第三章 雨都の神童
第43話 魔女達の本気
俺達が
荷物を纏め、ロビーへと向かう。
「ふっふっ・・・」
「うーん・・・」
ロビーでは荷物を纏めたエリスとヘスティアが準備体操らしき事をしていた。
「・・・何をしてるんだ?」
「見ての通り準備体操ですよ」
なんでや・・・。
「言ってたじゃん。エリスさんとの全力勝負だよ」
・・・あ、そうだったな。
「ちょっと待て。どこでやるんだよ」
こいつらが暴れ回ったら・・・。この街どころか世界が滅ぶぞ?
そんな事を思っているとエリスが見覚えのある魔道具を持ってニコニコしていた。
「前に使ったじゃないですか。『
「星を壊すって・・・。冗談にしては笑えないな」
「まあ、
・・・不穏な事が聞こえたが、無視しておこう。
しばらくするとベルと有紗が二階の部屋部屋から荷物を持たずに降りてきた。
「・・・おー。おはよー」
「みんなおはよー」
「なんで荷物持ってないんだ?」
そして遅れてアディルも降りてくる。
「お前ら荷物持てよ・・・」
どうやらアディルが全部荷物を持っているようだ。
「大変そうだな。保護者かよ」
「あのガキ二人、急に態度でかくなったな。・・・強いから仕方ねえけどよ」
アディルも渋々、という訳か。でもその見た目で保護者やっているのは少し面白いな。
「・・・で? 嬢ちゃん達は何やってんだ?」
「約束通り模擬戦やるんだって」
それを聞いたアディルは面白そうにニヤリと笑った。
「いいなぁ。・・・お前はこいつらの本気を見た事ねえよな?」
・・・見た事が無いと言うよりどこが本気か分からないからな。
「まあ、無いな」
「魔女の名を冠する連中の本気なんてそうそう見れねえからな。よーく見とけよ。次元が違うからな」
そんなにか。・・・っと。お互い準備が整ったらしいな。
「こっちでも見れるように
と言って、エリスが六枚の
「それではエイリプトさん。行きますよ」
「それ私の魔道具なんだけど・・・。まあいいや」
こうして、二人は反転世界へと入って行った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お互いに立っているのは滞在中の宿を出てすぐの大通りだ。既にエリスは黒いドレス、ヘスティアは白いロードへと着替えている。二人は10m離れた所に立っていた。
「ここでなら思いっきりやれますね」
「ルールはどうする? 負けを認めるくらいにしておく?」
エリスは、それだと面白味が薄れますね〜、と言って少し考えている。
「・・・そのルールに追加しても?」
「いいよエリスさん。もう少し刺激的な方が楽しいしね」
「ん? 刺激的ですか。そう言えばあのイルバさんというスライムはどうでしたか?」
ヘスティアは唐突に尋ねられてポケっとした。
「ん〜。最初は弱いから殺そうかな〜とか思ってたけど。・・・強いよね?」
「今のエイリプトさんで勝てるかどうか、という所でしょうか?」
その言葉にヘスティアは苦笑する。
「エリスさんは正体を知ってるの?」
「ええ。ですが、ここで教えると楽しみが減るじゃないですか」
ヘスティアは少し残念そうな顔をした。
「で、エリスさんの追加ルールは?」
エリスは笑顔で口を開いた。
「そうですね〜。殺してしまっても文句は言わない、でどうでしょうか?」
常人からすれば明らかに異質なルール。ただの身内での私闘では過激すぎるルールだ。
だが、それでもヘスティアは今までとは違う楽しげな笑みを浮かべた。
「いいね〜。最高だよ」
そう。ここに常人はいない。故にこのルールはすんなりと受け入れられてしまう。
「それでは始めますか。・・・コイントスにしましょう。地面に着いたらスタートで」
「おっけー。念の為に、
フェアな戦いの為、事前に仕掛けてある魔法を破壊しておく。・・・最も、そんな物は無いが。
「それじゃあ行きますよー」
この世界の硬貨、100マルク硬貨が宙に上げられた。クルクルと、回りながら地面へと落ちていく。
「あ、最後に一言いいですか?」
コインが地に落ちるまで約2秒。エリスはヘスティアへと話しかける。
