第3話: "超絶合体グラトニー"

 

 俺とディスティアは5万エリスづつ合わせて10万エリスを受付のお姉さんから受け取った。1エリスが日本円で10円に相当するらしいので全てを換算すると100万円程の大金で誰かに盗まれないか心配だ。受付のお姉さんの案内で近くの宿泊所へ行き 10畳程の部屋を100エリスで借り受けた。100エリスつまり1000円の激安宿だ。部屋の中にはモコモコの雲のようなWベッドが設置されていてディスティアはそれを見取るとベッドへ飛び込みまるで子供がはしゃいでいるように飛び跳ねたりして遊んでいた。俺もベッドの端に腰掛け疑問に感じていた12のルールのことをディスティアに尋ねることにした。


『なぁ…ディスティア。12のルールについてどう思う? あの、"禁忌を犯した者には罰を与える"ってやつ。』


 ピョンピョン飛び跳ね空中で一回転すると丁度俺が腰掛けているすぐ隣に綺麗に座った。

『12のルールについては詳しく知らないけど私が思うに"禁忌を犯した者には罰を与える"つまり、何かしらの不利益が生じた場合に処分されるとかかな?』


 ディスティアって何も考えていないように見えてちゃんと考えているんだな。人は見かけによらないってことか………。


『12のルールだけじゃなくてディスティアが教えてくれた"主人が僕に名付けをする"ルールも記載されていなかったけど暗黙のルールだからなのか?』


『それ、私も思ってたんだ。 この12個のルール自体が何か違和感を感じるよね。』


『そうなんだよなぁ。…………………そういえば、ディスティアと俺がエルシオンへ移動する時に行った黒煙のやつってまた出来るのか?』


『それが出来ないの。どうやって移動したのか記憶に無いの。』


『記憶がないだって!?』

『うん。今思えば何でやったことも無いのにエルシオンへ"一瞬"で行けるって分かったんだろう???』


 今話しただけで3つも分からないことがある。ただ、まだこの世界に来て1日しか経ってないから自ずと解明していくかもしれない。今は取り敢えず置いておくか……。すると、ディスティアのお腹の辺りからグ〜〜ギュルギュルギュルと音が鳴り響いた。


『"ソル"や"セル"で作られている僕もお腹が空くんだな。』


『そう…なの…。私たち僕も…主人たちと同じように…お腹が空く……の。早く何処かへ……食事に……行きましょ。』


『そういえば俺もお腹が減っていたんだった。それじゃご飯でも食べに行くか。』


『レジス……私を…背負って…くれない? 力が入らないの……。』


 ディスティアを初めとした僕たちはお腹が空くと軟弱になってしまうのか……。


『分かった、今日は仕方ないが明日はそうならないように気をつけろよ。』


『あ…り…が…と。後はお願い………。』

 そう言い残しディスティア眠ってしまった。


 色々と騒がしい奴だ…………。


 俺は倒れ込んだディスティアを背負った。小さな2つの胸が背中に当たるのだが自分の"不運"から誕生した存在であることを知っていた為それ程興奮はしなかった。歩くたびにミディアムヘアーの白髪が鼻に当たりムズムズするがディスティアを起こさない為に必死にくしゃみを堪えた。色々苦難はあったが灯りが一際輝く酒場のような場所へ入っていった。テーブル席が満遍なく散らばっていて酒瓶などが散らかっていた。テーブル席が満席だった為、仕方なくカウンター席へ行きディスティアをうつ伏せ状態にさせ隣に座らせた。この店の管理人らしき男にこの店のオススメ料理を注文することにした。


『マスター、この店のオススメ料理を1つお願いします。』



『お客さん、うちは初めてですかい……。』

 丸いアフロヘアーをヘアーブラシで整えながら答えた。


『あ、はい……。』

『分かりやした。私の腕によりによりをかけたパルムを作って差し上げやしょう………。』


 男の声はとても渋く何処か趣があった。白い袖シャツを括りあげ蝶ネクタイを整えると長い脚をねったりと歩ませ厨房へ入っていった。しばらくしてからジュワジュワと音を立てながら小さな鉄板を持ってきた。その上には漫画肉が乗せられていて脂が滝のように溢れ出ていた。


『マスター、これって漫画肉ですよね。』

『漫画…肉? そりゃあどんな種類の肉ですかい?』


 そうだった。ここは異世界で、俺がいた世界のことは何も知らないのか……。


『俺が元々いた世界にこれに似た料理がありましてね、漫画肉って言われているんです。』

『成る程…道理で聞いたことがねぇ訳です。この世界ではパルムという名前で呼ばれていやす。長話はあれなんで食べてみてくだせぇ……。』

『それじゃあいただきます。』


 俺は両端に突き出た骨を持ちかぶりついた。肉に刺さった歯と歯の間から脂が湧き出て肉肉しかった。しかし、その脂にはしつこさが無くスープを飲んでいるイメージに近くカレー風味の香りが口から鼻へと突き抜ける。徐々に歯を食い込ませて引きちぎった。肉は分厚く弾力があるにも関わらず漫画肉のゴム感とは違い簡単に噛むことができ飲み込めた。


