第15話
カラミティとリリィの密会は長くは続かなかった。
リリィは誰にもバレずにカラミティに会いにいっているつもりであったが、母親にバレていた。
ただし、最近まで母親は気づかずにいたが。
少し時は遡り、母親が洗濯をしに外に出ていて家にいないことを確認して、リリィはカラミティにハチミツを上げようと小瓶に移している最中、運悪く母親が戻ってきてみられてしまう。
「あら、リリィ。ハチミツを移して、どうするつもりなの?」
母親は、笑顔でリリィに尋ねる。
その様子は一見穏やかそうに見えるのだが、底知れぬ威圧感を放っていた。
リリィはその威圧感によってか、口を開くことができない。
しかし、母親はそんなリリィを許さない。
「どうしたの?黙ってちゃわからないわよ?」
と、さらに母親は威圧をかけていく。
ここで、リリィは諦めて口を開く。
「えっと、ね。友達に」
「友達に?」
「食べさせてあげよう、と思って」
「あら」
母親は、思いがけない言葉を聞いて驚いた。
てっきり1人で楽しむためと思っていたらのに、友達に分けるためだったとは予想外だった。
すっかり怒られるものばかりだと思い、萎縮しているリリィの頭に手を置く。
途端リリィは、ビクッと震える。
「そう。お友達、喜んでくれるといいわね」
リリィは、その言葉でバッと顔を上げ母親を見つめる。
母親はニコリと微笑んでいて、怒っている様子はない。
そして、母親の言葉の意味を理解し、リリィも笑顔になる。
「うん!」
「でも、次からはちゃんと言いなさい。そういうことなら、怒らないから。ね?」
「はーい!」
リリィは元気よく返事をする。
その後、昼食をすませると、母親はリリィが小瓶を持って遊びに出かけるの見送り、家の掃除をして井戸の水を組みにいく。
水を組み終わり帰る際、村の子供達が遊んでいるのが目に入るが、娘のリリィの姿が見当たらない。
そのことが不思議に思い、近くの子供を読んでそのことを聞いてみる。
「リリィ?知らないよ?お前知ってるか?」
「俺も知らな~い」
「そういえば、リリィたまに見かけない時あるよな」
「俺、知ってるぜ。リリィ、村の外に1人で出ているみたいだよ」
「それは本当なの!?」
「う、うん。間違いないよ。俺、この目で見たんだから」
と、子供達からの証言を取り、リリィから話を聞かなくはならないと考えた。
しかし、今リリィがどこにいるのかわからない。
こういう時は、夫であるアランに話して探してもらうしかない。
そのために、組んできた水を置くために一旦家に戻る。
すると、家の中にすでにリリィがいて驚いた。
が、すぐに冷静になり、話を聞こうと思った。
「リリィ、帰ってたのね」
「あ、ママ、おかえり~」
リリィはリビングの椅子に座り、母親に返事をする。
母親は組んできた水を置き、リリィに近寄る。
みたところ、リリィの様子におかしな所はない、と判断した母親は、何をしていたのか聞き出すことにした。
「持っていったハチミツ、お友達に食べさせたんでしょ?喜んでくれた?」
「うん!最初はびっくりしてたんだけど、とっても嬉しそうだったよ」
「そう、それは良かったわね。それで、その友達って、どんな子なの?」
「えーっとね、えーっとね……」
リリィは嬉しそうに、母親に話していく。
母親は笑顔で聞いていたが、リリィが話す子に心当たりがなかった。
リリィの話と、村の子供達からの話から、村の外で動物でも飼っているのだろうと、憶測した。
そうとは限らないが、十中八九間違いないと確信していた。
問題なのは、リリィがどんな動物を飼っているのかがわからないことだ。
小さな動物であれば、この家でも飼ってもいいとは思うけど、大型ならば諦めさせるしかない、と考えた。
そのためにも、どんな動物を飼っているか知る必要があるわね。
母親はそう判断したが、リリィから聞き出すことはしない。
無理やりき出そうとしても、リリィは話さないだろうと予想したからだ。
その晩、リリィが眠ったのを確認すると、母親は夫のアランにリリィのことを話す。
「リリィは、そんな危ないことをしていたのか……」
「本当なら然るべきなんでしょうけど、あの子の場合、むやみに叱っても納得しないと思うの。叱るなら、こっそりと飼っている動物と会っている時に、叱るべきだと思うわ。その上で飼うかどうか判断するべきね」
「……その方が良さそうだな。わかった。次に会いにいっているのがわかったら知らせてくれ。俺が後をついていく」
「お願いね」
それから数日後、リリィが村を出て草原に向かったことに気づいた母親は、早速アランに知らせにいく。
アランは、知らせを聞くと、すぐさまリリィの後を追うため、駆け出していく。
草原に入り、少しするとアランはリリィを発見することができた。
リリィを見つけたアランは、気づかれないよう、草から顔が出るくらいに腰を落とす。
しばらくその体勢で追い続け、腰の限界に近づいた時、アランは、リリィの前方から何かが近寄ってくるのに気づく。
