ケース5 無断駐車編
これでまた一つ、町のDQNが取り除かれた……。
特に何か自分でしたわけではなく、僕はただ通報しただけなのであるが、なんだか公園の掃除や道のゴミ拾いをした時のような、そんな社会奉仕活動をするのにも似た清々しさを覚えてしまう。
「……ん?」
だが、そうしていい気分でいる僕の目に、ふと、駐車場の隅に停まる一台の黒いアメ車が映った。
その車にはたいへん見憶えがる……それはここ一月ぐらい、お客でもないのにずっと不当な駐車を繰り返している車だ。
持ち主の小金持ちっぽい若い男性は、「他のお客さんが使えないから」と注意してもまるで聞き入れようとはせず、さらに重ねて文句を言うと、逆に「この店が不親切だってSNSで拡散して炎上させるぞ!」と脅してくる始末だ。
他のヤツらへの対応ですっかり忘れていたが、これをDQNといわずして何をかDQNといわんや!
「店長! そういえば例の黒いアメ車! あいつ片付けますんで、さっそく
これまでの溜まりに溜まった鬱憤をようやく晴らせる……僕は嬉々としてコンビニ内へ走り戻ると、店長に〝ある掃除用具〟の使用許可を求めた。
それには店長も同じ思いだったらしく、歪んだ口元に白い歯を覗かせながら親指を立て、その取り扱い注意の〝掃除用具〟を一も二もなく貸し与えてくれる。
「これから粗大ゴミの焼却処分を行いまーす! 皆さん、ご注意くださーい!」
僕は再び外へ出ると周りに人がいないのを確認し、その清掃用具――ミサイルランチャーを肩に担いで憎っくき黒の大型アメ車へと標準を定める。
「ファイアーっ!」
ドォォォォォーン…!
気合とともに引金を引くや、モスグリーンの筒から放たれた飛翔体は大きな轟音をご町内に響かせ、不届き者の邪魔な車を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「フゥ~…………か・い・か・ん」
残骸から燃え上がる赤々とした炎を眺め、ストレスの根源を消滅させた僕は恍惚感に打ち震える。
きっと今日は僕意外にも、多くの人々が同じような快感に酔いしれていることだろう……だが、この画期的法律による恩恵は、そんな僕ら従業員のストレス解消ばかりではない。
こうしてDQNが取り締まられて社会からいなくなれば、彼らのためにさかれていた労力の無駄がなくなり、世界標準から見てガラパゴス化している過度な日本のサービスも改善されることであろう。
そうなれば、仕事をするにしても以前より気楽にできるようになり、バイト離れで苦しんでいる飲食業の人手不足問題も解消するかもしれない。
いや、それどころか、コミュ障や心の病でなかなか職につけずにいるニートやヒッキーの人々の社会に出る手助けとなる可能性も……。
これは、新しい時代の幕開けを感じる……行き詰まりを見せていたこの現代資本主義経済に一筋の光明が射したのだ。この国の未来はきっと明るいに違いな――。
「――おい、なにぼうっとした上にニヤニヤしてんだよ?」
不意に、そんな妙に苛立ちを覚える男の声がすぐ目の前で聞こえる。
「……あ! は、はい! すみません! えっと……ああ! いつものマイルドエイトでしたね! 少々お待ちを……」
その声に妄想から現実へと引き戻された僕は、しどろもどろに謝りながら、慌てて客の求めるタバコを棚から取り出して渡した。
「ったく気持ち悪ぃ野郎だな……文句つけたようと思ってたけど、気持ち悪いからもういいや。そんなんじゃ、どこ行っても使えないよ?」
DQNクレーマーとして有名なその男性客は、代金ちょうどのお金をテーブルの上に放り投げると、僕を見下すように眺めながら鼻で笑って自動ドアを出て行く。
しかも、「むしろ、おまえがな」という、どの口で言ってるのやらとツッコミたくなるような台詞まで最後に添えて。
「ありがとうございましたーっ!」
内心ひどくムカついたが店員としてケンカするわけにもいかず、僕は怒りを抑えながらDQN客に頭を下げる。
ま、現実なんてそんなもんだ……なんともままならぬ、この不条理な人間社会……。
(DQNなお客様は神様…ですか? 了)
DQNなお客様は神様…ですか? 平中なごん @HiranakaNagon
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