「いいよ。早めにね」
エリスはニヤリ、と久々に獰猛な笑みを見せた。
「殺す気で来てくださいね」
そしてヘスティアも同じ笑みを浮かべた。
「もちろんだよ」
そしてコインは綺麗な起動で地面へと落ち、キン!、という甲高い音を鳴らした。
「「
二人は同時に同じ魔法、しかし込められている内容は全く違う魔法を使用する。これにより上空や地上には総数18900個もの魔法陣が仕掛けられた。更にエリスには38枚もの防壁が、ヘスティアにも24枚の魔法防壁が現れた。
「先手必勝! 『私の前では全てが凍る』」
ヘスティアは
ヘスティアの視界に入っている全ての物質が凍りつき、地平の彼方まで爆散する。
ヘスティアが見えている部分の街全てが消え去り、後ろの水や木々すらも消滅した。
「
ただ一人。エリスを除いて、だが。
エリスの
「凍結して・・・。
ヘスティアは周囲の空気の情報を凍結し、不動の盾にした。そして反撃の第六位魔法を使った。空に生成した千近い魔法陣から直径10mもの巨大な氷弾が尋常ではない量が放たれる。
「その程度なら・・・
かつてエルフィムで放った魔法。その三重強化を氷弾へ向かって放つ。器用に魔法陣を動かし、全ての氷弾を撃ち落とす。
このほぼ一瞬だけでレプテンダールの街は巨大なクレーターだらけになっており、街があったとは考えられない様な状態だ。ヘスティアの前は綺麗さっぱり消えていたり、エリスが氷弾を撃ち落とすために使った
「流石にエリスさん・・・。あの魔法を使うのは反則じゃない?」
「いやいや。それ以外にメルの能力を防げませんよ」
呆れたように話すエリス。そしてそれにも呆れたヘスティア。
「メルの能力、『視界内の物質を凍結させる』というのは物質にしか効かないので、私はリオの
サラッと常識外な事を言うエリス。
「でもメルのもう一つの能力、『一定範囲内の即時情報凍結』と、『魔法による情報凍結』は防げない。だからエリスさんは魔法防壁の一つに『情報操作不可』を使ってるんだね」
「お見事。正解ですよ。エイリプトさんに効果がある魔法防壁の内、私が保有しているのは約18種類。ただ、未強化で使った所で紙切れ以下の効果しか無いです。なので使っているのは七種類程ですよ」
エリスが使用している魔法防壁は、『情報体凍結不可』、『情報体攻撃軽減』、『氷属性攻撃軽減』、『低位魔法攻撃無効化』、『低位魔法攻撃軽減』、『魔力攻撃軽減』、『上位魔法攻撃軽減』である。それを強化、増やす事で枚数が多くなっているのだ。
「うーん。物量で戦うのが氷魔法なんだけどな・・・。まあ、視界も広くなったし、やりやすいかも。とりあえず魔法攻撃で情報体にダメージを与えていくくらいかな」
ヘスティアは作戦を決める。
「さて、私は破壊力特化ですので・・・。行かせて貰いますか。
エリスは空中へと浮遊しながら魔法を唱え、長さ500mの光の剣を数百本生成する。そして音速を超えた速さでヘスティアへと落とす。
以前ならば
「ええっと・・・。これも第六位魔法かな? 多分『情報構造強化』が付与されてるから・・・」
そしてヘスティアは元々楽しそうだったが、更に楽しそうな笑顔を浮かべた。
「全部撃ち落とすしか無いでしょー。
ヘスティアは七つの魔法陣を展開し、全方位から向かってくる光の剣へと魔法を撃つ。撃った後、氷の砲撃は空中で拡散し、糸の様に空間を縫って光の剣を貫通しながら凍らせていく。
そしてヘスティアが指をパチン、と鳴らして光の剣を崩壊させる。
「
先程の六倍の威力で、そして36倍の本数の砲撃が放たれる。
「ならばっ!」
エリスは指を鳴らし、
案の定機雷を貫くが、機雷が爆破し
やがて3秒もしない内に全ての
「・・・エリスさん。この現象はよく分からないよ。ちょっと教えて」
ヘスティアは飛行魔法で浮遊しているエリスを見上げた。
「ならこれが終わって生きていたら教えてあげますよ。・・・さあ、続けましょう!」
エリスは楽しそうに次の魔法の準備をした。
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