第56話 意外すぎる真実があるからゆっくりしていってね。



「・・・ネ、ネイビスさん?」

その顔を見た瞬間に支えられていた手を振り払い距離をとる。

ネイビス・ソルガリアは以前、有紗の体に存在する黒死の疫龍王ブラックペスト・ドラゴンロードから蝕黒死菌ブラックペストを取り出そうと人体実験を繰り返していたのだ。


するとネイビスは意外にも慌てる表情を浮かべた。

「ま、まてまて。あれはイルバやバーロンの計画で、俺の意見では無い」

「む・・・」

慌てながら説明し、オドオドするネイビス。


「俺も有紗くらいの年頃の娘がいてな。有紗にそういう事をするのは少し気が引ける」

「むう・・・」

有紗は疑わしげにネイビスの顔を覗いている。

「それに、その年代の子供に嫌われるのは心に刺さる。娘と重ねてしまってな。」


「・・・そういう事なら、まあ」

黒い瘴気を発していた有紗だったがそれを解除する。

「雨刻亭まで行くだろ? ついて行っていいか?」

「・・・いいけど、なんで知ってるの?」

「陛下とバーロンに呼ばれているからな」


有紗は疑問を浮かべた。なんで有紗達の宿へ、と。

その表情を見てネイビスは確信する。

「知らないのか? 俺達と手を組むらしい。詳しくは雷閃の魔女から聞いてくれ」

「エリスさん、また凄いこと考えてるのかな?」


以前有紗はエリスの作戦で自身の力をコントロール出来るようになった。そう考えるのも不思議では無い。

「・・・そう言えば、カストルス殿は?」

「え? ああベルは別れて買い物してるけど、多分もう戻ってるよ」


そうか、と言って二人は歩き出す。とそこでネイビスは有紗が持っているポーチに白いカートリッジの様ものと、白い恐竜の小さなキーホルダーが付いているのに気が付いた。

「有紗、そのキーホルダーはなんだ?」

「ん? 仮面ライダーWのファングメモリだよ?」


「ほう。仮面ライダーとはなんだ?」

聞きなれない言葉に興味を持ったらしく、問いかけを続ける。

そしてその言葉を聞いた瞬間に有紗の目が光った。(ように見えた)


「仮面ライダーっていうのはカッコイイお兄さん達が変身ベルトを使って最強の戦士に変身して、悪の怪人や組織、戦士を倒していく特撮もので、特にこの仮面ライダーWは二人で一人のライダーになるという初の(中略)そしてこのファングメモリは登場する(中略)白と黒という色合いと、メモリ名らしい無数の刃が(中略)さらにさらにマキシマムドライブのファングストラ(中略)それで、ファンの間では最強フォーム、CJGSよりも(中略)っていうものなの!」


「お、おう。そうか」

有紗は仮面ライダーWについて(特にファング)語りに語っていた。

「転移した時に持ってたから、そのまま持ってきてたんだ」


一通り聞き終えたネイビスが最後の言葉に注視する。

「転移か。やはり異世界は地球と違うだろう。実際、俺達に実験されてたくらいだ・・・、すまんデリカシーの無いことを言ってしまった」

途中ネイビスが口を滑らしたが、有紗はそれを笑って顔を向ける。


「いいよ。もうあの時とは違う、有紗は一人じゃない。ベルにレクトさん、アディルさんやエリスさんだっている」


有紗は再び前を向く。

「いこ! みんなが待ってるよ!」

「・・・そうだな」

ネイビスと有紗は弱い雨が降る中、傘をさして宿へと向かった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「おー。さむさむ。もう11月だね〜」

「いや、お前だけだぞ。この国は基本温暖だが四季がはっきりしてるらしいけどな」


バーロンさんは文官の仕事があるらしく、一度国へと戻った。エリスは風呂で、イルムは隣のソファーでゴロゴロしている。

俺はヘスティアダンゴムシのお守り。さっきアディルの前へと現れた時は白いローブ姿だったが、今は私服だ。


「氷使いなのになんでそんなに寒がりなんだ?」

「え? 知らない。そんな人もいるでしょ」

ヘスティアは素っ気なく答える。まあいつもの事だけどな。

「アディルさんは?」

「アイツはこの街にある自分の工房だ。・・・どこでもあるよな」


と、呟くとヘスティアが耳寄りな情報をくれた。

「クロウズナイト家って言えば世界的に有名な錬金術師の家系だからね。アディルさんは三男だけど、どこの企業からも引っ張りだこじゃない?」

「アイツ、そんなに有名なんだな」

正直、初耳だ。


「戦闘向けな人達は多いけど、鍛冶系や錬金術系は少ないからね。特にクロウズナイト家の場合はこういう大きな街だったら店は一軒はあるし、国外からもオーダーメイドを請け負ってるらしいよ」

