第55話 共同戦線



別に私は戦うことを楽しんでなんかない。


自分がどうして「魔女」なんて呼ばれてるのか。


エリスさんみたいに強くなる目的がある訳でも無く・・・


ファルティナさんみたいに純粋に対等な勝負を望む訳でも無く・・・


カザナさんのように戦いに美しさを見出す事もない。


私よりも歳が小さくて魔女になりたてのアリサちゃんでもベルちゃんに追い付こうと努力してる。


みんな前向きな気持ちで戦いに望んでいるけど。


私にはそれが無い。


前向きに戦いを望むという気持ちは無い。


あの時から私は「死」しか望んでいない。


戦いの中で「死」ぬ事。手を抜かずに精一杯戦って、それでも届かずに死んでゆく・・・。


それが私の願い。私の望み。




〜~〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




ヘスティアとイルムは空中を縦横無尽に飛び回り、自身の攻撃方法で攻めていく。

ヘスティアは多種多様な氷魔法で。

イルムは自身の体を分裂させ、硬質化させた触手で。


「ちっ! このっ!」

ヘスティアは怒声を上げ、高度を下げつつ距離を取りながら〈氷晶の霜砲〉メルクリアス・ヘイルカノンを六発放つ。

「穏やかさがぁ〜、足りないかなぁ〜」


それをイルムはマニューバを駆使して高速回避を行い、翼部分から黒い棘のようなものを幾つも放つ。

ヘスティアは向かってくる棘へと片手を掲げ、棘の位置情報を凍結させる。そしてもう片手から〈氷晶の蒼彗星〉メルクリアス・ブルーコメットを撃ち出した。


更にヘスティアの周囲に六つの魔法陣が形成され、その全てから〈氷晶の蒼彗星〉メルクリアス・ブルーコメットが放たれる。

「ええっとぉ〜。〈暴食の皇帝〉いただきます


全てを防ぎきれないと分かったイルムは体から幾つもの口が付いた触手を生やし、迫り来る〈氷晶の蒼彗星〉メルクリアス・ブルーコメットを全て触手を使って


〈氷晶の蒼彗星〉メルクリアス・ブルーコメットは幾つもの氷属性エネルギー弾を放つ魔法で、その威力は第六位魔法に相応しいもの。


それを捕食する、という事に驚きながらも空中で静止したヘスティア。

「その言い方だと・・・。"七大罪"カゴテリー、"暴食"の魔王因子かな?」


「おー。正解だよぉ〜。これが扱いにくくてさぁ〜、1100年生きててもぉ〜、未だに完璧じゃなくてさぁ〜」

仮面で隠れているため分かりにくいが、驚いた声を上げるイルム。

「・・・だからレプテンダールの時には使ってなかったんだね。魔王因子には意思があるから暴走を避けたって事?」


「そうだねぇ〜」

そう言いながら左腕を何本もの触手へと変化させてヘスティアへと向かわせる。 一瞬で距離を詰めた触手で突きの連続攻撃。

それらを全て回避しているヘスティアを見て、攻撃枚数が足りないと感じたイルムはそこから右腕や体からも触手を展開し、空を這わせる。


それを掻い潜りつつ後退していき、やがて地上スレスレの場所まで行くと〈氷晶の霜砲〉メルクリアス・ブルーコメットで反撃する。

イルムはそれを躱しつつ、三つの魔法陣を展開し黒い奔流を放つ。


ヘスティアは建物と建物を繋ぐ橋の下を潜り、無機物に当たると反射する光線系氷属性第六位魔法〈氷晶の極光波〉メルクリアス・オーロラレインを建物に向けて数発放つ。

魔法陣からオーロラのように色とりどりの光を放つ閃光が建物で反射し、イルムへと襲い掛かる。


そしてイルムは自身の体を魔法が縫うように穴を開け、回避する。

「・・・は? 化け物じゃん」

この戦闘中に何度も驚いていたヘスティアだが、ここでも似たような表情を浮かべていた。


「どの口でぇ〜、言ってるのかなぁ〜?」

と、少し硬直状態になった所で下から〈雷撃〉ライトニングが二人の間を通過する。


「あ、エリスさんだ」

「へぇ〜、講和を結んだんだぁ〜」

エリスの登場に喜ぶヘスティアと、〈念話〉メッセージでバーロンと連絡を取ったイルム。


エリスはジェスチャーで「早く来てください」と伝えた事で、二人の戦いは一度幕を閉じた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



