屋敷での戦闘2


「おい嬢ちゃん。どういうつもりだ?」


フードの者が男をかかと落としをしたことで、周りの男たちが戦闘態勢に入る。

一番近くにいた男がそう聞いた。


「いや、ストレスを発散するものを探してたから丁寧に教えてあげただけだけど?」


悪びれずにフードの者は肩をすくめた。

ピキッ、と男達の額に青筋が入る。


「一、二、三、四、五………全部で十一人か……」

「おい、テメェ舐めてるようだから言っといてやるが、俺らは悪魔達と戦える者の集まりなんだ。テメェみたーなヒョロヒョロの女とは違うんだよ」

「そうだね。僕は君たちみたいな単細胞とは違うよ。あ、単細胞は一人でもいきていける素晴らしい生き物だから君たちとは違うか。どちらかというと多細胞かな。一人ではいきていけない可哀想な人達だもんね。しかも一人で生きていけないのに協力しようとしないバカの集まりだ」


あからさまな挑発。

男達はさらに青筋を増やしていき、少しプルプルと震え、顔が真っ赤だ。


「テメェ、手を出さないからっていい気になりやがって!!」


我慢の限界だったのか、男が殴りかかってくる。

喧嘩で殴るというのはごく普通のことだが、この男の場合、少し違かった。


まず、速さ。着ていた皮の防具が二つに分裂し、片方は後ろに置いてきぼりになり、残像が見えた。風を巻き起こし、殴りかかってくる姿はそのガタイの大きさと相まって鬼、と言っても過言ではないだろう。


そして、威力。蹴ったその足元にあった木の床が、先程フードの者がかかと落としをした時とは比べ物にならないほど凹んでいた。


なぜ、こんなにも異常なのか。それは彼の持つ軌跡の力によるものだった。

彼の軌跡は"身体向上"。単純な身体能力を何段階も向上させるものだった。


彼には見えただろう。彼の拳がフードの者の顔に入り、壁に激突し、意識を失う姿が。


しかしーーー


「そんな一直線の攻撃じゃ、当たんないよ」


ーーー避けられた。


軽々と、羽でもあるかのようにフワッと避けていく。


男が右手で殴ろうと、それは空気を殴り、続けて左足で蹴ろうと、前にあったテーブルを蹴り、壊していく。


左手、右手、左足、右手、左手、と見せかけて右足。フェイントも含めて攻撃しているが、男の攻撃はフードの者にかすりもしない。


「ちょこまか逃げてんじゃねぇ!!」


おお振りの一撃。その一撃は今までの拳よりも早く、重かった。


フードの者はそれを狙っていた、とばかりにニヤッと笑った。


その手を甲を上から掴み、肩のあたりに手を置くとその手を捻った。

そして手の甲を掴んでいた手を伸ばし、男の腕が直線になるようにし、そこから手を押した。男の力が腕へと返るように。


男がフードの者を殴る力の威力が自身の腕へと返ってくる。

ボキボキッと骨が折れる音と、ギチギチッと筋肉が切れる音がする。


「うぐぁあああああああああああああああああ!!!」


男はたまらず声を出し、膝を床につく。

ただし、フードの者は止まらない。

男が膝を床についた瞬間手を離し、男に回し蹴りをした。

男の顎に向かっていくその足は綺麗に入った。


顎が右側に傾き、頭が左側に傾くと、男はグラリと一度頭を回したら、目がグルンッと回り、白目となって泡を吹きながら倒れてしまった。脳震盪、と呼ばれる症状だった。


「身体向上は、身体能力が向上するだけで、骨や筋肉、内臓や脳までは向上しないんだよ」


その声は倒れた男を蔑むようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る