「・・・凄いな」

これは転生した時に貰った才能なのだろう。ここまで顕著に差が出るものなのだろうか・・・。


「仕方ないんじゃなぁ〜い? 世界は平等じゃ無いんだしぃ〜」

と、俺の心を読んでいたらしいイルムが声をかけてきた。

「イルム達はぁ〜、『成功』してると思うけどぉ〜、そうじゃない人だってぇ〜、いる訳でしょぉ〜?」


「それが才能の差か」

「もちろんねぇ〜、自力で手に入れる方法もあるけどぉ〜。ある程度才能が無いとぉ〜、それも無理なんだよねぇ〜」

ぶっちゃけ、この世界に転移して来た時から俺はそういった『才能』があるという事を実感したことが無い。


最初の頃は異世界に武器を持ち込んだ事自体が特権なんだろうと思っていた。が、暫く旅をして思った。


「この世界では拳銃なんてただの玩具だからな」


と。だから何も無いままこっちに飛んできたのでは無いか、と最近は思っている。

すると俺の思考を読み始めたらしいヘスティアが口を開いた。

「それはどうかな?」

ヘスティアは俺の意見を否定する。


「いや、完全否定してる訳じゃないよ? 確かに才能は無いけど、『運』はあるよね。初めて出会ったのがエリスさんだったり、アムネルを倒したり。それに前の世界での親友だったアディルさんと出会ったり。それが求めてる『才能』だったりするんじゃないの?」

・・・言われてみればそうだな。


「だってぇ〜。アムネルもぉ〜。全盛期よりかなりぃ〜、弱ってたしぃ〜。倒せたのもぉ〜、運が良かったからだよねぇ〜」

ここでも初耳情報が。

「全盛期のアムネルだったらぁ〜、イルムよりも全然強かったたよぉ〜?」

「あー。らしいね。強さは超級種Bランクだけど実際はかの円卓に座す神魔の王ワールドラウンズの一角、『神託の指導者ゴッドファクティカー』モーセと互角レベルだったとか聞いた事ある」


つまり、元々のアムネルは世界の終末アルマゲドン級だったという事か? 俺、よく倒せたな。

「まあアムネルも年だったし。そういうのは結構あるんじゃない? イルムさんとか爆破爺さんみたいに歳をとりにくいとかならともかく、転生者って元々人間でしょ? 脳の容量とかやばいんじゃなかった?」


爆破爺さんというのはゼルヴィンさんの事のはず。俺も爺さんと呼んでいるが、爆破爺さんは無いだろ・・・。


「そうだねぇ〜。人の脳寿命がぁ〜、150年から170年らしいからぁ〜。肉体は大丈夫だとしてもぉ〜、容量が限界だとぉ〜、死んじゃうんじゃなかったっけぇ〜」

「・・・初耳だな」

こいつらは力だけじゃなくて知識まであるらしい。


まあつまり全盛期のアムネルは強すぎたらしい。

「ただいまー! ってイルバがいやがる!?」

ベルが買い物から戻ってきたらしい。手にはエコバッグのような大きな袋が二つ。


「てめえ、なんでここに?」

「えぇ〜? ディステル様のぉ〜、命令だよぉ〜。しばらくの間ぁ〜、よろしくねぇ〜」

「おい、にいちゃん! これはどういう事だ?」

と、言われても納得がいかなかったらしい。改めて事の経緯を説明する。


「はぁ〜、『鍵』ねえ。ここまで旅してようやく一個目かよ。俺らのやつと合わせても三つしかねえ」

「いやいやぁ〜、二つもある時点で凄いよぉ〜?」

と、ソファーにぽよんと座り直したイルム。


「魔王連合公国本部組織アガスティアがぁ〜。総出で600年集めてもぉ〜、まだ二つだからねぇ〜」

・・・それに比べて俺達は数ヶ月の間に二個か。

「ほらー。絶対レクトさんの能力でしょ『運』が凄いよ!」


なんかそう言われるとそう思っちゃうのがなんだかなぁ・・・。


と、納得しそうになった所で話題が変わる。

「そう言えば12月に魔法師序列上位総会があるけど、ベルはもちろん行くんだよね?」

「おう。最上位総会はちょい前にやったし頃合だな」


「ん? 何とか総会って二つあるが、何なんだ?」

全くわからんな。今日は初耳単語とか初耳な事が多いな。


と、尋ねるとヘスティアが抑揚の無い声で答えてくれる。

「ええっと。まずこの国は基本的に魔法師序列が高い人が国の方針を決められるんだけど、独裁を防ぐために上位五人が話し合う訳。これが魔法師序列最上位総会」


この国は政治家とか居ないんだな。まあ王国と名乗っている時点で王政なんだろうが。

「それでよく反乱が起きないよな」

「まあー陛下が強すぎるからね。で、その魔法師序列を考えるのが第一位から第十位までが集まる魔法師序列上位総会って事。あとは国の今後の流れを説明したりするかな」


これを聞いてると王国という要素が全く無い気がするんだが。

「そうでもないぜ。魔法師序列第一位、アイクレルト陛下の絶対的な力があれば下位の連中が何しようが対処出来るっちゅーわけ」

「第一位・・・。国王様とヘスティアだったらやっぱり国王様の方が強いの?」


と、俺が尋ねてみるとヘスティアが恐る恐る謙虚な表情を浮かべた。

「とんでもない。私は一応魔法師序列第二位だけど陛下の足元にも及ばないくらいだよ。というか、この世界で勝てる存在がいるのかすら微妙。エリスのお父さん、エリアル・セクトルス殿は世界でも五本の指に入るけど多分それ以上じゃない?」


「あの二人はぁ〜、円卓に座す神魔の王ワールドラウンズクラスだからねぇ〜」

「まあエリスの父ちゃんと陛下のどっちが一位になるか話し合ってたらしいからな。俺からすりゃ、どっちもだぜ」

音速を超えるスピードで戦闘するベルですらそういうのだから相当な化け物なんだろう。


「あれぇ〜? でもヘスティアが二位なんでしょぉ〜? ・・・あぁ〜」

「・・・おい、言うんじゃねえぞ?」

イルムが良からぬ真実、『エリアルさんが死んでいる』という事に気がついてしまったらしく、仮面の下で目を光らせた。(ように見えた)


「言わないよぉ〜。言ってもぉ〜、メリット無いしねぇ〜」

「なら良かった。イルムさんにバレたのって今話してたからだから私達に責任が乗る事になる訳でしょ? 変な死に方はしたくないなー」

どうやら相当な情報統制をしているらしく、イルムにすら伝わっていないようだった。


「ヘスティアはエリアルさんと話した事があるんだろ? どんな人で、どんな魔法を使うんだ?」

「いい人だよ。優しくて誰にでも協力的。エリスさんと同い年だけど役職上は同じ立場だって事でご飯も奢ってくれたりしたかな」


思い出を語る様にしみじみと話してくれる。

「それに前第二位って事でホントに強かったよ。星導の天龍王オルファリオ・ドラゴンロードの力を完璧にコントロールしてて、私以上の火力で吹き飛ばす。一発の魔法で一つの都市はおろか、小国も飛ばせるくらい」


いやそれお前らも出来るだろ。みたいな事を思ってしまう訳だが。

「私はコントロール出来ないしからね。『視界内の物質を凍結させる』だってもうそれで能力が固定化しちゃった訳でだから」


なるほど。龍王の力をコントロール出来てるか出来ていないかで相当変わってくる訳だ。

「あーもーメルが頑固だからなぁ〜」

そんな抑揚の無い声でタダをこねていると・・・。



「いやそれは私じゃなくて貴女の力不足なだけじゃないかしら、ヘスティア?」



ヘスティアの後ろには身軽そうな白と青のワンピースを着た水色の髪の女性が現れた。

「あれメル? 出てきたんだね」


・・・。

え? つまり・・・?

「あ、紹介するね。この人が私の契約龍、氷晶の霜龍王メルクリアス・ドラゴンロードね」

「皆様よろしくお願いします」

目の前で氷晶の霜龍王メルクリアス・ドラゴンロードが優雅にお辞儀をする・・・。


この時俺はただポカンと口を開けてるしか出来なかった。

いやだって。


カップ麺作ってる間に世界を滅ぼせる存在が目の前にいるのだから。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




さてさて。陛下に準備が完了したと報告しなければ。

私は〈念話〉メッセージを起動し、陛下へと連絡を取ります。

『どーも。俺に何か要かな?』

「先程はありがとうございました。恐らくですが、陛下の思惑通り進んでおります」


この状況こそ陛下が作り出したもの。私にあの情報を渡した事で生まれたのですから意図して作られたものだと考えるのが自然ですね。


と、考えていると陛下からため息が聞こえて来ました。何故でしょう。

『あのね、そのくらい分かってる。そんな事を伝えるために連絡をして来たのなら早くレクトくんの所に行ってあげなよ。これじゃあただの浮気者になっちゃうね』


はっ! なるほど。

「は、はい! 申し訳ございません。失礼します!」

『はいはい。浮気はダメだよ』

〈念話〉メッセージを切り、私は急いで部屋の扉を開けて一階へと向かいました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る