第51話 国王との会談

ヘスティアは地下街へと通じる教会の階段を降りる。

「・・・あーあ。こういう野蛮なのって好きじゃないかな」

ヘスティアの言う野蛮、というのは自身の好戦的な性格とは違ったもの。自身とは系統という意味だ。


仕立てのいい白のローブを着ているヘスティアは顔立ちが良い。マフィアやギャングの集まりであるこの場所で目をつけられるのは当然だ。

当たり前の様に数人の男がヘスティアへと近付いてくる。

「なあ姉ちゃん、今から俺達と遊ば・・・」


「触れないで」

ヘスティアは近寄って来た男達全員を氷漬けにし、爆散させる。

この爆散は気温と凍らせた時の温度差によるものでは無い。元々氷晶の霜龍王メルクリアス・ドラゴンロードの力を得ているため、ヘスティアが使用する氷魔法は『絶対零度を無視する』という現象が起きている。


ヘスティアはこれを『完全絶対零度パーフェクトアブソリュートゼロ』と呼んでおり、最低温度は優に−1000万度を下回る。


絶対零度は従来、温度の理論上の下限と考えられており、温度は物質粒子の平均エネルギー量と相関しているため、絶対零度においては粒子のエネルギーもゼロだと考えられていた。


しかし 完全絶対零度パーフェクトアブソリュートゼロそれを下回る。つまりは物質のエネルギーがマイナスへと転換する事を意味するという事。

この世でマイナスと化したエネルギー物質が存在する事を許されない。

なのでマイナスエネルギーの存在を確認出来るのは一瞬だけで、その瞬間が過ぎれば物質が自然消滅する。


それが今男達に起きた現象なのだ。

そんな事を理解出来るはずがない周りの人達は白目を剥きながらヘスティアから離れていく。

無論、ヘスティアは理論を理解しているのだが。

「・・・やりすぎたかな?」


完全絶対零度パーフェクトアブソリュートゼロ。アブソリュートがブルガリア語で絶対や完璧、という意味になるので完全というニュアンスが二重になるが、それがヘスティアの語彙力だ。


ヘスティアの思想的には、危険思想を持つ裏社会の人達を完全な悪とは認識していない。

ヘスティアの『悪』とは自身の外敵になりうる存在。自身と同格であり、自身の考え方とは違う存在の事。

個人的に嫌っていても彼らを無闇に殺したりはしないのが、ヘスティア・エイリプトという女だ。


恐れの目を向けられながらもヘスティアは鼻歌を歌いながら歩く。

しばらく行くと人集りが見えてくる。そこは集会所の様な役割を果たしている場所だ。

「・・・知ってるかな?」


今更ヘスティアがギャングに恐れる筈が無いので入口の前に並んでいる男達を押し退けようとする。

「あ? 後ろ並べよ」

「いや急いでるからどいて」

「てめえ、ふざけんなよ!」


我が物顔で道を譲れと言うヘスティアにキレたタトゥーが刻まれた男が殴りかかろうとする。

だが、殴りかかろうとしただけだ。

「あー。面倒くさっ」

男の拳が触れる前に凍り付き、爆散する。


「・・・ん〜。時間かかりそうなら全員爆散でいいかな?」

別の男達が振り向く前に凍結、爆散させる。

ここにいる人には王建章アイクレルトに定められた通り、人権は存在しない。故に殺しても罪には問われない。ましてや凍棘の魔女に裁判を突き付ける愚か者はいない。


「さてと。はやくいこ」

金属製の扉に触れ、凍結、爆散させる。

中にいた係員は驚いているが、ヘスティアは知らん顔。

「あ、ええっと・・・」


「魔王イルムがどこにいるか分かる?」

ヘスティアは氷で刃物を形成し、突き立てる。

「ひぃ!」

「驚いてる暇があったら早くおしえて」


と言うものの、係員は首を横に振って知らないと意思表示。

「・・・そう」

と、言って扉を出ていく。

そして都合がいい事に、遠くで爆音が聞こえてきた。

「お、ラッキー。メル、視力強化よろしく。〈虚空の万華鏡〉ホロウカレイドスコープ


ヘスティアが指定した方向に大きさが微粒子レベルの鏡が現れる。それを強化された肉眼で覗き、爆音が聞こえた場所を見る。

「ここから700mの場所・・・あ、いた。イルムさんと、バーロンさんが・・・二人?」


バーロンが二人いると思ってしまうのは無理も無いことだ。

「まあいっか。行けば分かる」

ヘスティアが思いっきり踏み込んだ床はミシミシと音を立てる。瞬間移動じみた速度で向かう。

天井をつたい、僅かな隙間を掴み、彗星の如く進んで行った。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「・・・」

私、エリスはアマトの高級料亭 "水仙"に来ています。この場所は木造の風情ある造りと、雨という要因を使う事で、ここから見える庭園を際立たせています。


エイリプトさんやアディルさん達が戦っている中で何故ここにいるのかと言うと。


「すまない。急に客が訪ねてきたものだから遅れちゃった」

と言って現れたのは金髪の男。ビシッとしたスーツを着ている彼は傍目から見ても優秀さを醸し出しています。


「お久しぶりです、陛下」

そう。アイクレルト王国三十四代目国王ウェスカー・ネルトス・ルイ・アイクレルト陛下です。

「ふん。誰かと思えば雷閃の魔女か」

そしてもう一人。体に炎を纏わせている異形の生物が。・・・少なくとも私よりは強い事は確定です。


「・・・陛下、隣の方は?」

木製の椅子に座っても燃えないのが面白い・・・。じゃなくて。

「ああ。この方は円卓に座す神魔の王ワールドラウンズが一人、生ける炎の神格フォーマルハウトことクトゥグア殿」


・・・化け物中の化け物が現れましたか。

『おいおい。やべえんじゃねえの?』

やばい、では済まされませんよ。


クトゥグア様。二つ名生ける炎の神格フォーマルハウトを冠する彼は円卓に座す神魔の王ワールドラウンズの中でも中堅に位置する強さです。中堅と言っても星々を軽く壊す力を持っていますが。


無限の数存在する炎の精を操り、太陽の如き豪炎で全てを焼き払う・・・。詩的な表現ですが、事実だそうです。『炎の精』は上位種Bランクで、かの悪魔カマエルと同じランク。

太陽のの如き豪炎というのもフォーマルハウトが1.16等級の星なので、明るい順に上から数えればあながち間違いでは無いですね。ただ、太陽は−26等級なので差は歴然ですけど。


「それで、御二方は私にどの様なご案件で?」

クトゥグア様は私には興味が無いようで、頼んだ食事を楽しんでいます。・・・その見た目で器用に箸を使っているのは中々シュールな絵面ですね。

『おい心読まれてたら死ぬぞ?』


ですね。

「今回は要件は二つ。まず一つ目は、序列上位総会のお知らせ」

陛下は食事に手を付けないままにこやかに話しかけて来ます。

「・・・序列上位総会ですか」


この手の会議は二種類あり、序列上位総会はアイクレルト王国魔法師序列が十位以上の魔法師のみが参加出来るものと、序列最上位総会というもので、五位以上のみが参加出来るものがあります。


序列最上位総会は年に何度かやっているそうですが、上位総会は三年に一度程度のものです。

「もうそんな時期でしたっけ。今年もまた王都ですかね。なら冬は王都で過ごすしか無いですね」

もう十月も終わりですから。冬に馬を出すことは出来ないので丁度いいと思うべきでしょう。


「・・・この時期となると魔法師序列が動くと考えてよろしいですよね?」

「・・・あむ。 そう考えておいてね」

ふう。やっとこの時がやって来ましたか。


『おいエリス、まさかお前・・・』

・・・なんですか? 私はそんな事考えていませんよ。もうそんな生き方は辞めています。

まあ今回の件が終わり次第、総会の方の準備を始めなければいけませんね。

私の想定上、この状況ならどちらに転ぶかわからない状態。



そしてどちらに転んでもこの国が大きく荒れるのは確か。最悪この国が滅ぶ事になるでしょう。



「それと最後に一つ」

陛下はその事が分からないのか、それとも敢えて見逃しているのかは分かりませんが、いつも通りそこの見えない笑みを見せています。


「クトゥグア殿は今回の一件では協力関係。一応条約を結んだよ」

だからここにいるという訳ですか。

「・・・今回の件、不透明な部分が多すぎて考える事が増えてしまいます」


まあこれでわかる事は円卓に座す神魔の王ワールドラウンズが手を出す程の案件という事。復活する対象も円卓に座す神魔の王ワールドラウンズですから当然と言えば当然ですか。

となると、各グループの目的もハッキリしてきましたね。


私達は征十郎さんに協力して、ユタさんを助けつつ熾天使セラフの復活を止めるというスタンス。


キリスト教団は、ユタさんを殺してでも熾天使セラフの復活を止めるスタンス。


バーロンさん達は・・・。おや?

「この場合だと、バーロンさん達にうま味がないのでは?」

といった私を見て目の前でニヤニヤしている陛下を一度置いておいて、少し考えてみましょうか。


バーロンさん達、魔王ディステル側はキリスト教団と手を組んでいる事を考えると、色々な仮説が浮かんできます。そこに私の考えを組み合わせてみます。

そうする事で自ずと魔王ディステル側の思惑が見えてきますね。


「どうかな? 多分彼らと君の目的は同じだと思うけど・・・?」

なんていいタイミングなのでしょう。陛下は私に独身魔法でも使っているのでしょうか。

「そうみたいですね。しかし、そうなると余計に負けられませんね」


・・・クトゥグア様の箸使いに感嘆しながら、私も焼き魚を一口。

白身魚特有の甘さと、ほろほろと崩れる身が美味しいです。

「・・・にしても陛下、いつから彼らの思惑に気がついていたのですか?」

「え? 俺の特殊技能スキルを知らない?」


あ、あー。『紫黒沌帝』では無い方の能力ですか。

「・・・その力で知識を手に入れたのですか? 盛大なですね」

「まあね。それでなんだけど、俺達と手を・・・。いや、やめとこうか」


ふむ? ・・・なるほど。

「まあいいでしょう。ところで、私はこの後すぐに行かなければなりません。お食事を出して頂いた身としては心苦しいのですが」

「うん。大丈夫だよ。それじゃ近い内に」


陛下がにこやかに送り出してくれるので、すんなりと店の外へと出ていきます。

未だに止まない雨の中、私は少し歩きます。

陛下がああ仰ったという事は・・・。


「どちらにせよ、という意味ですか」

今回の件。あまり深く考える必要は無さそうですね。

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