神様に告ぐ。

@blanetnoir

帰り道、バスの中、空はどっぷりと濃紺色。



窓の外を眺めれば帰り道の人の往来が、街のイルミネーションに照らされている。


最近はエコブームで青やシルバーカラーの寒色が増えたけど、この街はシャンパンゴールドの温かみある色だから、気に入っている。


バスのスピードで動いているから、歩行人の様子なんて細かくは見えないけれど、

それでも目に付く、手を繋いだ2人組のシルエットたち。

恋人たちの日なんて言われるクリスマスの夜に向かって、街の景色の一部のように眩しい笑顔。しあわせをテーマに、絵を描くならこの風景は適しているのではないかと思う。そんなことを思いながらしあわせな気分に浸っていると、イルミネーションの切れ目に、光の加減でふと、私の顔が映り込む。その目が合うと、あまりに無気力な表情に驚いて、思わず目を伏せる。その私の後ろには、知らない人が疲れ切った横顔で隣に座っている。聖なる夜に向かって、日を重ねていく狭間に、私は変わらぬ日常を過ごしている。



それに不満があるわけではないけれど。



この街のどこかにいるはずの、これから出会うはずの運命を探していて、今日も出会わずに家に到着しそうで。



それはそれでいいのだけれど。



私にはたったひとつだけ不満があって、これはいつか神様に言ってやりたい。

私がまだあのイルミネーションの街を手を繋いであるく恋人に出会えていないことを嘆いている訳ではなくて。



私の奥深くに抜けずに刺さったままの、かつて手に出来なかった恋の痛みについて、ひと言どうしても物申したいのだ。



世界創造した神様が、まっさらな中からこれだけの世界を作り上げた仕事は凄いと思う、思うけれど、

全生き物たちが恋をするように造られたなら、その恋のメカニズムにブッキングがあるなんてミスを許したのは、唯一の過ちだと、思う。



恋敵なんて、誰も出会いたくないし、なりたくもない。



できるならば私の胸を広げてみせて、たった一度の痛手が10年たった今も私を時折苦しめている姿を、どうしても見せてやりたいの。

この傷が、どうしてもあの人以外を選べない私を支えているんだと、声を大にして言ってやりたくて。

かつて私の“恋敵”にやられたこの傷を抱えたまま、誰かと恋に落ちるだなんて、想像もできないから。

静かに、ただ静かに、私はこの街のイルミネーションをバスの中から眺める役に徹していて。

時折降ってくる恋の火種を笑って掌で転がしたあと、水溜まりに捨ててしまうのだ。



恋敵だとか、当て馬だとか。



命懸けで恋をする全ての生き物にこれはあまりに酷い仕打ちで、この世界で一番最悪なバグだと、認めてほしい。

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