 こ、これはう、美味すぎる……。な、なんなんだこれは!! 今まで食べた肉料理と比にならない。特にこの脂が喉に澄み渡り汚れが浄化されていく……。


『どうですかい、私の腕を振るった最高の1品のお味わ。』

『とても美味しいです!!』

『そりゃよかった。』



 隣でうつ伏せ状態になっていたディスティアの前にもパルムが置かれた。顔をゆっくり上げると死んだ魚の目をしており口からよだれが漏れ出ていた。口に運び込み一口食べると赤い瞳に輝きが戻り、猛スピードで完食してしまった。


『うゥゥゥんんんまぁぁぁいいいい!!!!』

 両手を頬に当て可憐な表情を見せると再びうつ伏せになり寝てしまった。


 感情の起伏が激しい奴だ………。さぁ俺も残りを完食するか…………。うん、これは何回食べてもイケるな!


 俺がパルムを頬張っていると後ろから声を掛けられた。振り返るとそこにはスキンヘッドの頑強な男と歴戦の亡者と言わんばかりの鎧を身に纏った男が立っていた。


 不幸だ……。このパターンは面倒なことに絡まれやつだ…………。元いた世界でも絡まれては金を奪われる悲しい末路を経験したなぁ………。はぁ…………。


 すると、何処からともなくチリンチリンとベルが鳴り響きつい、戸惑ってしまった。その音を耳にした酒場の人達はテーブルを退け広いスペースを作り出した。不敵な笑みを浮かべながらスキンヘッドの男が喋りだした。


『その表情、やっぱりお前ルーキーか!!』

『あ、はい……。』

『読みが当たったぜ! これで1勝貰ったもの同然だ!! 』


 騒々しさで寝ていたディスティアが起き、スキンヘッドの男の前にしゃしゃり出る。

『ちょっと……うるさくて眠れないんだけど!!』



『もしかして、このちっこい奴がお前の僕か?』

 スキンヘッドの男は唖然とした表情で上からディスティアを指差した。


『ええ…俺の僕のディスティアって言います…。』

『………… 可愛い僕だが俺のルータスに比べればまだまだ見劣りするな………。』


『我はルータス……。以後お見知りおきを……。』

 スキンヘッドの男の横に立っていた傭兵の如き男が挨拶をする。



 ディスティアは怒りの表情を浮かべ下方からスキンヘッドの男を見上げる。

『うるっさいわね!! このハゲ!! ちっこいとか見劣りとか言うな!!』

『ハゲ…………。このチビ今俺様のことをハゲ呼ばわりしやがった!!!!』


 俺たちの会話を聞いていた周りの物見客がブツブツと話しだした。

『おい…あれ見ろよ……。ルーキー狩りのビル&ルータスだぜ……。』

『とするとその前にいる奴らはルーキーってことか……。』

『可哀想にまたあいつの犠牲者が出るのか………。』


 ルーキー狩りのビル&ルータス? つまり、俺たちはコイツらにカモられたってことか?? もしそうだとしたら、これからこいつらと戦闘を始めるのか?? 何で戦闘することになってるんだよ…………。


 俺、ディスティア、ビル、ルータスが対峙する空間に歪みが生じ、見覚えのある白髪の少女が大きなサイコロを持って出現した。黄金に輝く瞳、サラサラとした長い白髪、子供っぽいあどけない顔。そう、その少女の正体は運命の女神パルカだった!! 俺は転生させられた記憶が瞬時に蘇り思考が停止する。


『パルカ!! 何で……ここに……。』

『君は確か………私が転生させた小林月影くんじゃないか。無事にここまで来れたようだね!!』


『何が無事にここまで来れたようだねだ!! ろくな説明もしないでこの世界に送り込みやがって……。』


『だって、君を送り込んだら面白そうだったし……そういう決………ってこんな話してる場合じゃなかった。早く運命のダイス振って、小林月影くん!』


 パルカが持っていた大きなサイコロを手渡された。サイコロには意味のわからない言葉が6面全てに綴られていた。


『これで何をすればいいんだ?』


 呆れた表情でビルが説明をする。

『はぁ…仕方ねぇなぁ…。つまりはだな、第1条10項の規定によって"ダイスの所有権は低順位に委託される"ってことだ!!』


 確か序列ランキング登録の時に受付のお姉さんが話していたルールにそんなことあったなぁ……。


『お前が振って勝負の内容を決めるんだよ!! 早くしろ!! 』


 何なんだよ……。理解が追いつかない、何で突然勝負することになったんだよ………。訳が分からない………。


 俺は言われるがままに手に持っていたサイコロを投げた。クルクルと回り続け、徐々に速度が低下していき、カウンター席の椅子に当たった拍子に止まった。サイコロが指し示した内容は"超絶合体グラトニー"と書かれていた。


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