第44話 幾星導く王の終喰

「・・・次元が違い過ぎる」

俺達は〈魔法画面〉マジックモニターからエリス達の戦いを見ている。

これを見れば戦車や爆撃機、いや大陸間弾道ミサイルや核兵器すら生温いと思えてしまうものだ。


「ま、これでも第七位魔法は使ってねえよ」

はいでましたー。全力じゃないよ宣言。

「第七位魔法は世界の終わりを意味する。って、エリスが言ってたぜ。安易に使うと世界が滅んじまう」

相変わらず俺の婚約者は強い・・・。


「皆さん、見ましょうよ・・・あむ」

有紗はお菓子を食べながらキラキラとした目で画面を見ている。多分同じ魔女として自分がどこまで強くなれるかが知りたいのだろう。


俺もこっちを見てなきゃな。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




反転世界では、空中を音速以上の速さで縦横無尽駆け回り魔法戦を繰り広げている2人の魔女がいた。

空中には無数に張り巡らされている電流の網と、無数に飛び交う氷の弾丸と極太の雷。そしてそれらが魔女二人に当たらずに地上へ落ちて行き、無人の街を破壊して行く。

〈龍雷の雨〉レイン・ドラゴンライトニング〈星導の王砲〉オルファリオ・ロードカノンっとと、」


エリスは5000以上の魔法陣から放たれる氷の弾丸を回避しながら的確に魔法を撃っていく。数万の龍雷と、七本の巨大な光の粒子は事前に強化しているため、強化は省略してあるのだ。

「・・・これ既存の障壁で防げるかな? いや、辞めておこう。〈六重強化〉ゼクス〈氷晶の万壁〉メルクリアス・ウォール・クリスタル


ヘスティアは負けじと六枚の氷壁を生成する。太さが縦に500mもあるが、光の粒子と龍雷はいとも容易く貫通していく。

しかし、ヘスティアはエリスの背後にいた。

「なっ! いつの間にここへ!?」

「ゼロ距離ならどう? 〈氷晶の蒼砲〉メルクリアス・ブルーバースト


ゼロ距離で放たれた第六位魔法に加え、エリスの周囲に直径20mもの魔法陣が6つ生成され、ヘスティアが放ったのと同じ魔法、〈氷晶の蒼砲〉メルクリアス・ブルーバーストが放たれる。


「防ぐ・・・。のは無理そうですね。

エリスは特殊技能スキルを使用し、ヘスティアの背後へ回避し第六位魔法の猛攻を逃れる。


「今のは?」

「ただ自分の情報を書き換えただけですよ。さあて、まだまだここからですよ」

エリスは指を鳴らし、背後に数千の魔法陣を展開する。


〈幾星導く終無の輪〉オルファリオ・ロード・オブ・メビウス

エリスが展開した魔法陣から数万もの小さな光の輪が高速で撃ち出される。それは出しても出しても魔法が止まることはない。

これはエリスの第七位魔法だ。対象を消し飛ばすまでは輪の排出が止まらず、一度触れればその部分は跡形も無く消し飛ぶ。


「いや。ずるっ。まだ私は第七位魔法使ってないのに・・・。って、このままなら死ぬかな?」

そう言いながらも軽々と回避し、仕掛けてある魔法で 撃ち落とされ、その光の輪が地上に落ちて街を粉々にして行く。ここは既にレプテンダール上空では無く、そこから数百km離れた別の場所だ。


「仕掛けてある魔法を移動出来てなかったらとっくに死んでたね。あ、反撃しなきゃ・・・ってぁぁぁぁ!」


ズバッ!


ヘスティアの右足がエリスが持つ光の大剣で切り落とされる。そしてそこに追い打ちをかけるように光の輪がヘスティアの体を貫く。

「・・・勝負あり、でしょうか?」

ヘスティアの体は光の輪で穴だらけにされ、更に片足が無い。普通なら負けだと思っていいだろう。


普通なら、だ。ここに普通の人間は存在しない。



「いやいや〜。まだまだ動けるよ」



気がつくとヘスティアの体は片足だけ無いだけで、傷が一つも存在しないのだ。

エリスは少し驚いたが、納得の表情を浮かべる。

「・・・自分の体の情報を片足が斬られた段階で『凍結』させて置いたのですか。流石、と言うべきですね」

「エリスさんこそよく一撃を与えれたね。・・・多分一部の輪っかを別空間に仕舞っておいて罠として設置、そこから私の通り道に置いておくだけで・・・。って事かな?」


とはいえ、これはほぼ一瞬でできる芸当では無い。

エリスとヘスティアはこれら戦いの流れを熟知、先読みして行動する事でお互いの魔法を対象しているのだ。


「やっと第七位魔法を使って行く事にしましたが・・・。この星、持ちますかね?」

「ん〜? 無理そうだね。ぶっ壊す覚悟でやって行こうよ」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




いつまでも、雨は止まない。



この街は・・・。生まれた時から泣いている。



どうして・・・。泣いているのだろう?



