第36話

 月日は流れ、1年近く経とうとしていた。

 リリィはカラミティと会うためにと頑張り続け、リルは体高3m近くになり毛の色は灰色グレイから白色ホワイトへと変化し、その実力はCランクに至った。

 もう少し頑張れば、Bランクに届きそうであった。

 コボルトのアイギスとイージスも頑張り、なんとかぎりぎりDランクになり、身長が150cm弱にまで大きくなり、体毛がそれぞれの瞳に近い近い色へと変化していた。

 そのお陰で、名前の呼び間違えをするということがなくなったのが良かった。

 最初の頃は、いちいち瞳の色を確認してから呼んでいたものだから、大変だった。

 他の方法で区別をすればいいとは思ったのだが、体格が似ているために時折身につけているものを交換してわざと間違わせる、という悪戯をしてくるためにその方法もあてにできなかった。

 それでも、長い時間を共にしているうちに、どっちがどっちなのか何となくわかるようになっていった。

 そこに、体毛の色が変化したことで、今ではほぼ間違えることはなくなった。


 そんな日々の中、リリィはギルドへ訪れていた。

 リリィはギルドに入ると、担当のエリナの元へ向かう。


「依頼にあったレッドボアの牙と毛皮です」


「はい、確かに依頼の品ですね。では鑑定をしますので少々お待ちください」


「わかったわ」


 しばらく経ち、鑑定が終わる。


「鑑定が終わりました。どちらも状態はいいようなので、高めに買い取らせていただきます。毛皮の方は金貨1枚、牙2本で銀貨50枚です。それでよろしいでしょうか?」


「ええ、それでいいです」


「では、こちらが買い取り金額となります」


 リリィはエリナが差し出した金額を確認すると、小袋にしまい込む。


「しかし、従魔を育てていると大変ですよね。レッドボアの魔石を売れば、最低でも金貨2枚は下らないのに」


 そういってエリナはため息をつく。

 エリナのような美人がそんなことをすると、様になっていて見惚れる男どもが何人もいた。


「仕方ないですよ。従魔を強くするためですから」


「しかし、リリィさんの連れている従魔のリルは、十分な強さを持っていると思いますが。今Cランクで、もう少しでBランクに届きそうだと聞きましたが?」


「ええ。もう少しでBランクです。ですけど、ラミィに会うにはそれでも弱いですよ」


「まだ諦めていないのですか。もういい加減諦めたほうがいいと思いますよ。あれから一度も会えていないのでしょう?」


「そうですが、ラミィがあの森にいるのは確かですから。私は諦めませんよ」


 リリィの瞳には決意が篭っており、今はいくらいっても無駄だと諦める。

 テイマーの強さは従魔と等しくなるため、今のリリィはCランクの冒険者であり、ここのギルドでもトップクラスになるのだが、カラミティに対する執着心が強すぎて困りものであった。

 リリィのすることは、そのほとんどがカラミティと直結するのだ。

 リリィ自身か従魔が強くなることで、カラミティに会えると信じているために、普通の冒険者よりも早い間隔で依頼を受け、魔物を倒していく。

 その結果が、20歳にもなっていないリリィがCランクに至ることになったのだが、側から見ればその様子は危うく見えるである。

 リリィは最速の道をたどっているつもりなのだろうが、他の者から見れば無茶の連続でしかない。

 それをどうにかしようと、エリナは今みたいに、苦言をしているのだが、効果がない。

 エリナは、そんなリリィの様子をみてはため息をつく。

 しかし、それでもエリナは諦めるつもりはない。

 リリィがどんな気持ちで行動をするにせよ、リリィは間違いなくトップクラスの冒険者であることには間違いなく、一番の成果を出しているのだから。

 だから、エリナは自分のできることをしていくしかない。


「そうですか。しかし、今回の依頼でリリィさんができる高ランクのものは終わりですね。残っているのはDランクやEランクになります」


「それしかないんですか?」


「はい。高ランクの依頼が出ても、すぐにリリィさんが片してくれますから、塩漬けされことがなくって助かってます」


「そうですか。それじゃあ、Dランクの依頼を受ける事にするわ。アイギスとイージスにもCランクになってもらわないといけないし」


「あの2匹ですか!?いいですよね、あの2匹。小さくってモフモフで愛らしい顔をしていて。どちらか私に譲ってくれません?」


「ダメです!あの2匹は私の大切な仲間なんですから!!」


「やっぱりダメですか。それじゃあ、一晩だけでいいから貸してもらえないかしら。一度でいいから一緒に寝てみたいんですよ」


「んー、そうですね。あの子達が嫌がらないのであれば、一晩くらいなら」


「本当ですか!?」


「え、ええ」


「今更嘘といっても通用しませんからね!!」


 エリナの豹変ぶりに、リリィは驚いた。

 リリィだけではない、近くにいたものたち全員がそうだった。

 だが、その中には、エリナの豹変ぶりに納得するものもいた。

 以前述べたように、リリィが連れているコボルトは動くぬいぐるみと言っていい外見をしている。

 その時より大きくなったが、それでも少し大きな子供と同じくらいの大きさである。

 可愛いもの好きであれば、そのコボルトと一晩一緒に寝ることができるとなれば、豹変するのも仕方ないと思った。

 しかし、そのことがわからないものたちにとっては、エリナの豹変ぶりには恐ろしく感じていた。


 しばらくして、エリナは自分の失態に気づき、顔を赤くしながら咳払いをする。


「それでは、後ほど伺いますので、その時はよろしくお願いします」


「……ええ。わかったわ」


 リリィはなんとかそう答えると、その場を離れる。


 しかし、エリナがこんなことになるなんて初めてみたわ。

 もしかして、エリナは可愛い物狂いなのかしら?


 リリィが、ふとそんなことを考えてしまうのも無理はなかった。

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