第45話 最後の一撃



〈幾星導く王の終喰〉オルファリオ・ロード・ラストエクリプス



エリスから放たれたのは全てを飲み込むと思われる程の光の螺旋。その方向に存在する物質や情報体、その何もかもを消し飛ばす圧倒的な火力を誇る第七位魔法だ。それは既にボロボロなこの星も簡単に貫通し、銀河の果てすら貫くだろう。


そしてその方向に地上で立っているヘスティアは獣の如き笑みでこの状況を楽しんでいる。

ヘスティアは体の情報を解凍して傷を受けていない状態へと戻す。

「これが今のエリスさんの全力・・・。最高だね! 全部凍らせてあげるよ!」

相対するべく、一度干渉していた領域を破棄し、 星を纏う氷が爆散する。そして新たに魔法陣を展開。ほぼそれはエリスと同じ大きさだ。


「メル! やるよ!」

『ええ。思いっきりね!』

ヘスティアは頷いた後、一度落ち着いてから魔法を呟く。



〈界凍する終の蒼星〉メルクリアス・エンド・ブルーノヴァ



その瞬間再び星が凍りつき・・・。いや空間が凍りつき蒼白い閃光が放たれる。



その光は吸血の竜王ブラッド・ドラゴンロードへと放った時とは桁違いの光量だ。

これの魔法は直線方向にある全てを問答無用で凍結させる魔法。第七位魔法らしい豪快な力技だ。

そしてお互いの最大火力を誇る魔法が直接ぶつかり合った。


キュワァァァン! という不思議な音を立て、激突面から空間が軋む。

「っ!」


凍結の光を破壊の光が飲み込み破壊し・・・。


破壊の光を凍結の光が瞬時に凍結させる。


「まだ拮抗していますか・・・。リオ!もっと力を下さい!」

「メル! パワーが全然足りてないよ!」

その言葉で二人の魔法は更に火力が上がる。


「「はぁぁぁぁぁ!!!」」

星は余波で地殻が剥がれ、剥き出しになった外核内核は所々凍りつき始めていた。普通ならこの高温で溶け死ぬヘスティアは魔法障壁によって自然と防がれている。


「っ!」

ヘスティアは空間の一部を凍結させて足場を創る。立てる地面はほぼ無いためだ。


「メル! まだやれるでしょ!」

氷晶の霜龍王メルクリアス・ドラゴンロードがヘスティアの言葉に反応したかのように魔法の威力が一気に上がっていく。


「ぐっ! ・・・リオ! 押し負けてしまいますよ!」

そしてエリスの魔法の威力も上がる。

既にエリス達の星は原型を留めておらず、周辺惑星すら余波でボロボロである。


「リオ! 全部! 何もかもぶっ壊して下さい! 」

その言葉で更に威力が上がった。

「メル! まだ足りない!」

ヘスティアの魔法も上がる。


そして・・・



二人の視界が白で塗りつぶされた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「むーん・・・。はっ! ここは?」

「お、エリス。目が覚めたのか」

馬車で横になっていたエリスの目が覚めたようなので、俺は一度作業を止めてエリスの方を向く。


「ええっと・・・。あの後どうなりましたか?」

「あの後? 魔法を撃った後の事か? あの魔法のぶつかり合いで魔道具の処理限界を超えたらしい」

そう。あの後、崩壊した反転世界から出てきたエリスとヘスティアは一言呟く間もなく倒れてしまったのだが不思議な事に傷は全てリセットされていた。


もうチェックアウトを済ませていたので二人を馬車で寝かせ、馬車に揺れながら俺は二人の様子を見ていたという訳だ。

「・・・そうでしたか。流石に第七位魔法のぶつかり合いを処理する事は出来ないのでしょうかね?」

「星が滅んでる状況の処理は出来てるなら問題無いはずなんだけどな」


とりあえず、この二人を戦わせるためにはロケットで他の星へと何日も飛ばなければいけないらしい。

「ヘスティアは上で二度寝してるぞ。多分アディルと雑談してるんだろうな」

二人は最近仲がいい。不思議な組み合わせだな。


「エイリプトさんも・・・。いえ。これ以上は無粋ですね。ところで、レクトさんは何をしているんですか?」

エリスは俺の周りに転がっている毛玉を見ながら尋ねてくる。

「これか? ただの編み物だよ。前に毛糸を買っただろ。それでちょっとな」


あまり誇れる事でも無いが、ちょっとしたプレゼント作りだ。

「そんな事よりも、次の街を教えてくれよ。アクベンスに頼るのも良いけど・・・。エリスから聞いた方がいいな」

そう言うと、エリスはにま〜っと、緩んだ笑顔を見せた。・・・その表情は珍しいな。


「えへへ〜。・・・えっと、次の街は『アマト』という街です」

アマト? 日本語みたいだな。

「アマトは一年中雨が降っている工業都市だそうです。それ以外の特徴として、人口の半分はキリストという宗教団体が占めています」


へー。雨がいつも降っているの・・・って!

