達って、楽しい事とかそう言う事、全部覚えていられないけど、なんかこの花火がぱっと開くイメージは忘れないんだ。きれいなのは一瞬だからちゃんと見ようとするからなのかな。だからその花火と一緒に、その時の事とか、一緒にいた人の記憶も覚えていられる」
「大祐君って案外ロマンチストなんだね」
遥が驚いて言う。
「そうよ。こいつ結構二人でいる時も語るのよ」
まんざらでもない様子で朱里が言い、そんな朱里を照れくさそうに大祐は見る。
「いいじゃねえかこう言う時くらい」
そう言うと大祐は再び花火の方を向き、続ける。
「記憶って曖昧で、覚えていられる事は全体のうちのほんの少しだけだけだろ。でも花火はさ、こうやって楽しい時間を俺達の記憶に結び付けてくれる気がするんだ」
そう言いながら花火を見る大祐の横顔が、なんとも言えない表情で、俺は素直にうなずいた。
「そうだな」
そんな話をしている間に花火はクライマックスにさしかかる。
小さい花火から少しずつ大きな花火へと、連続で打ち上がり続ける。
「すごいすごいすごいすごい!」
遥は打ちあがるたびに叫ぶ。
「うるさい」
「ひどい」
「いや、今のはさすがにうるさかった」
朱里と大祐も同調する。
そう言ってまた四人で笑った。
「はは。あぁ・・・。楽しいな」
次々と打ち上がる花火を見ながら大祐は言う。
「そうだな」
「来年も、また再来年もこうやってみんなで見に来れたらいいな」
「次はちゃんと計画して、場所もいいところ取って見たいわね」
朱里が少し嫌味混じりに言う。
「お前、さっきまでは素直だったのに」
「何よ。そんなに素直な子がいいなら遥と付き合えばいいじゃない」
「またその下りやんの?」
「え、何?花火見てるゆーちゃんの事見てた」
「お前、花火もう飽きたのかよ・・・」
呆れて俺は言う。
晴れた空、一斉に打ち上がる激しい花火の下で、俺達四人は仲良く笑っていた。
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