俺達はエリスの連絡を受けてぐるぐる巻きになっているテルドを引っ張って宿へと戻ってきた。が・・・。

「なんでイルムとバーロンがいるんだ?」

中々の大所帯となっていた。


ロビーでくつろいでいるイルム。売店でお土産を買っているバーロンに、見知らぬ眼帯の人。

もちろん見知ったメンツもいる。どこかと連絡を取っているエリスに暖炉の前で芋虫状態になっているヘスティアだ。


征十郎はユタさんがいる部屋へと行き、アディルは俺の隣でぽけーっとしている。

そこへ見知らぬ眼帯の人が近寄ってきた。明らかに雰囲気が別格。その強さはエリス達と同格かもしれない。

「私は魔王ディステル。暫く貴様らと共同戦線を張ることとなった。よろしく頼む」

「・・・よろしくお願いします」


俺とディステルさんは互いに握手を交わす・・・。ゴツい。見た目は厨二病なのだが、手は明らかに戦い抜いてきた猛者というものがある。


「私は少し外へ出てくる」

「では供回りを準備致します・・・」

ディステルさんが外へ出ようとするとバーロンが自身の人形ドールから騎士風の人を創り出す。


「別段必要無いが・・・、まあいい。バーロン、細かな契約内容をエリス殿と話して来い。復活までのあと三日、悠長にしている暇は無い」

「畏まりました」

そしてディステルさんは宿の外へと出ていった所でエリスが近付いてくる。


「どうですか? 魔王と謳われる存在は伊達では無いですよね?」

ニコニコとしながら俺へと問いかけてくる。

「ああ。正直、俺なんかが話していい人じゃ無いだろ?」

「そうですね。あの方はエイストピア魔王連合第三公国の主ですし、その魔王連合公国の中でも上位の強さを誇ります」


魔王連合公国は、ここから南へ少し行ったところにある多数の魔王が治めている国々の事をそう呼んでいる。軍事力はもちろん、文明もそれなりに発展しているんだとか。


「さてさて。それではバーロンさん、始めましょう」

そう言ってエリスは今バーロンが座っているテーブルの向かい側に座る。

「ええ。我々からの要望は主にこれです」


バーロンはエリスに文字が書かれた紙を手渡す。


熾天使セラフ討伐まで互いの陣営に存在する者は協力し合う事。


熾天使セラフの復活方法は全てバーロン・ワリオルに委ねる事。


・ルミナレスの葉の取得は早い者勝ちだという事。


・ルミナレスの葉を取得出来なかった陣営は持っているルミナレスの葉を譲る事。


・強奪を試みた場合、もしくは上記の契約を反した場合、世界共通魔法契約法に基き即刻死刑に処す。


「以上です」

バーロンは眼鏡をかけ、ブリッジを上げる。

ルミナレスの葉とは俺達が求めている『世界を攻略する鍵』の事を指すらしい。それを熾天使セラフが所持しているらしく、ディステルさん側も欲しがっているのだとか。


正直目的が被っている以上、普通なら敵対関係のままなはずだが・・・。それほど円卓に座す神魔の王ワールドラウンズが強力という事なのだろう。

エリス、ヘスティア、ベル、ディステルさんやイルムがいても太刀打ちできないくらいに。


そして要求内容を見ると、少なからず向こうもルミナレスの葉を所持している事がわかる。

そして恐らくルミナレスの葉が一つでも欠けると効果が機能しないのかもしれない。

「よくお気づきで」


読心魔法を使用していたらしいバーロンが俺の方を向いて答えてくれた。

「九つの葉を第一の門へと掲げ、王の道を辿る事で『悠久への門』が開かれる・・・。らしいです」

「へえ〜、九つもあるんですか!」


どうやらエリスも知らなかったらしく、驚いた声をあげている。

