第51話 「バカなこと考えているんじゃないでしょうね!?」
「よし。これからどうするかな」
妙な高揚感の中、スツールに座りなおした俺たちはこれからの対策を立てることにした。なんとなく、なんとかなるような気がする。
「一人ずつ話を聞くって言ってたわね」
「や、やっぱり石の事に協力するように言われるのかな……」
軽い悦田の言葉に、さっきの「脱出するぞコール」で少し顔を上気させていた志戸の声が途端に曇る。
「み、みみんな……」
うつむき加減の先輩が、上目遣いの小声でみんなを呼ぶ。
基本うつむき加減になるんだな、先輩って。
先輩につられた俺たちは、テーブルの上で顔を近づけ……ると志戸が背伸びをして大変そうになったので、スツールを持って志戸の周囲に集まるとコソコソ話モードに入った。
「ここ、ここここ、たたたぶん監視されてるとおお思います」
4人が顔を近寄せたところで先輩が切り出した。
「そうかな。見たところ普通の部屋ですよ」
「どどドクターが、たたたっタブレットを見て、おおお驚いていたでっそ? どっどどうやって飛行機ををとと飛ばしていたかっって」
「そういえばそうね」
「うーん。施設内の至る所に監視カメラを付けている可能性があるってことか」
俺は心底うんざりな顔をした。
まずいな、ひょっとしたらファーファやミミの姿を見られた瞬間があるかもしれない。
俺は侵入してからの事を思い返してみた。興奮しすぎていたせいか、どこでどうしていたのかハッキリ思い出せない。
ポケットの中から出したのって、スツールから飛行機を作り出した時とトイレの個室の中だけだったと……思う。自信はないけど。
「そうか。わざわざこの部屋に閉じ込めているんだ。付いているだろうな、カメラ」
「あ……たぶんあれかも」
目ざとい志戸が何かを見つけたらしい。
「あああ、ああれはしし紫外線検出タイプの……かか火災報知機……」
抜群の知識量を誇る先輩が答える。
「その横に小さな穴がありますよね? そこが一瞬何か反射したように見えたんです。レンズかなって」
志戸……お前、相変わらずの視力の良さだな……。俺たちには見えないんだけど。
「ということは、やっぱり覗かれているんだな」
「盗撮なんて悪趣味ね」
悦田がしかめ面をする。
「事故のフリして壊してやろうかしら」
相変わらず血気溢れてるな、悦田。
運よくミミもファーファもこの部屋に入ってから表に出していない。二人ともおとなしくしてくれているので助かっている。きっと俺が必ず会わせてやるという約束を信じているんだろう。
「奴ら、何が目的なんだろうな」
「さあ? 世界征服なんじゃない?」
悦田、お前はこういう話題の時はしゃべるな。
「いや、俺たちに協力して欲しいって何だろうなって。何がしたいのかなって」
「つつ月の裏側のいいい石の謎……かか解明したいって事と」
先輩が息継ぎをする。
「ひひ飛行機を飛ばした方法だとおお思いっますっよ」
「つ、月の裏側の石――ステラ、でしたよね……ミミたちの為にもなんとかしたいな……」
「そうだな。それからすぐにでも脱出したいよな――」
あ。
「そういえば今何時だ!?」
思わず叫んだ。
ずっと地下にいるせいか時間感覚がなくなっていた!
マズい。マズいぞ! 昼過ぎに侵入してから結構経ってるんじゃないか!?
