第2話 流星は襲う

それは、逆流する流れ星に見えた。


梶美琴かじ みことは、泣きはらした目で空を凝視していた。


美琴は泣いている所を誰にも見られたくなかった。

神社のお清め場で何度も水をすくい、目元を何度も濡らしていた。

こんなところを人に見られても困ると周囲を見渡した時、空をよぎるそれを見たのだ。


「黒い流れ星?」


珍しい物を見た、本来流れ星とは地球に落下する隕石の事だろうと思っていた。逆流するように飛ぶ星もあるのだろうかと、美琴は瞬いた。


同時に頭の中に浮かんだ事がある。

流れ星が流れている間にお願いを三回唱えれば願いが叶う。


黒い流れ星はゆっくりと空を動いている。


本当は流れ星ではないかもしれない。

だが美琴の心は、異常事態より別件の事で悲しみに溢れていた。


「敦也と付き合えますように、敦也と付き合えますように、敦也と付き合えますように……」


心の中で強く願いながら、美琴は空しさで苦笑いした。


ずっと好きだった幼馴染の敦也。

好きな人が出来たと相手の名前をご丁寧に伝えられ告白するのでアドバイスが欲しいと相談された。

そして、しばらくは一緒に帰れないと告げられた。


告げられたそれはただの事実であり、たとえ彼が相手に振られたとしても、彼と美琴の関係は何も変わりはしない。

自分はただの幼馴染である。


そして相手は美琴と同じ部活に所属している由佳。


彼女は美琴経由で敦也に付き合っている人がいるか、好きな人がいるかを聞いてきたのだから、お互いの気持ちの伝え方さえ間違えなければ二人は相思相愛だ。


そして由佳から出来る限りのお膳立てを頼まれときも、自分も敦也が好きだとは口が裂けても言えず、敦也が決める事だと二人の時間を作る事を協力したし、二人が幸せならそれがいいとも思っていた。


「……絶対に叶うわけがないのに」


美琴は自分の頬を叩いて空を見た。


「あれ?」


流れ星が先ほどの位置から進んでいない。

それどころか、段々大きくなっていく。


美琴が気づいて、全力で逃げ出した時にはもう遅かった。


黒い流れ星は傘の形状に形を変え、走り出す美琴に狙いを定め、包み込むように飲み込み、そして球体に戻った。


神社の境内へと続く砂利道の中央に、巨大な丸い物体が鎮座している。


それは、木漏れ日から注ぐ日光の明かりを鈍く反射していたが、小刻みに震えたかと思うと、地面に押しつぶすように一度広がり、そして、一瞬で消えた。


砂利道には丸い何かの跡が残り、空から鉄製のボタンが落ちて石に紛れた。


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