「キリスト!? キリストって言ったか!?」

「え、ええ。言いましたけど・・・」

エリスが若干引いているな。


「あ、すまん。驚かせるつもりじゃ無かったんだが、キリスト教と聞いてつい・・・」

「キリスト教・・・。多分レクトさんの世界にもあったという事ですか?」

エリスには細かい説明は必要ないから楽だな。先読みされるのが少し癪だが。


「まあ、そんな所だ」

「ん〜。つまりレクトさんから来た転生者、もしくは転移者が広めたという事ですか・・・。そうなると・・・」

あ、エリスが自分の世界に入ってブツブツ呟いている。


「これは突っ込んではいけないやつだな」

なので俺は馬を引いているベルの方を向いた。

「チビ助、一般的な魔法師は後方での・・・」

「へぇー。私達魔女とは違うんだね」


・・・二人共仲睦まじい!

「こっちもダメかな?」

なので俺は編み物へと戻った。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




街を出てしばらく行くと道の外れに温泉宿を見つけたので今日はそこで泊まることにした。エリスとヘスティアも汗を早く流したいとの事だったので尚更だ。

という事で、俺とアディルは露天風呂で寛いでる真っ最中だ。

「ふぃ〜。これがジャパニーズ温泉か〜」

「日本じゃ無いけどな」


ただ、ここのお湯は日本の温泉と変わりないクオリティだ。ただ、飲み物持ち込み可能というのが日本との違うくらいか。これはこれでありだと思うが。

「露天風呂ってのがいいな!」

「確かに。意外と景色が良い」


ちょっと高めの山に夕焼けが重なって幻想的な風景を出している。

「・・・あの山って序盤でエリスの魔法で消し飛んでた所だよな?」

「言うな。・・・てゆーか、この星全部ぶっ飛んでただろうが」


それを言ったら元も子もない。

「俺は上がるぜ。元アメリカ人にゃ長風呂はきちーんだわ」

「俺はもう少し入ってようかな」

俺は持ち込んだコーヒー牛乳を飲み、再び肩まで湯に浸かる事にした。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




一方女子風呂。ここでは女子らしい恋の話・・・。

「そう言えばタリナザスの魔法師序列が動いたらしいですよ」

「あ? 誰が死んだんだよ?」


なんて、微塵もしていなかった。ベルとエリスは湯船に浸かって戦闘向けな話をしていた。

「いえ、新参者が三位にくい込んだそうです。まだ情報は少ないですが強者だそうですよ?」

「そいつは面白そうだな」


一方、ヘスティアは有紗の背中を流していた。

「えへへ。ありがとうございますエイリプトさん」

「いえいえ〜。あと、ヘスティアでいいよ」

「分かりましたヘスティアさん!」


そして二人はエリス達がいる湯船へと向かった。

「はぁ〜。暖かいな〜」

「ここのお湯47度なんですけどね?」

普通なら熱いくらいだ。


「・・・そうでした。エイリプトさん? アディルさんと仲がよろしいじゃないですか。一体どうしましたか?」

「んびゅぐ!?」

ヘスティアは明らかな同様している。何処か心当たりがある様だ。


「い、いやー。なんでもないよ」

「本当ですか? ・・・そういう事にしておきますか」

「ねえ。絶対に納得して無いよね?」

エリスはヘスティアの言葉を無視していく。


「エイリプトさんはここからどうするのですか?」

ヘスティアは軽く考えていた。この先どうするのかを。

「でも陛下次第かな。流石にこんな私的な旅に国家の最強格を四人も遊ばせる程余裕無いと思うし」

「確かにそうですよね・・・」


エリスは次に有紗の方を向いた。それだけでエリスの言いたいことが分かった有紗は静かに口を開いた。

「・・・出来ればついて行きたいです。これからもっと強くなれるならその可能性を近くで見ていたい。何よりベルがいるから。目標は近くで見ていたい」


それに関してエリスは賛成だった。というか、賛成しない理由が無い。

「それでは、旅の目的を話してしまいますか。・・・エイリプトさんも一応聞いておいて下さいね」


エリスがヘスティアに言ったのは、「ちょっと見聞よこせや」、という事が一つ。もう一つあるがここで説明する事では無い。

こうして、エリスは二人に度の趣旨を説明し始めた。


「・・・スケール大きくないですか?」

「全然知らないけど。そこら辺聞くなら陛下じゃない?」

「・・・ですよね」

エリスため息をこぼす。だが、これは分かっていたことだろう。


「そのため息で苦労を誘うの良くないよ。エリスさんだから余計にそう思っちゃう」

「・・・バレましたか」

そう言ってエリスは口元まで湯に浸かり、ぶくぶくと泡をたてた。


「いつも思っちまうんだよな。エリスはなんか企んでんなーって」

「企んでいない人なんているんですか?」

「少なくともアリサは穏やかそうだよね」

「ふぇ!?」

有紗は顔を真っ赤にして照れる。元々の世界では企みなんて出来るわけがないのだから当然だろう。


「・・・さて、私はそろそろ上がりますね〜。長風呂は好きじゃないですから」

「俺もそうすっかな」

「な、なら私も・・・」

そう言ってヘスティア以外の三人は出て行ってしまう。


「ええっ・・・。結局私一人なのね」

ぽつーんと残たヘスティアが湯船から出たのはここから30分後だった。




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