第37話
魔の森の中央に近い場所で、体長50mを優に超すほど大きくなっていたカラミティが寝そべっていた。
その周囲には、血肉の欠片が残っていることから、何かを捕食して休んでいることがわかる。
そんなふうに眠っているカラミティは、みに覚えのあるプレッシャーを感じた。
もしやと思い、片目を開けてみると、目の前には魔の森の主であるセフィロトがいた。
『久しぶりね、カラミティ』
そう言われるのも仕方ない。
最後に会ったのは、あの争いだったのだから。
それ以後は、カラミティは会わないように行動をしていたのだ。
やはりお前か。
何の用だ?
『あら、用がなければ会いにきちゃダメだった?』
そういう意味じゃない。
そもそも、お前がその気になればいつでも会いにこれたはず。
そのお前が、今まで会いにこなかったのに、今になって現れた。
その裏を邪推するなという方が無理というものだ。
『やっぱりそう思うわよね。失敗したわ。これなら、もっとこまめに会いにくればよかったわ』
で、何の用だ?
『んー、大したようではないわ。どれくらい強くなったのか、直に確かめたかっただけ』
そうか。
『気にならないの?』
聞くまでもない。
まだ、お前には遠く及ばないことくらいわかっている。
『確かにそうね。でも、あの時と比べればかなり強くなったわよ。あの時と同じくらいの威圧をかけているのに、対して効いていないから』
それは慣れだ。
これが初だったら、あの時と同じように硬直してまともに動けていなかっただろう。
『そうかしら?私はそう思わないわ。でも、ここに住んでいた強い魔物はほとんど食べ尽くしたみたいね。どう?私に挑戦してみる?』
ふん。
わかりきったことを聞くな。
勝ち目のない戦いに挑むつもりはない。
『あら、そう。つまらないわ』
それよりも、そろそろその威圧をやめてくれないか。
あいつが耐えきれなくなりそうだ。
カラミティはそう言って、少し離れた場所で震え縮こまっているワイバーンを見つめる。
『そういえば、あの子を育てているんだったわね』
違う。
勝手についてくるだけだ。
『そんなことを言っているわりには、甲斐甲斐しく面倒を見ていたように見えたけど?』
セフィロトはそう言いながら、ニヤニヤと笑っていた。
カラミティとワイバーンの出会いは、約半年ほど前だった。
その時も、強くなるためにつがいのワイバーンを倒し食べていた。
そして、その場にワイバーンが産んだ卵があったのだが、カラミティはその卵には手を出すつもりはなかったので、放っておいて倒したワイバーンを食べ終えた後はその場に眠りについていた。
数時間たち眠りから目覚めたカラミティの目の前に、孵化したばかりのワイバーンの幼体がいた。
いくらワイバーンといっても幼体では食べたところで対して力にならないと判断し、その幼体を放って移動を始めたのだが、どういうわけかワイバーンの幼体は、カラミティの後を追ってきた。
ワイバーンの幼体は、攻撃をする様子を見せず懸命に追っていた。
まるで、親に離されまいとする子供のように。
その様子を目にしたが、カラミティは関係ないとばかりに移動していく。
しばらく進んで一休みしていると、体に擦り傷を追いながらも幼体のワイバーンがやってきた。
その様子は疲労困憊で、脅威にならないと放置した。
事実、ワイバーンの幼体は、その場に倒れ込みカラミティを攻撃できなかった。
その後も移動すると、幼体のワイバーンは後を追ってきて、時折カラミティが食い残したものを食べて生き繋いでいた。
だが、それでは幼体のワイバーンの体は持たなくなり、ある時、格下である魔物に襲われているのを見て思わず手を出し助けてしまった。
それ以降、幼体のワイバーンの分の餌も確保して面倒を見るようになっていた。
そのことを、このセフィロトは知っていたのだ。
偶々だ。
それに、こんな弱い者を食らったところで、対して力を得られない。
『んー、どうやら本気で言っているみたいね。けど、それだとかなり時間がかかるわよ』
それを聞いたカラミティは、ため息をつく。
ただし、50mを超えるカラミティが吐くため息は、強風となってあたりに生えていた木々をなぎ倒していた。
ああ、その通りだ。
予想したよりも、成長が鈍い。
このままでは食べごろになるのがいつになることやら。
『そんな、あなたに朗報よ』
朗報?なんだそれは?
『ここから南東に下った場所に、べへモスという魔物がいるの。そいつは今のあなたと同等か少し弱いくらいの強さを持っているわ。そいつを狩りに行ったらどうかしら?』
……何が目的だ?
『大した事じゃないわ。あなたがどこまで強くなれるのか、見届けたいだけよ』
それが本気かわからないが、後悔するなよ。
べへモスというやつを全て喰らい尽くして、お前より強くなってやる!
『ふふふ。そうなるといいわね』
セフィロトは、にこやかな笑顔を見せる。
その余裕な態度を見せるセフィロトに、カラミティはこれ以上言う事なくべへモスを目指して歩き出したところで呼び止められる。
『待ちなさい。まさか歩いて行くき?せっかくいい脚があるのだから使いなさいよ』
脚?
『あの子よあの子。あなたが育てているワイバーンの子。その子を使えば歩いていくよりも早くつけるわ』
そうだな。その方が早いか。
セフィロトの威圧がなくなったにもかかわらず、いまだに震え続けるワイバーンに目を向ける。
カラミティとセフィロトが子供扱いしているワイバーンだが、その体調は3mを超えるほどだ。
だが、成体であれば最低でも5mを超えていることから、子供扱いするのも納得する。
しかし、こいつにべへモスのいる場所がわかるのか?
『大丈夫よ。今私が、そこまでの道のりのイメージを送るわ』
そういうと、セフィロトはワイバーンに向けて人差し指を向ける。
その時間はわずか数秒といったところで、やめる。
『これで大丈夫よ』
それを見ていたカラミティは不安を覚える。
まあ、お前のことだから大丈夫なのだろうが、どうやってべへモスのことを知ったんだ?
『秘密よ。じゃ、用事も終わったことだし、私は帰るわ』
セフィロトはそういって去って行った。
カラミティはしばらくそれを見ていたが、セフィロトのあまりにも自由な行動に呆れてしまう。
セフィロトの気まぐれな行動を気にするだけ無駄か。
それよりも、さっさとべへモスのところに向かおう。
カラミティは、そう思うと体を小さくしていき、30cmほどになるとワイバーンの背中に登り始める。
その様子にワイバーンは惑いを見せたが、カラミティがしっかりと背中にしがみついているのを確認すると、翼を動かし空へと飛び立つ。
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