雨空のお迎え

君が来てから2ヶ月が経とうとしていた頃。


バイトがあった日だった。

バイトのもう1人が風邪で休んでしまってボクの仕事が多くなり、帰るのが遅くなってしまったことがあった。

やっと帰れると思ったら、運悪く雨が降り出して、傘も持っておらず、どうしようかとバイト先で雨宿りしていた時、自動ドアの向こう側にこちらに向かって走ってくる影が見えた。

雨が強めで姿がはっきり見えないが、近づいてくるにつれてそれが誰なのか、わかっていった。

それは君だった。


君は店に飛び込むなり、すぐにボクを見つけて駆け寄ってきた。

ダボダボのレインコートからポタポタと雫が落ちた。

彼女は大きな傘を抱きかかえるようにして持っていて、君はまるで今のボクの状況を知っていたかのようだった。

「お兄ちゃん、これ」

彼女はそう言って傘を差し出した。

その姿があまりにも可愛くて、ボクはありがとうと言いながら彼女の頭をわしゃわしゃと撫でた。

君は嬉しそうな、恥ずかしそうな表情をしてから、少し辛そうに「か、かえ……ろ?」と言った。

やはり、彼女はまだトラウマに勝てていないようだ。


そういえば、彼女にバイトのことを話したことは1度しかなかった。

たったそれだけでここに来ることが出来たのはすごいことだと思う。

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