屋敷での戦闘


魔王の自爆から十五年。


かつて栄えた国は全て滅び、今はその場所は瓦礫の山でしかなかった。


人類も多くの者が死亡し、数は三分の一以下にまで減っていた。

それでもなんとか立て直そうと国は頑張ったが、それは叶わなかった。

人は暴動を起こし、盗み、殺人は当たり前。そんな無法地帯と化したのだ。当たり前だが、そんな国を維持できるわけがなく、次々と国が消えていった。食の王国と呼ばれた国も、剣の聖地と呼ばれた国も今は見る影もない。


「何が勇者だ!!何が守護者だ!!なんのために魔王の下まで向かったんだよ!!」


ここは新しく作られた街"ニュータウン"

新しく作られたといっても、壊された国のところから瓦礫を持ってきて、壁を作っただけのお粗末なものではあるが。


そんなニュータウンにある一つの屋敷。明らかに周りの家とは違い、一回りほどでかく、頑丈に作られている。

その場所では、屈強な男たちが酒を飲み、飯を食べ、酒場のような雰囲気になっていた。


そこにいたある一人の男性が声を荒げた。勇者ラインハルト・ペンドラゴンの絵が描かれている紙を持っていたナイフで机にブッ刺しながら。


「オメェたちが魔王を倒してりゃこんなことにはなんなかったんだよ!!」


魔王の自爆のせいで、滅びた国。減った人口。常に体に害がある毒の煙が世界中に蔓延した。


だから男は叫んだ。何故倒さなかった、と。

その男の叫びに便乗するように近くにいた男たちもそうだそうだ、と乗り始める。


それぞれ七人の顔が描かれた紙を木の木偶の坊に貼り、それを彼らと見立てて鬱憤を晴らす。それが彼らのストレス解消法だ。


十五年経った今、ラインハルト達は悪者扱いされている。魔王を倒しきれなかったこと。自爆を防げなかったこと。何より、魔王の残骸がいること。


魔王の残骸と名付けられる種族がいる。その種族の名は"悪魔"。

魔王が世界に災厄をもたらした後、急に現れてきた新種。それはかつての魔族のように、魔物のように人を殺し始めた。

今まで通りだったらまた、人を集め、その元凶を倒していただろう。しかし、現れたのは魔王が自爆してから。世界は混乱に満ちていたときだった。その為、人類は彼らになすすべもなくやられていく。


勿論その悪魔達に戦いを挑むもの達もいた。しかし、何故か今まで使えていた魔法が一切使えなくなっていたのだ。理由はわからない。使えない、という結果だけわかった状態だった。


だが、魔法が使えなくなった代わりに一人一人に特別な力が宿ることになった。狩りをしてきていたものも、兵士だったものも、盗賊だったものも、赤ん坊だったものも、全員に平等に分けられた力があった。人によって能力は違うが、確実に宿っているものだった。

その力を人は"軌跡"と呼び、その力を使って、悪魔達に対抗してきた。が、使い慣れていないその軌跡を使って悪魔達を倒すのは難しく、何より一つになって、協力しようとしない人類が大半を占めていたため、悪魔達に返り討ちにされるというのが多かった。


今はこうやって壁で囲み生きながらえているが、一度壁を壊されたのなら人間はなすすべもなくやられてしまうだろう。

魔王の自爆の後、協力という言葉を忘れた今の人間達ならば尚更だった。


「この野郎がっ!!」


ここは一応悪魔達と戦える屈強な男達が集っている場だ。

だから髪が貼り付けられた木偶の坊がすぐに壊れ始めるのも無理はなかった。


「ちっ!!もう壊れたか」


壊れた木偶の坊の頭を蹴っ飛ばしながら男は言う。


「何か代わりのものは……」

「あるよ、ここに」


その声は高かった。

薄汚れた灰色のフードを被っている百五十㎝程度の背の者だった。

フードからチラリと見える短く揃えられた純白の髪が、その白い肌が女性的だった。

ただ、男から見て、誰から見ても胸は残念だったが。


「ああ?どこにあるって?」

「なんか嫌な気持ちになったけどまぁいいや。…ほらここにあるじゃん」


フードの者は指を地面に指す。しかし、そこにあるのは少し変色している木の床のみだった。


「んだよ、どこにもねぇじゃねぇか」

「いや、ほらここだよここ」

「ああ?」


もう一度フードの者が下を指す。そこを覗き込むように男が屈むとすぐ横で何かが横切った。その横切った何かを男は知ることもなく意識が刈り取られることになる。


「グハァ!!」


フードの者が右足をあげ、垂直に踵を下ろした。いわゆるかかと落としというものだ。

ブォン、と風を切るような音とグシャ、という男の頭が潰れるようなーー潰れてはいないーー音が聞こえ、メキメキッという音をたてながら床の木が割れる。

そしてフードの者はその気絶して動かなくなった男の体を、地面の方向へ指を指し、こう言った。


「ね?ここにあったでしょ?クズ野郎が」


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