そんなこんなでも、月日というのは淡々と確実に過ぎていくもので、テストでは落単の危機をやっと回避する程度の点数をとり、ついに夏休みに突入した。

バイトをいつもより少し多くして、それ以外はほとんど家にいた。

外出するときなんて、生活に使うものがどうしても必要になって買いにいくときだけだった。



そしてはやくも、あの花火大会からちょうど一年がたった。

彼への恋心を自覚した。

彼に見とれた。

彼と初めて手を繋いだ。

彼に振られた。

次々とあの美しく悲しい記憶が私の脳内を流れては消えていく。


ちょうど1年がたった今日も、あの花火大会は開催される。

ここから電車で三時間ほどのところにあの花火大会の会場はある。

行こうと思えば簡単に行ける距離だ。

行きたい思いとそれに反する思い。


一人で見たって、意味がないか。


それでも。

去年と同じ場所で花火を見たら、少しは吹っ切れるのだろうか。

それとも、ますます彼への思いが募るのだろうか。


いや、もしかしたら、彼は誰か女の子と来ているかもしれない。

もしそうしたら、もしそうだったら?

女の子に、あの優しい笑顔を向けていたら?

ふたりの手が固く繋がれていたら?

その場面を目撃して、

私は、耐えられる?

耐えられるわけ、ない。

耐えられるわけ、絶対にない。


胸が苦しくなって考えるのをやめた。

いい加減、諦めなければいけないのに。

こんなことしてたって、仕方ないのに。


こんなとき、普通、物語なら優しそうな年上の男の人とかが手をさしのべてくれたり、彼の記憶が戻ったりするのに。

なんて、ありもしない妄想を一瞬してしまう。




ブー、ブー、ブー。



普段はほとんど黙っている私のスマホが珍しく振動した。

誰だろうか。


今日はあれからちょうど一年だから、もしかしたら、もしかしたら。


____彼が、記憶を取り戻したのかもしれない。



そんな希望的観測を振り払って、スマホを手に取る。

そんなわけない、と思うのにパスコードを入力する手が震える。

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