「まあこれは後で話しましょうか。そちらの要望は?」

「はい。私達からは『ユタさんの安全保障』のみです。そちらの条件にこれを追加して頂ければ問題無いです」


・・・つまり熾天使セラフが持つルミナレスの葉は早い者勝ちで賛成という事か。そして今回の交渉でディステルさん側が確保したいのはこっちが持つルミナレスの葉なんだろうな。

「・・・レクトさん? 熱でも出ましたか?」

何故か本気でエリスに心配されてるんだが?


「い、いえ。レクトさんの頭の回転がそれなりに早かったので異常が発生してるのかと・・・」

「え、エリス? それ俺に対して超失礼だと思うよ?」

仮にも婚約者なんだからさぁ・・・。エリスも読心してるみたいだけどもう少し・・・その・・・配慮して欲しいよ。


「ふふっ。貴方達は面白いですね」

「お褒めに預かり光栄です」

そしてエリスは〈魔法画面〉マジックモニターを出し、契約内容を打ち込んでいく。


「上記の契約は正当なものである・・・っと。ディステルさんの配下という括りにさせて頂きました。ご確認下さい」

「ふむ。これで構いません。しかし・・・。代表がエリス殿では無くレクト殿ですか」


は?

「おいエリス、どういう事だ?」

「どういう事もなにもそのままの意味ですよ」

いやいや。だからそれが納得いかな・・・。

と、言いたかったが、エリスの目は真剣なものだった。


「私を信用してください。これだけは外せません」

「あ、ああ。分かった」

そう言ってエリスは俺から目を逸らし、バーロンの方向へと向ける。


「・・・」

逸らした最後の一瞬、エリスの目は何処か悲しそうな・・・。恐れるような目をしていたような気がした。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ふんふーん。雨だけどなんか気分がいいな〜」

鼻歌を歌いながら傘をさした有紗がスキップしていた。

ベルと有紗は二人で買い物をしていたのだが、途中氷柱の雨が降ったりとスローペースだったため、二手に別れていた。


「それにしても、死神さんが創る第五次元空間って便利だなぁ。買ったものそっちに入れればいいんだもん」

『扱いが荒いねぇ。これでもここは僕の領域なんだよ?』


契約生物が保有する第五次元空間は自身の意識内に存在し、それらを介して外界へ影響を与えるのだ。

そんな有紗は終始笑顔だ。

『・・・楽しそうだね』

「うん! 前の世界と違ってみんなとっても優しい!」


『まあ〜、凄くいい環境だよね。僕もリオとかメルがいるし』

滅界の七龍王セブンス・カタストロフィ・ドラゴンロード系統は他の契約生物とは違い、固有の第五次元空間もあるが、他の龍王との共有スペースと呼べる場所が存在する。


『"特異点"だと居場所があるのは確かだよね』

「・・・? 特異点?」

『気にしないで。こっちの話さ』

問いかけを受け流す死神さん、黒死の疫龍王ブラックペスト・ドラゴンロードこと間黒瑛司。


有紗が暫くるんるんキョロキョロとスキップしていると、何も無い所でつまづいてしまい、転びかけた。

「ふぇ!?」


すると誰かに抱えられ、転ばずにすむ。

「あ、ありがとうご・・・」

有紗が助けられた人の方を向くと、そこには見知った人が立っており・・・。

「偶然、だな」


それはかつてイルムと共に有紗を人体実験に使っていた男、ネイビス・ソルガリアの姿だった。

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