とは言えにこりと笑った彼を見て安心した私。


でもそれもほんの束の間で。


数秒後に、彼の顔がみるみる険しくなって強張っていった。

アザだらけの顔のせいで余計にその表情が怖かった。

彼の目は恐怖をたたえているように思えた。

彼の唇はわなわな震え始めた。

自分が殴られて気を失ったときのことが蘇ってしまったのだろうか。


でも、

おかしなことに彼のその目は

私を真っ直ぐ直視していてまるで私を怖がっているかのようだった。



「な、なんでいるんだよっ、、


出て、いって、


お、俺のこと、殺しに来たんだろ、?


で、出ていけ、

そうしないとすぐに、ひ、人を呼ぶからな、、


というかよく、俺のこと見て泣けるよな、


ありえねーよ、まじで。

お前。



俺のことなんだと思ってるわけ?


なんなの?


ヤバいと思ったから謝りに来たみたいな?


謝りに来たら許すとでも?


はあ?

ざけんな、一生許せねーよ!!


呑気に学校いってんじゃねーよ、

おい、

何そこで突っ立ってんだよ、

はやく出ていけよ、

お前の顔なんて見たくねーよ!!!



出ていけよ!!!!!」




___どういう、こと?


彼の声は恐れを含んだものから怒りが詰まったものに変わってきて、

めらめらと目の中に炎があるかのように煮えたぎっていた。


見たことのない、鬼のような形相の彼。


私にはいつも、

少し困ったか顔とか

にこっとしたきれいな笑顔とか

私を心配そうにのぞきこむ顔とか

特にこれといった表情をしていないけれどひどく柔らかくて優しいまなざしとか

しか見せないのに。


数日前に私を愛しそうに見ていた眼からは想像もできないほどの

憎しみや怒りがつまった眼で私を見ているこの状況は

いったいなんなんだろう。


でも決して、

彼の目に狂気などは入り込んでいなくて

彼の気が狂ったとかそういう雰囲気ではなくて

しごく真っ当な様子で私をひたすら責めている。


わけがわからなくて

何も話せないでいると彼の声は荒くなるばかりで


「だれか助けて!!!


看護師さん!看護師さん!」


ついに彼は大声を張り上げて叫びだした。




するとすぐに

「どうしましたか!!!」

ベテランの看護師というような、

貫禄のある女看護師が病室に駆け込んできた。


彼女の前に広がるのは、

私を指差して怯えながらも怒りの表情で私を睨む彼と

ただ泣き腫らした目で私が硬直している光景。


「この人、この人、この前僕のこと殴ったんです!

それで僕は気絶して、

それで今、またこの人がやって来たんです!!

警察!警察呼んでください!!!

はやく!

僕、殺されちゃいます!」




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