第9話

 まず、この世界について話そう。

 この世界の名前は『ジルクヘイム』。

 王や皇帝によって統治された国、議会によって治められた国、様々な違いはあるがそれらが集まって形成されているのがこのジルクヘイムである。

 細かく見ていくと最も大きな大陸が『シュトラスト大陸』、その右下にシュトラスト大陸の大体十分の一程の大きさの『ウェルブ大陸』が存在している。

 そしてもう一つ、東に『ディエステ大陸』と言う大陸があるらしいのだが……この地は行き来が現時点で不可能であり、詳しい情報が存在しない未開の地とされている。

 行き来が不可能な理由は海上に特殊な魔力場が存在しているだとか、感覚を狂わせる何かがあるだとか、正直言って何一つ解明されていないと言っていい。

 海では無く空を行くという手段もあるにはあるのだが、その手段を持つ帝国が動こうとしないこと、そして神々から神託を与えられているとされるアファルティ聖教国が正式に『ディエステ大陸には関わるな』と発表している以上、何かがあるのだろう。

 それが一体何であるのかは分からないが。

 僕としても気になりはするのだが、神託といった形で発表がある以上関わらない方が吉なのを学んでいるために探るのをやめてしまっている。

 前に一度それを無視して行動した結果手痛いしっぺ返しを食らった経験が……。

 それは『ハイヒルド』と言う土地での魔物の話なのだけれど……いや、今はそれは置いておこう。

 丁度、『魔物』の話題も出たことだし今度はそれについて話そう。

『魔物』とは、この世界に存在するモノのことであり、人々を脅かすものでもあり、人々に恵みを齎すものでもある。

 尤も、近年では技術の発展と共に魔物の脅威は減少しつつあると言え、街で暮らす一般人にとってはそこまで気に留めるようなものではないと言えるだろう。

 ただし、辺境の村々やひっそりと僻地で暮らしている獣人・魔族、そして『冒険者』にとっては未だ明確な脅威である。

 魔物は主に獣のような形をした存在ではあるが、その凶暴性・生命力・特殊性は獣のそれを容易く凌駕する。

 その強さはピンキリであり、魔物と分類されてはいるが油断さえしたければ倒せるものから、魔物という枠を超えているのではないかと思う程強大なものまで存在している。

 とは言え先程も言った通り、魔物の性格のようなものは獣の一面が酷く顕著であり人の生活圏に入り込むことは少なく、森の深くや未開の地、そして『遺跡』といったところに生息していることが多い。

 以上のことから普通に過ごしていれば滅多に出会うものではなく、自ら望んで出会おうとする者はいない――と考えるかもしれないが、そうでもないのだ。

 魔物はその討伐の困難さと引き換えに、多くの恵みをもたらす。

 その毛皮は加工すれば鉄の軽鎧と同じだけの強度の革鎧に、その牙や爪は軽いが切れ味の良いナイフや武器に、モノによっては食用に適した肉を持つ魔物もいる。

 だが一番の恵みは――魔核であると言えるだろう。

 魔核とは魔物の体内に存在する特異器官の名称であり、人間社会で最も重宝されている物である。

 見た目は鈍く光る宝石のような物で、大きさや形はそれを体内に宿していた魔物によって異なる。

 魔核には、その魔物の保有していた魔力が貯蔵されており、この魔力を使うことで本来であれば使用には魔力が必要とされる魔道具といったものを一時的に使用することができるようになるのだ。

 ちなみに魔核が大きい、或いは、高品質なものであるほど貯蓄されている魔力量が多いとされている。

 この内部に魔力が貯蔵されているが為に魔力を必要とする魔道具を一時的とは言え扱えるようになる、というところが人間たちに重宝されている理由になるのだが――そうなるに至るにはまた別の理由が存在している。

 さて、ここからがランとセイラが望んでいた魔法に関する話と繋がってくる。

 人間たちが魔力を内包する魔核を重宝するようになったのは――人間たちの魔力量が少ない者が大半であることに由来している。

 魔力とは人なら誰しも持つ、その人物固有のエネルギーのことである。

 それ故に、理論上では誰しもこの魔力を用いて魔道具を使用することや魔法を行使することが可能――なのだが、実際には魔法を扱える者と扱えない者に分かれてしまっている。

 その理由は、魔道具を利用・魔法を発動させるための魔力量――出力が求められる最低値を下回っているからであると考えられる。

 魔力量自体は急速に増加することはなく、生まれた時にほぼ決まってしまっているおり、それを増加させていくことは困難である。

 例を挙げるとすれば……不確実ではあるが特殊な修行を行った者や、世界に現存する神秘に触れた者、神より使徒として力を与えられた者は魔力量が増加すると言われている。

 または、自らの格自体を上げる――適応種や希少種、上位種となることでも魔力量は増加する方法がある。

 何にせよ、魔力量はそう簡単には上げることはできない。

 よって、魔力量の不足のせいで魔法や魔道具を扱えなくなった人間の増加した現代では魔物の魔核が重要視されるようになったのだ。

 余談ではあるが、魔力量はスキルと違い、子孫に継承され易く種族や家系によって大きく異なる。

 そのため、貴族などは優れた血統を示すための一つとして魔力量の多い者を迎え入れることが多く、魔力量が多く魔法を扱えることがステータスの一つとなっている。

 しかし、今や魔核を用いて魔法を行使する兵器や、魔法よりも楽に扱える高威力の武器などもあるため、戦場においては魔力量の多寡はあまり関係ない……あくまでも一般兵の間では、の話だが。

 閑話休題。

 そんな訳で魔力について知ってもらったところでお次は魔法自体の話をしていこう。

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