卒業式の日。


卒業式が始まる前から泣いていた人を横目でちらりと見ながら私は平然と過ごす。


このクラスに特に思い入れはない。


式典は、隣で船をこいてるクラスメイトを鬱陶しく思っていたら終わっていた。


ホームルームが終わったあとは集合写真を撮って解散した。

それから、部活のお別れ会のようなものに出た。

笑顔を貼りつけて後輩たちと話すのは苦痛だった。

元気ないですか?、とは誰も聞いてこなくて、彼なら、元気ないね、どうしたの?と聞いてくるだろうにと思ったらまた一段と気分が沈んだ。



部活のお別れ会のあと、カラオケにも誘われたけどそれは断ってまっすぐ家に帰った。


家に帰り自室に入るとどっと疲れが押し寄せた。

何気なくスマホを開いたらメッセージが一件。

どうせ何かの広告だろうと思ってしぶしぶメッセージを表示させると、

差出人を見て息が止まった。



秋川尊


『ごめん』




たったこれだけだった。

でも、たったこれだけで十分だった。

30分前に来ていた。

涙が溢れた。

ついに、だめだったのだ。

彼はついに、思い出さなかったのだ。

でもきっとまわりに言われたことが真実だと思って私に謝ったのだ。



返信する気にはなれなくて、既読をつけただけで放置した。

彼の連絡先を消そうとしたけれど、できなかった。

私はここまで来ても、一縷いちるの希望を捨てられなかった。


ふと思う。

私は彼と付き合う前、どのように毎日を過ごしていたのだろうか。

決して充実した日々とは言えなかったかもしれないけれど、今のように抜け殻のような日々は送っていなかった。

ただただ平凡な日々を送っていた。



もう、あの頃には戻れない。

彼なしでも普通に生きていたあの頃の自分が信じられなかった。

今となっては、だめだ。

すべてを捨て去ることなど、私にはできない。



彼が私のすべてになってしまっていた。

これを依存というのか、また別の言葉で表されるものかはわからない。

けれども、依存なんてどろどろしたものではなくて、もっと高尚な、たとえば愛のようなものだと思いたかった。

依存、なんていう言葉で片付けたくはなかった。


ふと、彼のアザだらけの無惨な姿が脳裏に蘇る。

もしかしたら、今、アザだらけなのは私かもしれない。

彼もそうかもしれないけれど。

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