第14話

 リリィは、カラミティと会話らしいことをした後、空を見上げて日がだいぶ傾いていることに気づくと、急いで帰ることにした。

 しかし、リリィは完全に体調は戻っておらず、少々足元がおぼついていない。

 その様子を見て、不安に思ったカラミティは、こっそりとリリィの後を追っていく。

 しばらくリリィの後を追っていき、無事に草原を抜けたことを確認すると、カラミティは引き返していった。

 すでに時刻は夕刻近くとなっていたので、その日は草原の塒に帰ることにした。


 翌日、カラミティは森へと向かい、いつものようにエサを探していく。

 すると、ゴブリンの群れを発見する。

 数は4匹。

 一月ほど前であれば、1匹だけ逸れるか、隙だらけになるのを待っていたが、今ではそんなそぶりすら見せず群れに向かっていく。

 ゴブリンたちはというと、カラミティが向かってきているのを見つけると、四方八方へ散って逃げ出す有様であった。

 そうなると、全てを狩ることができなくなるが、1匹ずつになるので、倒すのは容易となる。

 カラミティから見て、近くにいるゴブリンの後を追う。

 逃げ足の速いゴブリンではあるが、体格の大きくなった分力を増したカラミティは、以前よりも足が速くなり、ゴブリンとの距離がぐんぐん縮まっていく。

 背後から近づいてくる足音から、カラミティに追いつかれそうだと気づいたゴブリンは、恐怖からか足をもつれさせ転んでしまう。

 そうなれば、2匹の距離はあっという間になくなり、追いついたカラミティは、ゴブリンの体を踏みつけ逃さないようにすると、頭に噛みつき簡単に噛みちぎってしまう。

 頭を失ったゴブリンは、ビクンッと大きく痙攣すると、血が大量に吹き出して命を落とす。

 その様子を確かめる事なく、カラミティはゴブリンの頭を咀嚼し飲み込むと、次に胴体を食べ始める。

 しばらくして、ゴブリン1匹丸ごと食べ終えたカラミティは、まだ物足りないのか次の獲物を探し始める。

 体にまとわりついたゴブリンの血の匂いにつられて、他の肉食系の生き物が来そうなものなのだが、カラミティの気配を感じ取っているのか、一向に現れる様子はない。

 そのことがわかったカラミティは獲物を探すのを一旦やめて休む事にした。

 近くの木の根元に横たわると、目を閉じる。

 1時間ほどすると、カラミティはいつもと体の調子が違う事に気づき目を開く。

 調子が悪くなったのではなく、その逆で力が溢れ出てくるのであった。

 まるで、数匹のゴブリンの魔石を食らったかのように。


 カラミティは気づいていないが、これはネームドモンスターになったためである。

 魔石の力を体内に取り込む効率が良くなり、数倍の力を得られるようになったのだ。

 その結果、1匹だけしかゴブリンを食べていないのに、数匹分と同等の力を得ることになった。


 そこまではわかってはいなかったが、いつもよりも力を得られる量が増えたことを理解したカラミティは、今まで以上に、ゴブリンを狩っていくことになった。

 まるで、この森にいる全てのゴブリンを食いつくかのように。


 それから4日が経ち、草原で過ごしていたカラミティは、リリィが近づいてきているのに気づく。

 これは、名前をつけられた事により繋がった影響であった。

 カラミティも、リリィに会うために近寄っていく。

 そして、5日ぶりの出会いとなったのだが、カラミティを見たリリィは口を開け呆然としてしまった。

 なぜなら、カラミティは5mを超え、6mに迫ろうかというほどの大きさにへとなっていたのだから。

 僅か5日間でここまでの変貌に驚くなという方が無理である。


 一方のカラミティはというと、久しぶりに見たリリィが小さくなったような? と首を傾げるがすぐに、自分が大きくなったんだと気づく。


 しばらくの間、そのまま見つめあっていたのだが、リリィはなんとか言葉を発することができるようになった。


「ビックリした~。ラミィだよね? こんなに大きくなってるなんて思わなかったよ。何があったの?」


 リリィがそう尋ねてみるものの、カラミティが言葉を発する事ができるわけがなく、返ってきたのは「クゥクゥー」と僅かに低くなった鳴き声であった。


「うーん、何を言っているのか、わからないけど、頑張ったんだね!」


 リリィは、ラミィがいっぱいご飯を食べて大きくなったのだと考えた。

 あながちその考えが間違ってはいないのだが、考えが安直すぎると思わずにいられない。

 リリィは、そのことはどうでもいいと思ったのか、話題を変える。


「そうだ! 今日はいいもの持ってきたんだよ」


 そういうなり、リリィは腰につけた小袋を漁り中のものを掴むと「ジャジャーン」と口にしながら小さな瓶を差し出した。


「これはね、ハチミツが入ってるんだ。ハチミツって知ってる? とっっっっても甘いんだよ!! なかなか手に入らないんだからね!」


 リリィは、瓶を掴んでいない手を腰に当て、胸を張ってドヤ顔をしていた。

 しかしながら、カラミティは何を言ってるのかわかっていない。

 ただ、リリィの姿から何か凄いのだろうということが、なんとなくだが理解した。


 リリィは、カラミティのそんな様子を機にすることなく、瓶のフタを開けようとする。

 キュポンっと、フタが開くとリリィは人差し指を入れハチミツをすくい取ると、その指をじっと見つめる。

 しばらく指を見ていたかと思うと、パクッと口に含んでしまった。

 ハチミツを舐めたリリィは、瓶を持った手を頬に当て、声にならない声をあげ悶え始めた。

 少しすると、チュパっという音を立てて指を口から引き抜くと「あま~い!」という歓喜の声を上げる。


「甘い、甘いよ~! なんで、こんなに甘いの~!!」


 リリィは、目を潤ませ全身から喜びが溢れ出ていた。

 それを見ていたカラミティは、リリィが舐めたものがどんなものなの気になり、顔を寄せる。


「あっ、ごめんね、ラミィ。これラミィのために持ってきたのに、私だけ食べちゃって。ラミィにも食べさせてあげるから、口を開けて」


 リリィが、瓶を前に突き出したので、カラミティは口を開ける。

 それを見たリリィは、瓶を傾けてハチミツを、カラミティの口の中に垂らす。

 カラミティは、ハチミツが口の中に入ると閉じる。

 すると、口に入ったものが、干し果実よりも甘いことに驚き、目を見開く。

 その様子がおかしかったのか、それとも嬉しかったのか、リリィは笑顔になる。


「ね、甘いでしょ?」


 話しかけられたカラミティは、リリィに目を向け、先ほどの喜んでいた姿に納得する。

 これだけ甘いものを口にすれば、ああなるのも当然だと。


「けど、ごめんね。持ってこれたのは、これだけなんだ」


 リリィは悲しそうに、目を落とす。

 その姿に、なぜかカラミティは心臓が痛む。

 どうにかやめさせようと思うのだが、どうすればいいのかわからない。

 とりあえず、鼻先でリリィの頬をつついてみた。

 すると、リリィはびっくりするが、すぐに嬉しそうに笑う。


「慰めてくれるの?ありがと、ラミィ」


 その後は、いつものように遊び、夕方の前にリリィは帰っていった。

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