発明

結城 郁

第1話

「ふわぁぁ」

俺は眠気に耐えきれず、大きなあくびをした。

熱心に人類の進化について語っている女性教授は小鳥のさえずりような声で眠気を誘う。

【これじゃ、まるで子守唄だ……。】

この教授の講義は必ずといっていいほど寝てしまう。だんだん手に力が入らず文字が書けなくなり、声も頭に入ってこない。

【今日こそは寝ないって決めていたのに…】

しかし、俺は眠気に抗えずいつのまにか意識を手放していた。


「おい、おいったら!」

「?!!」

ガバッと頭を上げると、講義は終わっていて、目の前に友人がいた。

「また、寝てたのかあ?」

「何をどう頑張っても寝ちゃうんだよなあ…このままじゃ、試験もヤバイんだよ…下手したら留年しちゃう…」

「確かになぁ、お前、ほとんど講義寝てるし……。」

そして、ハッとしたように言った

「それじゃ俺の親戚の発明家を紹介してやるよ!まだ名もない発明家だけど、腕は確かだぜ!この前、お前に貸した眠くなると電流が流れるシャーペンもおじさんが発明したんだ!まぁ、お前には効かなかったけど…最近はスマホと連動して、決まった分の芯を消費しないとスマホが使えなくなる機能をつけてくれたんだぜ!」

と、誇らしそうにそのシャーペンを見せてくれた。

【俺はいちいち流れる電流に耐えきれなくなって違うシャーペンに変えてしまったんだっけ……。】

「発明家か…。本当にそれで眠気が何とかなるのかなぁ…。」

「何とかしてくれるって!これ、住所!発明品を頼まれたらおじさん絶対喜ぶし!」

「わかった、週末にでも行って見るよ」

「是非、そうしてくれ!」

友人は嬉しそうに笑った。


そして週末、俺は友人の叔父がいるという家に行った。

「ここか?」

ビルの一角に、上田発明所と書かれている。本当に、発明家なんだな。

俺は一つ、深呼吸をして、

「お邪魔しまーす……」

とドアを開けた。

すると、1人の男性が奥で作業しているのが目にはいった。何かの金属を火花を散らしながら溶接しているようだった。

「あっ、あの…すみません…上田君から紹介されて来た者なんですが……」

おそるおそる、声をかけるとその男性は保護眼鏡を掛けた顔を俺に向けた。

「…!ああ、君か!のぼるの友達というのは!!」

そう言って眼鏡を外しながは、三十代くらいの男性が汗をタオルで拭きながら言った。

「はい。かずやと言います。忙しいところすみません」

「いやいや、気にしないで…!ずっと君が訪ねてくれるのを楽しみにしてたんだ…!!!それで、今回はどんな発明をして欲しいのかな?」

と発明家は、満面の笑みを浮かべて言った。

「…あの、眠気を無くすような装置を発明して欲しいんです…お恥ずかしい話なんですが、何をしても講義中に眠ってしまって……」

「のぼるに渡したシャーペンは試した?」

「はい。でも、俺本当に眠気が強くて電流が流れて一瞬目が覚めてもまた、眠ってしまって…」

「ほお、それは大変だ」

そして、うーむというように悩むポーズをした。

「あの、急にこんなお願いしても困りますよね…すみません、気にしないで下さい、眠気は何とかしますから」

俺は何だか申し訳ないような照れくさいような気持ちになり、その場を離れようとしたその時、

「おお、いいことを思いついたぞ!」

大発見をしたように大きな声で発明家は言った。

「かずやくん!2週間ほど待ってくれないか?いいことを思いついたんだ!できたらすぐに連絡するから携帯番号を教えてもらってもいいかい?」

「えっ?はい…勿論…」

そうして俺は発明家と番号を交換した。

「それでは、完成を楽しみにしててくれ!」

「はい」

そうして俺は発明家と別れて帰路についた。

本当に眠気が取れる装置が発明されるのだろうか。半信半疑だったが、ひとまず明日の講義に備えて今日は早く寝よう…

そして努力は虚しく、眠気は何ともならないまま2週間が過ぎようとした時、発明家から電話が来た。

「もしもし、かずや君??」

「はい。かずやです。」

「あれからどう?眠気は?」

「それが…早く寝たり食べ物を変えたりしてみたんですが何の効果もなくて…」

俺は少し暗くなって答えた

「そうか、そうか!それならば是非来て欲しい!発明品が完成したんだ!」

「本当ですか?!じゃあ、明日のお昼頃行きます!」

「あぁ、楽しみにしてるよ!」

ポチリと通話を切る。

………本当に完成したんだ!!!

俺は明日が来るのが待ち遠しかった。


そして次の日ー

走るように発明家の家に行くとあのおじさんが嬉しそうに話しかけてくれた。

「かずや君見てくれ!これが発明した装置だ!」

そう言って見せくれた装置は手に乗るサイズの掃除機のようなものだった。

「これは?」

「この発明品は、眠気を吸い取るものなんだ。この部分を体の一部に当てれば眠気を吸い取ってくれる。そして吸い取った眠気は取っておいて夜に使う」

「眠気を吸い取る?!!本当にそんなことが!」

「あぁ、でも一つだけ注意して欲しい。溜めた眠気はその日のうちに消化してくれ。そうしないと身体が壊れてしまうからね。」

「分かりました!本当に素晴らしい装置ですね!明日からの講義が楽しみです!!」

「喜んでもらえてよかった。ぜひ活用してくれたまえ!」

そして俺は早速、翌日の大学にこの装置を持っていった。

そして例の女の教授が今度はヒトの特徴について語っている。いつもと同じように俺は眠りそうになった。だが、今日の俺はいつもとは違う。この装置があるんだ!

そして、俺は眠気を吸い取る装置を使った。

すると、どんどん、目が冴えて行く感覚があった。

教授の声もクリアに聞こえ、今までの眠気が嘘のようだった。


そして俺はこの装置を使い、全ての講義を眠らずに受講することが出来るようになった。全てが順調だと感じている頃、俺にふとある考えが頭をよぎった。

【ちょっとくらいなら眠気を溜めっぱなしにしても大丈夫なのではないか……】

試験前に寝ないで勉強できたら、それ以上嬉しいことはない。少しくらいなら大丈夫だろうと、丸1日、丸2日と装置を使って寝ないで過ごすようになった。装置を使うと眠気が綺麗になくなるため、眠らないのが日常となっていた。

そして、講義も復習もできて満足に過ごしていた時、俺は体に不調があることに気づいた。身体が重い。食力もない。これが眠気を溜めている副作用だろうか。

だが、テスト前の今、眠気を使うわけにはいかない。それに、今まで溜めた眠気を使えばどうなるのか分からない。俺は発明家に相談するため、電話をした。

「あの…もしもし…この前の発明品を使っているかずやですが…」

「あぁ…もしかして君も…」

「はい?」

「眠気を溜めすぎてしまったんだろう?」

「どうしてそれを!?」

「あれからあの装置を使いたいという人が多く現れてね、いろんな人に売ったんだ。忙しいサラリーマン、漫画家、自分の時間が欲しい主婦…そしてほとんどの人が君と同じように眠気を溜めてしまったんだ…」

「えっ?」

「だから、今は一日中寝なくて済むような装置を開発している。溜めた眠気を消費しなくても身体が壊れないような…」

「そうですか…」

「それまでは、何とか耐えてくれ」

「はい…」

それから、俺は一日中眠くならない装置が開発されるのを心待ちにした。

ーーそして一年後のとある会社

「何で俺たち、寝ないで一日中、働かなくちゃいけないんだ?」

「本当だよな…眠ることが許されてるのは土曜日と日曜日だけだもんな…一体誰が眠気を吸い取る装置なんてものを開発したんだか……俺には理解できない」

「全くだよな…眠れること以上に幸せなことってないのにな!

あーぁ、一度でいいから丸一日寝ていたいよ…」

【FIN】

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発明 結城 郁 @kijitora-kujira

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