採用活動 二
局を後にした我々は、黒塗りの国産セダンに乗り込んで移動である。
運転手曰く、一時間もあれば現地に到着するとのこと。
車内にはハンドルを握る彼を除いて、自分と星崎さんの二人きり。共に後部座席に並んで腰掛けている。二回り近い年の差を思えば、共通の話題など皆目検討もつかない。自然と脳裏に浮かぶのは、異能力関連のあれやこれや。
そこでこの機会に色々と、知りたかったことを確認することにした。
「星崎さん、以前の件で少し気になったことがあるんですが」
「なに?」
「和服の女の子を覚えていますか?」
「あの能力者がどうかしたの?」
「なんでも異能力界隈では随分と有名な方なのだとか……」
「あぁ、そう言えば佐々木には教えていなかったわね」
そこまでを口にすると、彼女もこちらの言わんとすることに気付いた様子で、つらつらと語り始めた。なんでも彼のロリっ子は一対一の争いにおいて、非常に強力な能力を有する異能力者なのだという。
しかも幼い見た目に反して、実年齢は三桁を越えるのだとか。
気になる能力はエナジードレイン。触れた相手の生命力的な何かを吸い取り、自らのものとすることができるらしい。実年齢に対して圧倒的に若々しい外見や、人間離れした身体能力は、そうして得たエナジーにより齎されているのだとか。
ただし、彼女はランクAの中でもかなり下の方、ランクBに近しい位置にあるらしい。それじゃあランクAでも中間層以上の人たちは、どれくらいヤバイのだろうか。考えるだけでも恐ろしい。
ちなみに和服の子やハリケーンの人が所属するグループのトップが、正真正銘の中堅ランクAという話である。ただし、能力の詳細は未だに把握しきれておらず、色々と謎が多い人物でもあるのだとか。
「異能力というのは、随分と幅が広いものなのですね」
「彼女に捕捉、接近された上で生き永らえたのは、奇跡的なことなのよね」
「なるほど」
どうりで当時の彼女は、偉そうにドヤっていた訳である。
腕を組んでふんぞり返っていた童女の姿を思い起こす。
「けれど、集団戦となると話は変わってくるわ。たとえば先の件だと、同じく居合わせたテレキネシスの異能力者の方が、遥かに厄介になる。だから以前も、彼女は現場が落ち着くまで姿を表さずに、こちらの数が減ってからやって来たのでしょう?」
「思い返してみると、たしかに彼女は登場が遅かったですね」
「対象に直接触れなければならない、というのが大きな制限なのよね」
「たしかそれって、星崎さんも同じですよね?」
「私は対象が水だから、そこまで苦労することはないわ」
「それもそうですね」
「彼女がランクAとして扱われているのは、その異能力とは別に、長らく生きてきたことで育まれた知識と経験、メンタルが評価されてのことよ。あの能力者を運用する上で最も適切な現場は、恐らく間諜や暗殺ではないかしら」
「それはまた物騒なことで……」
「実際にそうした現場で姿を見られることが多いのよ」
「…………」
星崎さんの話を耳にした後だと、当時の自身の判断が最良であったと理解できる。あのロリっ娘に対する最適な戦法は、接近される前に撃破することだ。そう考えると雷撃の魔法こそ、極めて相性がいい対応策である。
きっと本人もこれを理解して素直に去っていったのだろう。
「どうして彼女たちが去っていったのか、まるで分からないわ」
「我々局員の戦力を削ることが、目的であったのではありませんか?」
「だったら私を生かしておく意味がない」
「何らかの理由や事情があって、局という組織は残しておきたい、という思惑が先方にあったのであれば、決して不思議ではありません。あるいはメッセンジャーとしての役割を与えられた、という可能性もあります」
「……そう」
これ以上はボウリング場での一件について話をしたくない。
ボロを出してしまいそうで怖い。
表情に乏しい星崎さんに、至近距離からジッと見つめられると、まるで心の内側を見透かされているような気分になる。あれこれと素直に喋ってしまいたい衝動に駆られる。年齢を偽るほどの厚い化粧と相まって、ちょっと不気味だ。
そこで適当に、他の話題を振ることにした。
「ところで星崎さん、今日は平日ですが学校は良かったのですか?」
「学校には局から連絡がいっているから、これと言って問題ないわ。卒業したらそのまま局に就職する予定だし、仕事がない平日に通学していれば、ちゃんと卒業させてくれるって課長が言っていたから」
「なるほど」
「望むのであれば、大学入学も融通してくれると言っていたわね」
裏口入学というやつだろうか。
バックにお国が付いていると、そういうことも平然とできてしまうのだろう。我々が所属する局は、自身が考えている以上に大きな力を備えているのかもしれない。おかげで何やら背筋が寒くなってきたぞ。
「意外とそういうところは恵まれているんですね」
「そうでもしないと能力者を確保しておけないのよ。人材の奪い合いの相手は、非正規の異能力者グループだけじゃないもの。異能力者の雇用は国内外で圧倒的な売り手市場だから、のほほんとしていると他所の国に簡単に取られてしまうわ」
「え、そうなんですか?」
「うちの局からも毎年何人か、他の国に引き抜かれているわよ」
「……それは知りませんでした」
異能力者に限らず一般の市場であっても、ことヒューマンリソースの扱いについて、日本は他国に遅れている。周回遅れと称しても過言ではないだろう。きっと異能力者についても、後手に回りまくっているのだろうなぁ、なんて思う。
だからだろうか、そうなると自身もまた色々と考えてしまう。
先に遭遇した非正規グループの背後には、本国と対立関係にある国が付いているとか、割と普通に考えられる。そうなると以前のお断りは、一変して事情が変わってくる。国内では非正規でも、他国では正規として扱われている可能性があるからだ。
誰だってより良い雇用条件でお仕事したいじゃないの。
「あら、欲が出てきたかしら?」
「いえいえ、そんな滅相もない」
「まあ、日本の異能力者に対する待遇は、この国にしては珍しくも悪くないわよ。課長や古株の局員が色々と頑張っているおかげで、諸外国と遜色ない扱いを受けているわ。だからこそ私も、こうして前向きに仕事に励んでいる」
「そうだったのですね」
よかった、早まらないで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます