第2話 愁歎とそれにまつわるアカウント
清顕はそのままベッドに倒れ込むと、眠ろうとして目を閉じた。数分間の無駄な努力の末、彼は起き上がってスマホを取り上げると、いつしか癖になった動作でTwitterを開いた。少しためらったのち、新しいアカウントを作成する。あっけない数分の操作で、この世界に無駄な文字列を生成するだけの機能がまたひとつ加わった。そのアカウント名を考える清顕の脳裏に、ひとつの、ひとつだけの名前が浮かんだ。彼は初めそれを考えないようにした。次に、意識的に追いやろうとした。最後に、彼は抵抗することをやめ、その名前を打ち込んだ。かすみ、と。
プロフィール写真には、自分で書いた女の子の絵を充てた。別れた彼女とまだうまく行っていた頃、恥ずかしがる彼女をなだめすかして描いた似顔絵だ。出来栄えはとても満足のいくもので、彼女はそれを見て、おばあさんになったら孫に自慢する、と言ったものだ。その孫は、もう彼の孫ではない。その冷酷な現実に胸を刺されながら、清顕は歯を食いしばって心の痛みに耐えた。
痛みが去ったのち、清顕は「かすみ」のアカウントを操作して自分のアカウントを覗いた。一番上には、こんな書き込みがあった。
> きよあき @KiyoAutumn・1d
> 今日も憂鬱だ。毎日悲しみに痛む心を抱えて生きているのに、誰も、誰ひとり助けてくれない。
清顕は「かすみ」のアカウントからその書き込みに返信した。
> かすみ @dasistmatchen・16s
> Replying to @KiyoAutumn
> 大丈夫?どうかしたの?
「きよあき」のアカウントに通知が付いた。清顕はそこに移って、返信を書いた。
> きよあき @KiyoAutumn・24s
> Replying to @KiyoAutumn and @dasistmatchen
> 君に会えなくてさみしい。会いたい。
すぐに「かすみ」に移って返信を書く。
> かすみ @dasistmetchen・17s
> Replying to @KiyoAutumn and @dasistmatchen
> いま大学にいます。中央食堂の2階で会わない?
清顕はここ1週間で初めて幸福を覚えた。
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