・・・それを考えても無駄なのかも知れない。



僕にはやる事がある。それはとても重要な事。



例え一人の命で数万の命が救われるとしても・・・



僕は一人の大切な人を選ぶ愚か者。



・・・。



「これは聖人として生まれた僕の使命に反しているかも知れない」

僕は良くない子だ。聖人として、あまりにも無知で傲慢だ。

それでも・・・。


「・・・雨は止まないんだね」


今日も消えない・・・。雨の音・・・。


今日も消えない・・・。この気持ち・・・。


やはり僕の考えは我儘だ。


「それでも、僕は決めているから。例え世界が滅んでも僕は彼女を助けなきゃいけないんだ」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




現在、エリスとヘスティアの勝負は互角といった所だろう。

「エリスさん! 星の裏からなんて反則でしょ!」

「そっちこそ、星の裏まで領域干渉して来るなんて!」


エリスは今位置情報の『書換』で星の裏側まで行き、そこから〈星導の王砲〉オルファリオ・ロードカノンでヘスティアへと死角を利用した攻撃をしている。

一方ヘスティアはどこに移動されるか分からないので星を丸ごと凍結させて領域下へと置き、巨大な氷の杭で攻撃を仕掛ける。


「ん〜・・・。これじゃキリがないですね」


ズバッ!


エリスの左腕が杭へと刺さり、衝撃で腕が吹き飛ぶ。

「おっと、うっかりしていたら左腕が消えてしまいましたね・・・。しかし、手応え的にこちらもエイリプトさんの右半身は奪えているはず。ならばここらで決めに行きましょう」



エリスは再び位置情報を『書換』した。



「あれ? エリスさんが消えた?」

領域下なら高さ10km圏内は探知出来るヘスティアだが、エリスの飛んだ位置次第では追えなくなる。


「・・・消えてるのかな? 〈氷晶の凍棘〉メルクリアス・フリージングソーン

ヘスティアは気軽に魔法を使う。氷漬けの星全土に幾億もの棘が生え、空間を満遍なく串刺しにする。ここで、エリスが何らかの防御札を使っていればヘスティアはその場所へと集中砲火するのだが・・・。


「いない・・・。なら! 上か!」

そしてヘスティアが空を見上げる。そこにはエリスがいた。


遥か50km。成層圏界面付近に位置情報を書き換えたエリスは星導の天龍王オルファリオ・ドラゴンロードへと話しかけていた。

「・・・リオ。最後にドカンと一発撃ち込みます。ですが今の私では火力不足でしょう。なので、少しだけ、力を貸してくれませんか?」


『今も貸してやってんだろ?』


ぶっきらぼうにリオは言う。

「いえ、これでもまだ10%。にはあと10%必要です。・・・お願いします」


『はあぁ〜』

リオはため息をついた。このため息はいやいや、という訳では無く呆れの意味合いだとエリスは読み取った。

『使えよ。思いっきりぶちかませ!』


「はい!」

エリスはこの上ない程にいい笑顔を浮かべた。そしてエリスはヘスティアへ〈念話〉メッセージを繋いだ。

「エイリプトさん、今から星ごとエイリプトを殺します。なので・・・」


『真っ向勝負だね! 分かってる!』

ヘスティアが楽しそうに答えてくる。この言葉にエリスもほっとする。


「なら、遠慮なく行かせて貰いますよ!」

エリスはヘスティアのいる方向へと手をかざし、直径5kmもの超魔法陣を生成する。

ふぅ、と一息付き一瞬だけリラックス。即座に気を引き締める。



「『星を導く龍王は、喰らうが事く世界を滅ぼす・・・』」



ゆっくりと詠唱し、魔力を込める。まだ完全では無い分、こういった詠唱が必要となるのだ。



「『数多輝く星々を・・・、光の牙で終わりへと導き・・・』」



エリスも内心恥ずかしいが、本音で言うと、これはリオの好みなのだ。だからこうして詠唱する必要があるのだ。



「『終わりを迎えた星々は・・・、全てが虚無へと導かれん!』」



そして現段階でのエリス最大の第七位魔法が放たれる。



〈幾星導く王の終喰〉オルファリオ・ロード・ラストエクリプス





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