冷や汗が吹き出てくる。
「午後4時23分。どうしたの?」
ゴツい腕時計を確認した悦田が不思議そうに答えた。
「宇宙――」
――っと、危ない。盗聴されているかもしれないんだった。
「トイレでアン○ンマンができなくなっているんだ」
キョトンとしている悦田。お前、以前、説明したことあるぞ。
「そそそそれは、ままずいでっすね」
さすが先輩。分かってくれた。
そうだ。今の宇宙では、襲撃を受けてしまうと沢山の仲間たちが回避特化の行動――アン○ンマンモードが取れない状態なのだ。
早くマントの素材になるものを相転移させねば。
深夜11時頃の襲撃があればマズい。
素材の転送には12時間かかる。その時間までには到底間に合わない。
いや、ひょっとしたら夜中の襲撃は無くて明け方の襲撃になるかも。以前の事を思い出した。
いやいや、最近は襲撃の頻度が上がっているじゃないか。甘い期待は寄せない方がいい。特に今日の敵の動きは奇妙だった。何が起きるか予想が付かない。
最初の頃のような単調な襲撃が懐かしい。懐かしいというのも変だけど。
不安や推測で、思考がグルグルしてくる。
マントを付けさせてアン○ンモードで時間稼ぎができないのなら、俺たちがその襲撃タイミングに合わせて直接指揮をしなくてはいけない。
安心して誰にも見られず、司令室に改造できる場所が必要だ。例えばトイレのような。
そこで、指示をしてやらないといけない。
まだまだ戦いを分かっていない宇宙人たちは、未だに自分たちに危害を加える相手に対して身動きが取れないのだ。
戦い方を知らない、戦おうとしないということは、どれだけ恐ろしい事なのか。
この宇宙人たちと関わる前には気にもしなかった。
「ちょっと。あんた、聞いてる?」
いつの間にかぼーっとしていたようだ。
悦田が目の前で怪訝な表情を浮かべている。顔近いって。
「悪い。ちょっと考え事していた」
「ちょっと、しっかりしなさいな。みんなで脱出するんでしょ!」
その言葉で気になっていた事を思い出した。
「先輩、そう言えばハイドンの部屋で自分は残るって言いましたよね? なぜですか?」
うつむき加減の先輩が、ビクリと反応した。
そして、急に深呼吸を始めた。
俺が教えた深呼吸だ。相当緊張しているんだな。
俺たちは先輩が落ち着くのを待った。
中性的で日本人形のような先輩の顔。
その唇が小さく動くが声は無い。いつもの、声が上手く出せない時とは違う戸惑いのようなものが見えた。
「そそそ、そそのことなんですけど……ややややっぱぱり、ぼくはのの残ろうと思うんでっす」
「「「え?」」」
ゴツンッ!
「きゃひん!」「ぐはっ!」
コソコソ話の最中、いきなり立ち上がった志戸が俺の顔面に頭突きをかましてきた。
志戸は頭のてっぺん、俺は顔面を押さえて二人で痛みのあまりしばらくしゃがみこむ。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさいッ! 大丈夫?」
頭を押さえながらおろおろする志戸。
「き、気をつけてくれ……」
ま、まあ……お前の身長だと、普段ぶつけるような所に顔なんて無いんだろうけどな!
志戸を抱きかかえ、頭を心配そうに撫でる悦田。
「気をつけなさいな! すずの頭が割れたらどうすんのよ!」
「今の俺が悪いのか!? 俺、被害者だぞ!」
「で、先輩、どうしたの? みんなで脱出するって言ったじゃない」
悦田! 今のセリフ、スルーかよ!
こちらも心配そうにおたおたしていた先輩がハタと気がつくと、改めて居住まいを正した。
「みみみんな捜しにきてくれて、あああっありがとう……いいい色々考えたんですけど、ぼぼぼぼくが残ることがいい一番いいイイとお思いまっす」
今の騒ぎで幾分緊張が緩まったのだろう。先輩はおずおずと話を始めた。
「せ、先輩……ひょっとしてわたしたちを解放する為……に?」
志戸が、うつむきがちな先輩をじっと見つめた。
「先輩、自分が人質になる代わりに俺たちを解放するなんて事、考えているんじゃないでしょうね?」
志戸のセリフの後を俺が続ける。
「何か言いたい事があるんじゃない? 先輩、私たちもう仲間同士なんだから大丈夫。味方よ」
悦田が言葉を促した。
「人質になるなんてバカなこと考えているんじゃないでしょうね!?」
「そそ、そのつもり……」
「ダメよっ!」
悦田がグイと先輩の顔に近寄せ、人差し指を立てて
「先輩、帰りたくないの? 私たちと一緒に帰るんでしょ!?」
先輩は悦田のその言葉に少し微笑むと、先輩には珍しくしっかりとした声で説明を始めた。
「りりり理由はあります。かか彼らは情報をしし知りたがっていいまっす。あああの部屋でドクターと、はは話をしましった。かか彼は、ずず
「でも!」
「だだ
「でも……」
「ふふ……じじ実はぼくもここ
そう言うと少し微笑んだ。
「家族が心配するじゃない! お父さん、お母さんがきっと心配するわっ!」
悦田が必死に考え直すように訴える。
先輩の顔が小さく歪んだ。
「……だだ
そう言うと、小さな唇を噛みしめる。
「……かか帰らなくても……しし心配なんてしない……から……」
先輩はうつむき気味の顔を上げた。
「……だだだだから……ぼぼぼくは、こここに居る方が、いいいいんです……」
先輩は小さな声でそう呟いた。
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