絶対に解けない数学の問題集
ちびまるフォイ
そんなこと、考えたこともない!
【問】
1周480mの池の周りをたかしくんは毎分65mで、
あやかさんは毎分55mの早さで歩くとき、
同時に反対方向に出発した2人が出会うのは何分後か。
黒板に書かれた問題を見て、
バーバード大学を卒業した美容師のハンズくんは手を上げた。
「4分後です」
先生はうんうんとうなづいた。
「どうしてそう思ったんですか?」
「簡単な計算ですよ。X分後に二人が出会ったと仮定すると、
1周480mのどこかでは出会うわけですから、方程式で解けば良いんです。
まぁ、凡人共に式まで教えるとすれば
65x+55x=480 というのを求めればいいのさ。結果は4。4分後だね」
「なるほど、間違いです」
「えっ!?」
「たかしくんは池を泳いで渡ったんです。
反対側に歩き出したことで、たかしくんはよりいっそうあやかさんの存在を求めた。
そして、池を回るのではなく、泳いでショートカットしたんです!」
「それじゃ、もっと短くなるとか? 2分後?」
「いいえ、二人が出会うのは1時間後です」
「おっそ!!」
「あやかさんの過去を考えてあげてください。
彼女は小さい頃に川で遊んでいた時に弟が溺れてしまった……」
「いや知らない知らない」
「弟を助けるために、川に飛び込んた父親が水圧で顔面強打。
そのまま病院に担ぎ込まれて死んでしまったという悲しい過去を考えて
もし池を泳いで向かってくる男がいたらどう思いますか?」
教室の女子達は顔を見合わせた。
「逃げる……」
「そう逃げるんです!! めっちゃ怖いもん!!」
「その後、二人はどうなったんですか?」
【問】
やがて向こう側から駅に向かって時速4kmで歩く人と、
池から逃げてきたあやかさんが出会うとどうなるか求めなさい。
「どうなるかって……どうなるんだよ!」
「こんなの求めようがないじゃないか!」
「お互い顔を知らないから、衝突するとかじゃないか?」
「みなさん不正解です」
先生は顔を横に振った。
「駅に向かって時速4kmで歩く人、その身長と体重とローレル指数が一致。
3つの値が等しい時、その人間は合同であると証明できます」
「同じ人間……! まさか……!」
「そう! たかしが戻ってきたんです!」
「「「 たかしーー!! 」」」
教室はワッとにぎわった。
【問】
ついにお互いの気持ちに気づいた、たかしとあやか。
2人が見つめ合う時間を求めなさい。
「なにが、なにが正解なんだ……?」
「気持ちに気づいたってことは長いんじゃない?」
「いやまだ気づきたてだからこそ、ぎこちなくて短いんじゃ」
「こんなのわかるわけないよ!!」
「正解です!!」
「えっ!?」
「そう、2人は視線でお互いの気持ちを確かめ合う。
ときに恥ずかしく目をそらせたり、でも目で追ってしまったり。
そんな初々しい恋心を求めることなどできない。すなわち、解無しが正解です!」
先生は拍手で生徒たち全員を祝福した。
生徒たちはみなキツネに化かされたようにぽかんとしていた。
「……先生、これって数学なんですか?」
「数学です」
「それっぽいことなにもしてないんですけど……。
もっとこう、公式とかあるんじゃないんですか?」
先生は改めて生徒全員の顔をぐるりと見回すと、
ゆっくり、それでいてハッキリ聞こえるように言葉を続けた。
「みなさん、数学は人生で役にたたないと思っていますか。
その通りです。連立方程式を使う機会なんてありません。
でも、この授業で伝えたいことはそんなことじゃないんです」
「伝えたいこと……?」
「与えられた問題に、求められる解答形式で答えるのではなく
みなさん1人1人が持っている想像力を広げてほしいんです」
「先生……!」
「これらの問題を通し、みなさんは自分なりの答えを
答え以外の答えを見つけられるようになってください!」
「先生ぇーー!!」
教室は拍手で包まれた。
「では次に、長方形の辺上を秒速6cmで移動する点P。
1時間後の点Pの気持ちを答えてください」
「もういい加減に終わらせてくれ!!」
生徒全員が正解した。
絶対に解けない数学の問題集 ちびまるフォイ @firestorage
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