第13話
あれから時は流れ一月ほど経つ。
トカゲは、いまだに草原を根城にしていて、森に行ってはゴブリンたちを狩っては戻る、という行動をしていた。
狩ったゴブリンの数はかなりのもので、三桁に近いだろう。
その影響は出ており、トカゲはさらに大きくなり3m超えるほどとなっていた。
それほど大きくなれば、森だけで過ごすこともできるのに、そうしないのは、数日おきに幼体——リリィ——がやってきて、干し果実をくれるからだ。
とは言っても、リリィが持ってくる干し果実の数は1つや2つくらいしかないのだが、それでも唯一の甘味を得られる機会であった。
森で同じような甘味を得られないかと、トカゲは探してはいたのだが、見つけられたものは、数段も落ちる僅かの甘味しかないような果実ばかりであり、だからこそ、リリィが持ってくる干し果実を食べれる機会を逃したくない、と思っていた。
1人と1匹は、そんな風に逢瀬を重ねていき、トカゲはリリィに対し襲う気持ちは完全になくなり、それどころか守ってやらないと、という思いが強くなっていく。
その気持ちは、干し果実を食べるためというのもあるだろうが、純粋に仲良くなったリリィの事を我が子を守りたいという感情に近いものになっていた。
まだ子供がいないため、そんな感情にトカゲは気づいてはいなかったが。
リリィが、トカゲに会いにきているのは、お礼にと干し果実を持ってきてあげた帰り道、大きくなったトカゲに対して持ってきた量では物足りなかっただろうな、と思いもう一度持ってこようと考えてやってくるのだが、会うたびトカゲは大きくなっており、その度にこれじゃ少ないと思い、なんども通っていた。
だが、お礼のためとはいえ、普通はこんな危険な場所に何度も来たりはしない。なのに、ここにくるのは、大きくはなっているが、トカゲがリリィを襲う様子を見せなかった、というが一番の理由だろう。
襲われるどころか、体を触らせてくれたり、背中に乗せてくれてたりと、リリィは完全に心を開き、安心しきっていた。
今もまた、リリィはトカゲに会いに来ていた。
「トカゲさん、だいぶ大きくなったね〜。まだ大きくなるのかな?」
リリィは、トカゲの背中の上に寝っ転がりながら聞いてくるが、トカゲはリリィの言葉が理解できているわけがなく、何も答えることはない。
リリィも答えが返ってくるとは思ってもいないようで、気にせずに喋り続ける。
「どこまで大きくなるんだろう?もしかして、ドラゴンくらい大きくなるのかな?そうなったらすごいね〜」
リリィが口にしたドラゴンとは、この世界で最大級の大きさ——少なくとも十数mと言われている——を持っており、その大きさに違わぬ強さも持っている。
どんなドラゴンでも、もし見つけたら、絶対に逃げろ。戦えば必ずに死ぬ、とまで言われる最強の魔物である。
あまりの強さゆえに、人の手には負えない脅威度Sランクの天災として認識されていた。
トカゲは大きくなったとはいえ、まだ3mを超えた程度である。
ドラゴンと比べればまだまだ小さい。
だが、リリィの言うように、これからも大きくなるとするならば、ドラゴン級の大きさになる可能性は十分にある。
リリィは自分で言ったことで、何か閃いたのか手を打つ。
「そうだ、トカゲさんには名前がないよね?私がつけてあげる!あのね、昔カラミティっていう名前のドラゴンがいたの。そのドラゴンはもう倒されちゃったんだけど、そのドラゴン見たく強く大きくなれるように、トカゲさんもカラミティって名前はどうかな?」
しかし、そんなことを言われても、トカゲは理解できない。
だが、何か思うところがあったのだろう。
首を動かし、リリィを見つめる。
「気に入った?じゃあ、今日からトカゲさんは、カラミティね!」
リリィがそう口にすると、異変を感じた。
「あ、れ?」
リリィは、力が抜けポスっとトカゲの背中に倒れこんでしまう。
その一方で、トカゲの体がほんのりと煌めき、力が流れ込んできたことがわかった。
その力は、背中に乗せた幼体から流れ込んできていると。
こんな経験は初めてだったので、トカゲはどうすればいいのかわからず、動けなかった。
力の流入は数秒という僅かな時間であったが、幼いリリィにとっては大きな負担であり、その結果が倒れ気を失った。
トカゲは、力の流入が終わると、自分とリリィが何かで繋がっている事に気づく。
その繋がりによって、リリィが力を失って気を失っているだけで、命に別状はないことを理解できた。
これなら時間が経てば、元に戻ることも。
なので、トカゲは、リリィが目覚めることの待つ事にした。
しかし、無知というのは恐ろしいものだ。
リリィが、トカゲにつけた名前のドラゴンは、いくつもの町や村を滅ぼしており、そこから「
リリィは自分で言っていたように、昔いた大きくて強いドラゴン、としか知らなかったのだ。
もし、リリィがそのことを知っていたら、名付けていなかっただろう。
だが、すでに「
そして、トカゲはただの爬虫類ではなく、魔物化していた。
名前のついた魔物は、ネームドモンスターとなり、同じ種族の魔物よりもはるかに強くなるということを。
魔物と化しているトカゲに、そんな物騒な名前をつけられた影響がないことを、祈るしかない。
1時間ほどすると、リリィは目を覚ます。
「う、んん……。あれ、私寝ちゃってた?」
目覚めたリリィは目をこすりながら、そう呟く。
すると、それに応えるかのように、トカゲは「キュー」と、以外にも可愛らしい鳴き声をあげた。
「えっ!?トカゲさん、応えてくれたの?」
すると、再び「キュー」とトカゲは鳴く。
「わぁ〜。初めて応えてくれた、嬉しい!ありがと、トカゲさん。って、そうだ。さっき名前をつけたんだった。ありがと、カラミティ。……なんか呼びづらいなぁ。カラ。は、なんか違うかな。ラミィ。うん、これなら言いやすいし、可愛らしい名前だよね。じゃあ、これからは、ラミィって呼ぶね」
リリィがそういうと、トカゲ、もとい、カラミティは「キュー」と応える。
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