始まりの始まり
6月の終わり頃、雨の降る日、ボクは濡れながら急いで家に帰った。
家の前に着くと、傘も差さずに家の前で立っている少女がいた。
ボクが「どちらさまですか」と聞くと、君は無表情のまま、「わからない」って言った。
それが君との出会いだった。
そのままにしておくのも気が引けるし、家に上げてあげたけど君は何も言わない。
「拭きなよ」とタオルを渡しても無言で拭くだけ。
放っておいたら服を脱ぎ始めて、「いきなりどうしたの!?」って言うと、「体を拭くから」ってやっぱり無表情で言ったんだ。
その時は君のこと、ただ常識のない女の子なんだって思ってた。
でも違った。
ボクが君に何を聞いても「わからない」としか返ってこない。
唯一帰ってきた答えは、「ここが前に私の住んでいた場所だから来た」という事だけ。
家族のことも、彼女自身のことさえ何も覚えていない。
いわゆる、記憶喪失と言うやつらしかった。
「家、帰らないとお母さんたちが心配するよ?」
ボクは優しくそう言った。
でも、君はボクの言葉を聞いた瞬間、小さな声で言ったんだ。
「……嫌」
確かに声は小さかった。
でも、そこからは強い否定、拒絶を感じられた。
「どうして嫌なんだ?」
そう聞いても君はまた、わからないと答えるだけだった。
よく考えてみれば、このまま家に帰れと言っても、彼女は家の場所さえもわからないのだろうし、きっと途方に暮れるだけだろう。
なにより、それで事故や事件に巻き込まれでもしたら、責任が自分に来るとも考えられる。
さっき会ったばかりの名も知らない少女のためにそんなリスクを犯すことはしたくなかった。
ボクは仕方なく、彼女を家に泊めてあげることにした。
「君のお家が見つかるまで、しばらくの間はここに泊めてあげるよ」
彼女も不安だったらしく、その言葉を聞いて少し安心したような表情を見せた。
それでも彼女の表情の変化は小さくて、ほとんど無表情だったのだが。
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