初めは、それがなんなのかわからなかったが、正体に気づくとリリィに向かって走り出す。
その時になってリリィはようやく、アランの存在に気づく。
「あ、パパ?」
「リリィ逃げろ!」
アランはそう叫ぶなり、リリィの前に立ち逃がそうとする。
だが、リリィは、なぜアランがそうするのかわからなからず、ポカンと見つめる。
それを見たアランは舌打ちをして、腰に差していた剣を抜き目の前にいるものに振り下ろす。
そこでようやく、リリィは状況を把握した。
「パパ、ダメー!」
リリィはそう叫ぶが、一足遅い。
アランが振り下ろした剣は、目の前にいる生物にぶつかる。
そのことがわかったリリィは、思わず目を瞑ってしまう。
と、同時に、キィンという甲高い音が辺りに響く。
そして、少しすると、何かが草むらの中に落ちる音がしたが、他に物音がしない。
そのことに疑問を持ったリリィが目を開けると、アランが半ばで折れた剣を見つめていた。
「バ、バケモノめ!」
アランはそういうなり、折れた剣を振りかぶる。
しかし、リリィがアランの足にしがみつく。
「何をしてるんだリリィ!さっさと逃げろ!!」
「待って、パパ!ラミィを殺さないで!!」
リリィの叫びを聞いたアランは動きを止める。
「ラミィ?もしかして、そのラミィというのは、目の前のこいつのことか?」
「そうだよ!ラミィは襲ったりしないの!だから殺さないで!!」
「いや、だが……」
リリィの言葉を聞いても、アランは戦闘態勢を解こうとしないが、その様子は迷っているようだった。
それもそのはずだろう。
アランの目の前にいるのは、体長6mはあろうかという、巨大な爬虫類だ。
アランからすれば、小型のドラゴンに見えたかもしれない。
そして、アランの知る限りドラゴンは人に危害を加える魔物でしかない。
だが、アランが攻撃したのに、目の前の魔物は反撃をしてくる様子はなかった。
しばらく悩んだ挙句、折れた剣を納めることにした。
「どうやら、リリィのいうように、襲ってくる様子はないようだな」
「そうだよ!ラミィは、とってもいい子なんだから!!」
「そうか。しかし、なんだってこんなこところにこんな魔物がいるんだ?」
「あのね、ラミィはね、私を助けてくれたトカゲさんなの!」
「何!?こいつが、リリィをアリから守ってくれたトカゲ、だと!?」
「うん、そうだよ!」
リリィは胸を張り、頷く。
それを見たアランは、驚愕した顔でカラミティを見る。
信じられん。あの時の話だとせいぜい1mくらいの大きさだったはずだ。それが、これほどの大きさになるだと?
いや待て、リリィはこのトカゲに対して、ラミィと呼ばなかったか?
もしや、こいつはネームドモンスターなのか!?
そのことに気づいたアランは、自身を落ち着けるために深呼吸をする。
「なあ、リリィ。こいつの名は、ラミィというのか?」
「うん、そうだよ。カラミティだから、ラミィって呼んでいるの!」
リリィは、嬉しそうにいうが、アランは絶望した顔をする。
「
アランはリリィの肩を掴んで、すごい剣幕で聞く。
その様子に驚いたリリィは、何かいけないことをしてしまったのではないか、と戸惑う。
「う、うん。そうだけど」
「なんて事だ!よりによってカラミティだと!?なんてことをしてしまったんだ!!」
リリィは、アランの様子から自分がとんでもないことをしてしまったことに気づく。
だが、どうすればいいのかわからない。
リリィがオロオロとしていると、アランは唐突にリリィの手を掴む。
「帰るぞ、リリィ」
「え?でも……」
リリィは、カラミティに顔を向ける。
だが、アランは容赦なくリリィの手を引っ張る。
「いいから行くぞ!」
リリィは抵抗できず、アランに連れられていく。
今までじっとしていたカラミティは、連れ去られていくリリィを見て、助けようと一歩を踏み出す。
しかし、そのことに気づいたリリィが、悲しそうにこちらを見て顔を横に振る。
それを見たカラミティは、足を止めてしまう。
そのまま立ち止まり、リリィの姿が見えなくなったカラミティは、身を翻し移動を始める。
この時、カラミティは理解していた。
ここにいれば危険だ。
安全な場所へ移動しなくてはならない、と。
しばらく歩んでいたカラミティは、ふと立ち止まって振り返るが、すぐに前を向き、再び歩き出した。
村に戻ったアランは、リリィを家に返すとすぐさま村長に会い、カラミティのことを知らせる。
話を聞いた村長は、事の重大さを理解し領主へ知らせに行き、カラミティを討伐するための軍隊が派遣される。
軍隊が草原にたどり着いたのは、アランが知らせてから10日以上経っており、その時にはカラミティは草原から遠く離れた場所へ移動していた。
結局カラミティを見つけることができなかったため、カラミティの情報を更に上に知らせることになった。
結果、カラミティはこの国だけに留まらず、世界中に伝わることとなった。
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